第6話 一緒にゲーム
「ゲームしませんか?」
ユーリはダイニングに足早に戻り、真顔でライラに声を掛けた。
「はぁ?ゲームゥ」
ライラは訳がわからないといった顔をした。
意図を汲み取ろうと、ユーリの顔を注意深く見つめるが、表情は全く変わらない。
真顔のままである。
何を考えているのかさっぱりだ。
「準備はできています。PCルームに来てください」
淡々とそれだけ言って、ユーリは先にPCルームへ行ってしまった。
ライラが渋々後を追ってPCルームに入ると、ディスプレイにはファンタジーの世界のようなグラフィックが映し出されている。
ライラはそれをまじまじと眺める。
「はい、これをどうぞ」
ユーリからコントローラーを渡される。
だが、ライラはそれの使い方がわからず、ポカンとしている。
「これなに?」
「コントローラーです。これを使ってゲームをプレイします」
「コントローラー?」
ライラは手に持った黒い物体をじっと見つめる。
幼少期から殺し屋稼業に明け暮れていたライラは、ゲームなんてしたことがない。
ゲームはおろかPCなどの電子機器の取り扱いも極端に不得手だ。
いわゆる機械音痴だった。
スマートフォンすら通話程度の機能しか使えない。
そんなこと知る由もないユーリは、軽い気持ちでライラに操作指示を出す。
「では簡単な操作から。前に進んでみてください」
「前に進むのね。わかったわ」
ライラはイスから立ち上がりドア付近まで移動すると、ディスプレイに向かって真っすぐ歩き出す。
「・・・なにをしているのでしょうか」
ユーリは真顔のままライラに尋ねる。
「あんたが前に進めって言ったからその通りにしたのよ」
ライラは不思議そうな顔で答える。
冗談でやったわけではなさそうだ。
「身体ではなく手を動かしてください。コントローラーを操作するんです」
「手を動かす?こんな感じ?」
ライラはコントローラーをぶんぶんとヌンチャクのように振り回す。
ユーリの人形のような無表情が少し崩れる。
ほんのわずかだが、眉間に皺が寄っている。
「違います。コントローラーにボタンが付いているでしょう。それを押すんです」
「ああ、これを押せばいいのね」
コントローラーのボタンを力の限り押す。
ミシミシと変な音がしている。
ユーリはそれを異世界の生き物でも見るような目で眺めていた。
「まずは基本動作を一から教えないと、ダメみたいですね」
コントローラーと格闘するライラを見て、ユーリはぽつりと呟く。
その後、ユーリの努力の甲斐もあって、基本操作はなんとかできるようになった。
「では、実際に皆さんと一緒にプレイしてみましょう」
ユーリはそう言って、ライラをプレイヤーたちのもとへ案内した。
『あ、Yさん来た』
『いらっしゃ~い。これからラスボス戦だから、一緒に行きましょ』
ユーリを迎え入れたプレイヤーたちは、その隣で無意味に回転するキャラクターに目を止めた。
『その人が例のルームメイト?』
『待ってたよ、はじめまして。あはは、すごいはしゃいでるねぇ』
ライラを歓迎するプレイヤーたち。
だがライラは相変わらずぐるぐると回り続けている。
なぜか万歳しながらジャンプもしている。
『すいません。この人はあまり気にしないでください』
なんで回ってんのよと喚くライラを横目に見ながら、ユーリは冷静に言った。
プレイヤー達とともに、ライラ達はラスボス戦に挑む。
ラスボスは巨大なドラゴンのような姿で、もの凄く迫力がある。
ライラの周りに置かれたディスプレイいっぱいにその姿が映し出され、そのまま画面から飛び出してきそうだった。
『うわぁーーー来たわよ!!どうすんのユーリ!?』
ライラは音声チャットをしているにもかかわらず、ユーリのハンドルネームではなく、本名を大声で叫んでいる。
『本名を呼ばないで下さい。身バレします。ネットリテラシーというものを知らないんですか?』
ユーリはそう注意するも、パニック状態のライラには届いていないようだ。
その後も何度となくユーリ、ユーリと絶叫するライラに、さすがのユーリも注意するのを諦めた。
『わかりました、もういいのでゲームに集中しましょう』
『ユーリ、やばいわよ!もう逃げ場がない!』
ラスボスが、一歩、また一歩とこちらに迫ってくる。
ライラはぎゅっと固く拳を握りしめる。
そして、決意したような顔でディスプレイを睨みつける。
『そっちがその気なら、やってやるわよ!』
そう言うが早いか、ライラは右拳を全力で正面のメインディスプレイに叩き込んだ。
ライラの拳はディスプレイを破壊し、そのまま画面をブラックアウトさせた。
「やった、勝ったわ!」
ライラは拳を天に突き上げ、高らかに叫んだ。
その満足そうな表情の横で、ユーリは信じられないものを見る目付きでライラを眺める。
そして正面を向き直り、今しがた破壊されたディスプレイをぼんやりと見つめる。
「・・・予備のディスプレイ、取ってこなきゃ」
ユーリはぼそりと独り言のように呟いた。
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