出張!異世界研究所!〜異世界犯罪解決します〜
@nakamurayukio
第1話 プロローグ 約束
「で、ご要件は?」
新王国暦198年2月1日。
ここ、異世界研究所に一人の老人が訪れていた。
この世界とは別の異世界と呼ばれる物があり、その世界はこの世界よりも遥かに発達しているらしい。
ここはそんな異世界の情報を集積し、解析することでこの世界の技術力の向上を目的とした施設であった。
何故過去形なのかというと異世界の手口の犯罪、通称、異世界犯罪の横行により、異世界の文化を危険視した国の上層部から嫌われたからである。
昔はたくさんいた研究員ももう私一人になってしまった。
国の機関であるが、先の理由により資金は大幅に減らされ、まともに活動することが厳しくなっている。
現在は今のこの状況のように異世界犯罪を解決することで報酬を貰って食い扶持を稼いでいる。
「実は息子から久々に手紙が来たんですが……何処か文字が違う気がして……。事故を起こしてしまったから金をくれないかと言っているんですよ。」
老人はテーブルに置かれたお茶を飲む。
これまで警察と共に様々な異世界犯罪を解決してきたせいで、こういった微妙な案件がよくこちらに回ってくる。
まだ、事件が起きていないし、実際に起きるかどうかも怪しい案件なんかがよく来る。
こちらとしては異世界関連で金さえ貰えればそれで良いのだが、正直困っている。
息子だって年月が経てば字も変わるだろう。
人間、口調や言葉遣いなんかはすぐに変わるものだ。
なんて思ってしまう。
最近依頼が無かったせいで大好きな店の菓子を我慢していた。
なので、この案件を逃す手はない。
と、言うのも記憶が正しければ これまで集めた異世界の記録の中に似たような物があった気がする。
「少々お待ち下さい。」
席を立ち、異世界の情報が書かれた本を取り出す。
パラパラと記憶を頼りにページをめくる。
「あ、これか。」
そこには『オレオレ詐欺について』と書かれた項目を見つけた。
「ふむ、電話越しに息子を騙り事故を起こした等で老人から金を騙し取るという犯罪、か。」
「そ、それはまさしくこの事では無いですか!?」
電話というのはいまいち分からないが恐らく連絡手段か何かなのだろう。
確か遠くの人と話すことが出来るものとかだった気がするがさっぱり意味が分からない。
「まぁ、まだ断定するのは早すぎます。まずは息子さんに直接聞きに行こうと思います。息子さんはどちらに?」
「ここからかなり東にあるジントー村という所です。儂がまともに歩くのも辛くなってから首都の介護施設に送られて、息子が農場を継いだんです。」
では、少し時間はかかるが向かうしかない。
最近汽車が開通し、交通の便が良くなったお陰で様々な所へ行きやすくなった。
更に車なんて物も開発されたらしいが一般に出回るにはまだ数年かかるだろう。
因みにそういった物も異世界研究所が無ければ発明されなかった。
だというのに国の奴等は……。
いや、考えるのはよそう。
キリが無い。
「じゃあ、私は今からジントー村に向かいますね。」
「あ、あの!どうかよろしくお願いします。本当に事故を起こしているのなら心配で心配で、もう……。」
老人から懇願されてしまう。
そのように言われたら私はこう返すことにしている。
「安心してこのクレア・ゼノンに任せたまえ!」
その後、支度を整えジントー村へと向かった。
ジントー村がある地域から東はかなりの昔、暦が2桁位の時には国が存在していたらしい。
その国が滅んでから100年と少し。
まだ、不穏な気配が漂っている。
王族の末裔がいるだとか、残党が潜んでいるとか。
そういった物だ。
まぁ、これから訪れるジントー村はその地域の1番端にある。
無用な心配だろう。
「お姉さん!」
「ん?」
気が付くと私の席の直ぐそこに小さな少年がいた。
「ついたよ!降りないの?」
「ああ、ありがとう少年。」
小さいながらもしっかりしている。
ジントー村は最近線路が開通した。
ここは終点だ。
考え事をしていたら気が付いたらついていたようだ。
「ロイ!行くよ!」
「あ、はーい!」
ロイと呼ばれた少年が、母の元へ行く。
母親に手を引かれ、汽車を降りていった。
私も後をついていく。
「ここか……。」
まだ東部の地域の端だというのに気候から文化、植生までかなり違う。
懐から地図を取り出し確認する。
老人から聞いた場所はすぐそこだ。
地図をしまい、その場へと向かった。
何事も無く地図で示された一軒家へと着いた。
扉をノックし、訪ねる。
「は、はい。」
「あ、どうも。私はこういう物です。」
名刺を取り出し、渡す。
「あなたのお父さんからの依頼で来ました。」
「依頼?あ、取り敢えずお入りください。」
家の中に案内され、入っていく。
靴を脱いで入っていった。
首都では見慣れない光景だがこちらではそういう風習なのだろう。
それに習い靴を脱いで入っていく。
そのまま居間に通される。
「で、依頼というのは?」
「はい。あなたのお父さんからの話では事故を起こしたから金を欲しいという旨の手紙が来たと……。」
すると、目の前の男が私の背後に目配せしているのに気が付く。
その瞬間、気配を感じたのですぐに横に飛び退く。
すると先程までいた場所に鉄パイプが振り下ろされていた。
「ちっ!おい!だから言っただろ!軽率すぎるって!」
「仕方無ぇだろ!こんな奴が来るなんて思ってないし!爺だから簡単だと思ってたんだよ!」
仲間がいたのか。
少し軽率すぎたか。
「……はぁ、私としたことが油断したな。」
「ま、どちらにせよ2対1だ。諦めな。」
先程まで応対していた男もいつの間にか鉄パイプを握りしめていた。
だが、舐められているのには腹が立つ。
「諦めて降参しな。痛くは……。」
痛くはしない、と、そう言うつもりだったのだろう。
だが、その言葉を最後まで聞くつもりは無い。
男の鳩尾に迷い無く、思い切り拳を入れる。
男はそのまま気を失い、その場に倒れた。
「さて、これでタイマンだね。」
「……くそっ!」
もう一人の男は一目散に逃げ出した。
「っ!待てっ!」
後を追いかける。
男は靴を履いていたので、そのまま外に出て行ったが、私は履いていない。
が、そんな事に構っている暇は無い。
そのまま靴を履かずに追いかける。
「ちっ!何で靴も履かずにこんな道走れるんだよ!?」
砂利道を靴下のみで走るのはアホみたいに痛い。
正直二度とやりたくは無いな。
「く、来るなっ!」
「っ!卑怯な!」
このままでは追いつかれると思ったのか、近くにいた子供を捕まえ、ナイフを突き付ける。
というかナイフを持っていたのか。
最初から使えば良かったのに。
「お、俺を見逃せ!あの家の男はトイレに監禁してる!好きにして構わん!見逃さないならこいつを殺す!」
「ねぇ、おじさん何してるの?」
そういえば、その少年には見覚えがある。
汽車の中で私に声をかけてくれた少年だ。
確か名前はロイと言ったか。
「う、うるせぇ!大人しくしてろ!」
「……何でおじさんがおもちゃのナイフ持ってるの?あのお姉さんと遊んでるの?」
なるほど。
規制が厳しくなったこの社会では刃渡り数cmあるナイフは簡単に入手出来ない。
まぁ、脅すなら鉄パイプよりもナイフの方が良いということか。
遠目ならば本物と見間違う。
実際、騙されてしまった訳だしな。
取り敢えず、少年に汽車でのお礼を返すとしよう。
「……良くやった少年。」
「ちょっ!待ってくれ!」
勿論待つ訳が無い。
顔面に思い切り拳を入れる。
男が倒れる勢いで、少年が宙に投げ出された。
「おっと。」
それを間一髪抱きかかえる。
「大丈夫かい?少年。」
「うん!ありがとう!」
この少年は恐らく状況を理解していたのだろう。
その上であの男に対してあの発言。
まだ幼いというのに、将来が楽しみだ。
頭を撫で、下に下ろす。
「ねぇ、お姉さん。僕もお姉さんみたいになれる?」
「……そうだね。私もこうなったのは良い先生がいたからだ。」
そう言えば諦めてくれるだろう。
しかし、少年は真っ直ぐな眼差しをこちらに向けながら聞いてくる。
「じゃあ、お姉さんが僕の先生になってくれるの!?」
……面倒臭いな。
それに、私を見習ってしまえば将来は駄目な大人になってしまうだろう。
それは断言出来る。
「そうだな。じゃあまずは……。」
少年はまだ真っ直ぐこちらを見ている。
「靴を取って来てくれないか?」
その後、少年に靴を取ってきてもらっている間に男を縛り上げ、警察に引き渡した。
軽く尋問したかったが、こんなところで拷問地味た事は出来ない。
少年に見られたりでもしたら教育に悪い。
少年が靴を持って来てくれてからは残りの男も捕縛し、家の主を開放した。
話を聞くとある日突然襲われ、訳も分からず監禁されたとのことだ。
これでは、異世界人関連の話は出て来ないだろう。
ということで私はとっととその場を離れることにした。
あの少年に付きまとわれてしまっても面倒だ。
なので、後の事は警察に丸投げして帰りの汽車に乗った。
少年も時が経てば今日の事は忘れるだろう。
私は記憶に強く残らないうちに退散することにした。
後日、懇意にしている情報屋からその後について聞いた。
どうやら、オレオレ詐欺については風の噂で耳にしたのをやってみただけらしく、異世界人とは無関係だった。
だが、異世界犯罪が噂に成る程メジャーになっているということだ。
それがわかっただけでも良しとしよう。
今回の犯人も初犯だったらしく、詐欺も未遂だったことから罪状は監禁したことと、強盗したことのみだった。
まぁ、他にも余罪はあるのだろうが大目に見られたとのことだ。
そういうのが、この国の駄目な所だと思うのだが。
因みにあの少年のその後は私に毒される訳でもなく、普通に暮らしているらしい。
まぁ、正直あの子がどうなるのかは楽しみだったが、これで良かったのだろう。
まぁ、二度と会うことも無いだろうし、私は私で仕事をするだけだ。
いつか会うことがあるとしたら本当に助手として取ってみてもいいかもしれないな。
まぁ、期待せずに待つとしよう。
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