第9話 助手見習い 2

「では、今日は村の案内も兼ねて聞き込みをしましょう。」

 翌日、聞き込みをするということで話がまとまったので早速始めようとしていたのだが……。

「……早くから聞き込みするって言ったの、あなたですよね?」

「ふわぁ……。」

 目の前には大きなあくびをしているクレアさんがいる。

 どうやら彼女は朝には弱いようだ。

「いやぁ私実は朝弱いんだよね。」

「……見れば分かります。」

 見るからに眠そうである。

 昨日までの頼もしさは一体どこに行ったのか……。

「ん~、それにしても良い朝だね!よし!では行こうか!行き先は助手君に任せよう!」

 大きく伸びをするとスイッチを切り替えたように雰囲気が変わった。

 これが仕事モードなのだろう。

 あとまだ助手になるとは言っていない。

 常にこの状態であってほしいのだが。

「じゃあ、まずは交番へ行ってみましょう。昨日の男たちが何か話したかもしれません。」

 うんうんと頷くクレアさん。

 どうやら間違ってはいないようだ。


「いや、それが何も口を割らないんだよ。取り敢えず本部からの応援は、あと数日かかると思うからそれまで頑張ってみるよ。」

「ありがとうございます。何か分かったらよろしくお願いします。」

 警察にはこと細かく事情を説明して引き渡した。

 両親のことも含めて伝えたのだが、奴等の息がかかっているせいか、両親についてはまともに聞いてもくれなかった。

 というか連れ去られた事を信じてはくれなかったのだ。

 だが、男たちについては前科があったらしく引き取ってくれた。

 クレアさん曰く、本部の連中なら異世界犯罪について詳しいやつもいるだろうから、それに頼るしかないと言っていた。

 異世界人を名乗る奴等が首を突っ込んでくるかもと思ったが、道連れを恐れてか何もしてこなかった。

 この警察の方面からは何も情報は得られそうに無い。

「じゃあ、次は風車のところへ行ってみましょう。」

「風車?」

 この村にはシンボルになっている大きな風車がある。

 風車は様々な事に使われているが、それ以上に注目を浴びる理由が、その持ち主が変わっているのだ。

 なぜかは詳しくは知らないが、その人物は村でもかなりの変わり者で首都からわざわざ風車で暮らしたいという理由でここまで来たのだ。

 既存の風車を改造し人が住めるようにしたのだ。

 村の者達も追い出す事を考えたが風車はいつも通りに使わせてもらえるので、何もしないことで話がついたのだ。

 それどころか村の仕事もかなりやってくれているので、村の人間からしたらとても助かっている。

「あそこなら高台にあるのでこの村をかなり見渡せますし、住人が何か見ているかもしれません。」

「なるほど、良いね。行ってみよう。」


「何か変わった事?あぁそういえば、最近来たあの異世界人?とか言う奴等が昨日の夜、大きな荷物を運んでたな。」

「大きな荷物?」

 この風車の住人は異世界人の息のかかっていない村人のようだ。

「何か布がかけてあったんだけどよ、大きな四角い物をあっちの隣村の方角へ持っていってたな。」

「なるほど、ありがとうございました。他に何かありますか?」

 すると、男は腕を組んで不満そうな顔をする。

「さっさとあの異世界人って奴等を追い出してくれねぇか!?夜もうるさくてな、落ち着いて景色を見れねぇんだよ!それに、村の奴等も毒されて俺に異世界の物だって言う変な商品買わせようとするんだよ!」

 もう少し話を聞いてみたいがめんどくさいと感じてしまった。

 この人は少しスイッチが入ると止まらないのだ。

「分かりました。努力します。」

「おう!頼んだぞ!」


「さて、助手君。」

「はい?」

 村の中心に聞き込みに行く途中クレアさんに話しかけられる。

「さっきの面倒臭くなったろ?」

「あ、はい。」

 見透かされていた。

 どうやら結構ちゃんと採点されているらしい。

「彼、結構重要な事を言っていたのには気づいたかい?」

「はい。大きな荷物を運んでいたというところですよね。」

 しかし、クレアさんはこの回答には満足していない様子だ。

「情報が足りないんだ。もっと詳しく聞くべきだった。」

「詳しく?」

 どうやら失敗したらしい。

 だが、昨日の一件で失敗することも大事だと教わったので、特に悔しくは無い。


 これだけでも成長なのだろうか。

「ああ、どれくらいの大きさだったのか、どういう方法で運搬していたのか、どんな商品を買わされそうになったのかとかね。」

「ああ、実は奴等が商品をいっつもこの村に持ってきてるのは有名なんです。その時の荷物の大きさは知っているので、それを知っている彼が、大きいと言うことは恐らく人が入るくらいの大きさだと思われます。運び方もいつも馬車なのであの人がそこに違和感を感じなかったということは変わらず馬車だったんだと思います。あと、商品については……、痛っ!」

 話しているといきなりデコピンを食らった。

 かなり痛い。

 この人結構鍛えてるな。

 デコピンだけでこの威力か。

「それの確認を取りなさい。」

「か、確認ですか?」

 おでこを押さえつつ聞き返す。

「さっきから君は『思います。』とか『思われます。』なんて言っていた。つまり君のそれはまだ思い込みの段階だ。村の一般常識として奴等が商品を運んできているのを風車の男は知らないかもしれない。あの時、あの場でどれくらいの大きさなのかを聞くべきだった。自分が知っていることを誰もが知っていると思ったら大間違いだ。」

「で、でも……、痛っ!」

 またデコピンを食らう。

 さっきよりも強い。

 尋常じゃない痛さだ。

「でも、じゃない。人命に関わることなんだ。ほんの少しでも不確定要素を潰していかなければならないんだよ。些細なことでも確認するのは大事な事さ。」

「……分かりました。」

 分かればよろしい、と、腕を組むクレアさん。

「買わされそうになった商品についてはこれから聞くんだろう?さっき言われたことを意識しながらやってみるといい。」

「はい!」

 買わされた商品というのが分かれば荷物の量や重量が分かる。

 そうすれば昨夜運んでいたという物が自分の両親であるかどうかの推測が可能になる。

 さあ、デコピンされないように頑張るとしよう。

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