第2話 依頼者 1
新王国歴208年2月1日。
その日は雪が降っていた。
街行く人々は寒さに慣れていないのか厚着をしている。
自分の村は標高の高いところにあるので基本的に寒く、周りと比べると自分は薄着である。
周りからの視線が集まっている気がするが、そんなことはどうでも良い。
自分は田舎からとある用事があって首都の方へ出向いていた。
「……すごい!」
初めて見る光景に興奮しながら汽車を降りる。
大きな道を馬車が行き交い、所々に最近出回ってきた自動車が走っている。
都会では蒸気機関というものが発達しており、何でもできるらしい。
建造物も大きなものが多く、見えるもの全てが珍しい。
「痛っ!」
「おっと、大丈夫かい?」
前を見ずに歩いていると人にぶつかってしまった。
……咄嗟に痛いと言ってしまったが、痛くはなかった。
何故なら、ぶつかったのは女性で丁度顔の位置に相手のふくよかな胸部があったからだ。
「す、すいません!」
「大丈夫さ。ちゃんと前を見て歩くんだよ。少年。」
そう言うと白衣を着た女性は去っていった。
長い黒髪をなびかせるその姿は美人と言っても良いだろう。
その後ろ姿に見惚れていたことに気づき、急いで母からもらった地図に目を通し、目的地に向かうことにする。
結局目的地は先程の女性とぶつかった辺りだった。
物珍しさにあちらこちらを見ながら歩いていたら、いつの間にか時間のみが過ぎて行っていた。
とても大きな建物を前にして、本当にここで合っているのか何度も地図を見直す。
母が作った地図はとても分かりにくく、本当に苦労する。
か、恐らくここで合っているのだろう。
「まぁ、間違ってても聞いてみれば良いか!」
扉をノックしようとしたその時後ろから声をかけられる。
「……今日はお休みです。」
「えっ!?」
後ろを振り返るとそこには先程の女性がいた。
「あ、あなたは先程の!」
「ん?あぁ、さっきの少年か。どうしたんだい?こんなところに。……これも何かの縁だ、せっかくだから話くらいは聞いてあげる。取り敢えず入りなよ。」
女性は扉を開け、中へと案内される。
案内されるがままに入っていく。
ソファへ座るように誘導され、お茶と菓子を出される。
他に人は居なかった。
「すまないね。さっきも言ったけど今日は休みでさ、いつもならもうとょっとマシな物を出せたんだけど。」
と言ってもテーブルに出されているものは田舎では決して出回る事はない高級品である。
「そ、そんな!ありがとうございます!頂きます!」
そう言い、出されたお茶を飲む。
お茶はとても美味しいものだった。
「お、美味しいです!」
「そうかい?ありがとう。」
女性は軽く微笑む。
やはりとても綺麗だと感じてしまう。
「それで、要件は自分の住んでいる田舎で異世界人関連で問題が発生したから解決してほしいってところかい?」
「え!?何故それを!?」
すると女性は笑いかけ、菓子を指差す。
「まず、その菓子はこの辺りでは皆普通に食べている物だ。都市部は高所得者がほとんどだから、当たり前に食べられているものを高級品という時点で都市部出身ではない可能性が高くなった。」
このわずかな時間の間によく観察されていたようだった。
「で、でもだからといって田舎者だとは……。」
「ふふ、あれだけキョロキョロしてたら誰でもわかるさ。」
知らぬ間に田舎丸出しだったようだ。
少し恥ずかしくなってくる。
その様子を面白そうに見てくる。
「で、ここは異世界について調べる施設だ。最近転生者による事件が増えていてね。そういった案件も増えてきている。ここに要件があるってことはそういうことだろう?」
全て当たっている。
というか自分がわかり易すぎたのだろう。
そして、転生者とは異世界、向こうからすればこちらが異世界なのだろうが、こことは違う世界から転生してきた人のことを指す。
転生者は最初から転生者だったわけではなく、この世界の住民が何らかのきっかけで前世の異世界の記憶を取り戻すらしい。
大体は高熱を出して思い出すケースが多いらしいが必ずしもそうとは限らないとのことだ。
まぁ、詳しくは知らないが。
ここはそういった異世界の情報を集積し、研究する場所らしい。
「そういえば自己紹介がまだだったね。」
女性は持っていた飲み物をテーブルに置いた。
「私はクレア・ゼイル。この異世界研究機関の所長だ。」
「あ、自分はロイ・ヤンです。よろしくお願いします。」
クレアさんと握手を交わす。
クレアさんは少し驚いた顔をしていたが、すぐに戻った。
「……ふむ、つまり東方の出身かい?」
「はい。」
このヤンという名字は東方に多いらしく、自分も東方の人間であった。
まぁ、これくらいは有名な話だろう。
「さぁ、では聞かせてくれ、一体何があったのかを。」
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