女が階段を降りるとき

しおじり ゆうすけ

  ハイヒールは長く歩くの疲れます

 日本国 東京 お茶の水 


百階建ての高層ビルの八十八階を借りている大企業の支社があり、そこで残業していた新入女性社員と数年前から勤めてる女性社員の、仲の良い先輩後輩ふたりが、最後まで仕事していて深夜の退社で、えらいことになってしまった。

ビル全体のエレベーター修理の日を社内のEメールでなぜかその二人だけ伝えてもらってなくその階から下に階段を歩く羽目になったが非常階段じゃ面白くないから、

普通の階段を使いフロアに着くごとに同じビル内に他のどんな会社があるのかをつらつら観察しながら降りていこうと思いつき、喋りながら歩いている。


先輩「他の人がさあ、一言言ってくれたらイイのにぃ」


後輩「そうですよね。先輩に悪いですけど、うちの会社の人たち、どうも意思疎通が下手で、仕事さえこなしてれば、あとは知らん、って感じします」


「まあ、そんなこんながいい人もいるんだけどね、出社して仕事だけすりゃいいわってな」


「でしょうかね、そんなのだと、会社に来なくてもどうにか出来ますけども」


他の会社の看板やドアに書いてある社名を見ながら歩いてる二人。

「あ!私、この会社の面接受けたことがあるわ、この会社は昔世間をにぎわせたことがあるわね、なんだったけ、汚職?政治家に株券バラまいた?あ、昔そんな会社あったわね、あ、ここ、有名人のお父さんが経営してる会社だわ、」


ここは、、ここは、、と先輩はよく知っている。 

先輩

「経済新聞の一番下に載ってる広報で大きな会社の社長が交代する記事って面白いわよ、私子供の頃から経済新聞が家にあったので、経済や世間の仕組みは父と新聞から学んだわ。あ、今度の社長こんなに若がえったんだ、どこの出身でどこの大学出てんだ、とかね、うちの父が言ってたけど、同じ中学や高校の同級生の名前をそこで見たことあったって。」


「そうですか」


「あ、おもちゃメーカーの会社、ここの商品は子供の頃に兄とよく遊んだわ。」


後輩

「先輩、ウルトラセブンって子どもの特撮番組知ってます?。あの中で百貨店の中でオモチャの戦闘機やロボット、人形が人間を攻撃してくる話があるんですよ。」


「ええ、知ってる。兄と一緒に見たことあるわ。」


「私あれ、トラウマになったんですよ、あれで百貨店とかロボットのオモチャとか怖くなって、人形もダメになりましたよ。」


「子供の頃に観た酷い記憶ってなかなか取れないモノなのね。昭和の昔はね、妊娠している女性は、外で火事があったら観ちゃダメという話があったわ。これから生まれてくる子供の性格が悪くなるんだって。」


「本当ですかあ?」


「わかんないけどー。」


「私の男友達がね、スロットマシンがトラウマだと言う話聞いたことあるわ。。その人曰くね、子供の頃から30歳くらいまで、スロットマシンが異常に好きで、玩具売り場に行くと、今では見かけないけど、昭和の昔は流行ったんかなあ、その小さなスロットマシンの玩具を欲しがったり、コインゲームのあるゲームセンターに行くのが大好きだったんだって。大人になって、香港旅行のついでにマカオのカジノまで行ったんだって。

だけど、40歳の頃、子供の頃に初めて親に連れられて映画館で観た映画の、DVDソフトが大人になって発売された作品を観てたら、船上カジノの中のスロットマシンで大当たりするシーンが出てきたの。でも、そこはまったく忘れていたそうよ。つまり、それがトラウマになって深層心理に刷り込まれてたそうよ、それを大人になってやっとわかったそうよ。」


「あの先輩、」

「ん?」


「下に降りてドアが閉まってるってこと、無いですよね?」


「警備室はあるから大丈夫。停電じゃないしね、裏口からでることになるわ」


「そうですか」


後輩の足が止まった、後ろでじっとしてる

「どうしたの?」


「先輩、ハイヒールの踵が折れちゃいました。」


「 裸足で降りてく? しょうがないわ。ちょっと休みましょう。」


小さなプラスチックのベンチに座り、その後ろの壁にあるフロア別案内板だけを観ている二人、


後輩

「あ、先輩、ここの会社、知ってます?ここは、ある大企業の左遷用の会社なんですよ。」


「え、そうなの?」


「そう、子会社の子会社。仕事に失敗した人や出来の悪い社員の行きつく先がここなのよ」


「どうしてそんなこと知ってるのです?」


「うちの親戚が勤めてたからです。社員みんな、辛くて大変だった会社だったのに、

本社が経営不振になって切り捨てられそうになった時、思い切って早期退職制度を使って余分に退職金もらって、みなその余分の資金を集めて、自分たちの会社を立ち上げたそうです、でその時の社長が私の叔父さんだったのです。ホントは優秀な社員ばかりだったから、半年間給料は出なかったらしいけど、まったく新しい業種に挑んで、成功したみたいで。」


「そう、下請けの会社が独立して企業になることはたまにあるわね。」


「あ、先輩、こっちの窓から見える隣のビル、ここから見る窓の灯りの様子が、昔に流行ったゲームのテトリスみたいになってますね。」


「ほんとだ、ちょうど下の形に収まるような、」


「先輩チョコ食べますか?」


「もらう。ありがとう。このチョコの会社はあの隣りのビルの中にあるわ、 私あそこの会社も受けた。内定は貰ったんだけど、、なんだかね、、やめちゃって。」


「そうですか」


「色んな会社の噂が乱れ飛んでるインターネットでは、今いる社員さんが名前隠して自分の会社の色んな事書いて、これから入社したり途中採用の人達がその情報を有料で売るHPあるのよ。そんなのが私の学生時代にあって、会社選ぶとき、それ読んで、わかっていたらよかったのに、、もっと調査して選ぶべきだったわ。あ、無料で観られる範囲で読んでたらさ、その中のひとつの会社ね、忘年会が凄いんだって、社長さんが社員に一芸を披露させる趣味があるんだって。

今の時代によ?昭和の往年の東宝喜劇映画の社長リーズの三木のりへい、や小林桂樹じゃないってのよ。

だから忘年会用に、何か芸を習っておくことが出世に有利に働くんだって。

昭和の昔はね、忘年会のかくし芸をさ、噺家さんや幇間っていう太鼓持ちの人を

お座敷に呼んで、教えてもらってたってこと何かで読んだことあるけど、それ今の時代によ、はあ?よ。器用な人によっちゃあ天国かもしれないけど、何もできない人は地獄よねえ。私の爺さんから聞いてたど、昭和の時代の日本人はね、ひとつの会社の中で定年まで過ごしたんですよね、でも途中で辞めて次の会社にいくのは不安じゃない?」


「不安かもしれないけど、期待もあるでしょ、人それぞれの個人の性格にも寄るんじゃないですか?」


「 普通、人間関係がうまくいかなくてやめた場合の人は、次でもウマくいくかどうか不安でしょ?離婚した人がさ、再婚しようとする人と付き合ってる時、次はうまく行くかどうか気にするのと同じかもしれない」


「先輩、でも、私、父の仕事で引っ越しが多かったのです、そしたら学校も転校するでしょ、そのおかげで、他の町や、他の学校に行った先で、どうやったらすぐになじめるかの性格が自然とできちゃったので、どこでも何ともない性格になりました」


「そう、それは便利ね。」


「 でもね、、でも、飽き性になりました。」


「で、うちの会社に入社したのね。」


「 そうです。」


休憩を終え、階段を下りていく二人。 後輩は靴を履かずに降りていく。


「深夜空いてるホームセンターってあったっけ?」


「ええ、なんとかホーテって大きな雑貨屋に運動靴は売ってると思いますよ」

先輩、中国系らしい社名を指差す。


「ここの会社の名前、どう読むか知ってる?」


「ジョフクですか?」


「そう。この名前の元って、徐福伝説からとったの。」


「なんですか?それ」


「古代の中国、秦の始皇帝の命令で中国の陰陽師が不老不死の薬を求めて、日本にやってくるの。九州や和歌山には、徐福が上陸した場所ってところがあってね。

中国系かなあ?わかんないけど、まいいか。」


「中華系の会社も多くなりましたよね」


「そうね、あ、あのね、回転寿司のシステム考えたの日本にいた中国人って

噂があったわ、中華テーブルでぐるぐる回すのをデカくしたんじゃない?

って話でね。違うかもしれないけど、どこか発想が違うのが生まれるときは

日本人以外の思考な時もあるんだって」


先輩の話が続く。


「うちの部長はバカよ。いつだったか私にね、”君、目尻って何だ?”と質問したわ。 

質問ってさ、自分は知ってるけど、他人は知ってるか、を知る為に訊ねるときもあるわ、けど部長はマジで知らなかったの。ネットで検索すりゃあすぐわかるのに、近くの私に訊ねたの、、目尻がわからないのって、、あ、思い出した、スペースシャトルも知らなかったわ。男でよ?普通宇宙とかロケットとか好きでしょ?、アホよ。なーーんも知らないの。詳しいのサッカーだけなのよ、サッカー馬鹿。他は自分の仕事もできてない、、周りが全部フォローしてて、そんな男がこんど課長から人事部の部長になるのよ?こっちの支社に人事部を移すそうよ。人事ってさでかい会社は必要だし、採用する時も色々情報必要だから、と君は世間を良く知っているだろうから~って、頼りにしてるよぉ~、って言われてさ、誰お前の部下でいるんかってバカ野郎。 家族に病人が居ましてと言おうとしたら冗談だよというのよ、くそお、それよりもあの男の見る目で人事が動くとなると、この会社の未来は無いわ。まあ、私はあと次の春でやめようと思ってる。」


「次の春って、先輩、もうあとそんなにないじゃないですか、」


「ああ、そうなるわね。 もう次の会社の面接を明日受けるわ。」


階段を下りていく二人、


先輩

「ほら、今度、わ、た、しがー、面接を受ける会社よ、ここ。」


「こ、ここですか?我が社の大、大、大ライバル会社じゃないですか?」


「ええそうよ。私ほんとはスパイなの。」


「え?産業スパイですか?」


「嘘よ。嘘嘘っ」


「はー、なんだ、びっくりさせないでくださいよ。」


「あなた、若いのに産業スパイって言葉良く知ってるわねえ」


「あー、あのー、私の母が、大映映画の”黒い試走車(テストカー)”で子供の頃見せられたんですぅー」


「何それ?」


「ライバル自動車会社の新車の情報を盗むためにありとあらゆる手を使っての話なんです」


「はあ、」


「で、そこの社員に、元日本軍の中野学校出身の人が居るんです」


「中野学校?」


「昔の日本軍のスパイ養成学校です」


「は?」


「その学校で学んでた日本のスパイは頭脳明晰で戦後生き残った人は大企業が雇って色々会社のために動くのです」


「はあ」


「で、二重スパイが自分の社員の弱みを見つけて脅して新型自動車の情報をライバル社に売るんです。」


「、、それめっちゃくちゃ実録よね」


「ええ、昭和の企業の切磋琢磨してた経営の中に産業スパイが跳梁跋扈してた時代を

古い映画で見せてくれるんですよ、シリーズ化してるんです」


「、、あんた、若いのに、切磋琢磨とか、跳梁跋扈とかの言葉よく知ってるわねえ?

やっぱり賢いなあ」


「そうですかねえ?普通にみんな知ってると思うんですけど?」


「映画を見ることって時間を費やすけど、そこから自分の人生経験に役立つ上用をどれだけ仕入れられるか知らない世界を知るかというのも大事なのよね、ヒットする映画にはどこか思いもよらない情報を混ぜてるのよ」


降りていくと雰囲気が変わったフロアに着いた。


「ほら、レストラン街到着~。」


お互いため息をつく二人、

「ここはもう、全部が全部、レベル低いわ。ビルのオーナー企業は食ってモノをなんもわかっちゃいない。ろくな店が無いわ」


「そうですね、うちは社員食堂ないのでたまに利用しますけど、割引きは無いし、高いし、」


「なんか気取ってるだけなのよね」


「料理屋さんの経営者してる知り合いから聞いたことあるけど、高層ビルのテナントに入る料理屋ってさ、法則があるんだって。」


「そうなんですか?どんな決まりですか?」


「決まりと言うほどじゃないけど、テナントビルに入った料理屋は、上の階に行くほど値段が髙くて不味くなる、って。」


「へー、でもそれ当たってるかもしれません~、眺めがいい階は家賃高いでしょうから」


「高層ビルは高層階でガス爆発を伴う火事が起こると大変だから都市ガスを使えないのよ、電気コンロかIHなんだって。煮物、焼き物、炒め物とかは火力が強いほうが美味しいのよ、和食の魚の焼き物は”遠目の強火”とか言うんだけどさ。中華料理ってコンロの火が強烈じゃない?」


「そうなんですか」


「でもね、料理は一番おいしいのは炭で炊くことってその料理屋さんが言ってた。火力じゃなく温度が高いのと香り、かな」


次の階に降りる二人、有名な缶詰会社の看板の前を通る


後輩「あ、この会社、焼き鳥の缶詰で有名でしょ、ここって大きな工場で作ってるのに、きちんと炭火をおこして焼き鳥作るんだってテレビでやってましたよ」

先輩

「テレビ見る暇良くあるわねえ」


「食品会社のは録画して観ますよ、どんなに作ってるかをテレビの取材できることって、、嘘が無いって思うんですよ」


「ああ、そういう考えって良いかも」


あ、ここ、このキャラクターグッズ販売企業、今凄く成長してんのよ、ここ本社って書いてるわねえ、もっと大きなビルを持ってんだと思ってたけど、正社員は凄く少ないそうよ、後はパートやアルバイトが多いって。」


「そうなんですか、ええ、アイデアだけ作って、自社の工場は持たないって。」


「そんな会社もあるんですね。、あ、ベビー用品の会社、」


「あ、ここのブランド有名よ。あのさ、私若い頃、幼い子が履く靴で、かかとに空気の笛が付いて歩いたら♪ピヨピヨって音するのがあるでしょ、あれってね子どもが喜んでると思ってたのよ、でもねあれはお母さんがさ、子どもがどこを歩いてんのかと知るための音なの。言わば、鳥が自分の小鳥の危険な鳴き声で飛んでくることと同じような事なの、お母さんたちが公園で井戸端会議するじゃない、そんな時に子どもを近くで遊ばせておくけど靴の音が遠くに行くとわかるでしょ。子どもって、あっという間にとんでも無く歩いてる時ってあるの。そういうことは人の親になって見ないと分かんないわ、私子供を持ってもひとつわかったのは、スーパーマーケットに行って子どもを手押し車の椅子に座らせるでしょ、あれ甘やかしてるとばっかり思ってたら違うのよ、どこか行ってしまわないようにとか、勝手に売り場のお菓子を取らないようにするとか、迷子にならないとか効果あるわけ。そういうこともあるわけ。 子どもを持ってないと分らなかったことが色々あったわ。あ、どうしたの?」


「先輩、あの先、赤いランプが点滅してますよ?ボタンがありますけど、、」


「なにこれ?これ、どうするわけ?」


「床にいつのまにか、大きな矢印でましたけど?」


「あら?通路が分かれてる、五つ矢印が、、なにこれ?どれか選べって事?」

、、

、、

 火星都市、ネオ京都、祇園、娯楽休憩特区、ハイヒール社内、

第三茶屋室で睡眠中の女性二人への、家族へ説明が続いている。


「木星表面の大爆発により、ガンマ線バーストが火星に到達、都市全体のエネルギーが一時ストップし、皆様ご家族のお二人が体験しております、バーチャル睡眠ツアー、”ハイヒールマシン”での、女性サラリーマン仕事一か月仕事体験Rツアーの、ぉー、、再開のすぐの見込みは付いておりませんが、

お二人に関し、今現在睡眠中の脳波、心拍数、血圧、血中酸素濃度、リンパ流動状態、脳アドレナリン量、に変化は今のところ変化はありません。

復旧まで時間はかかりますが、これからは別のシナリオを体験させております。

ビルに閉じ込められ、そこから脱出ツアーを、特殊な内容で体験者の脳で

”夢”を見せております、皆さん、振り向いていただけますか、壁のほうをご覧ください、そこのモニター画面はその夢の内容です。

この映像のビル内でこの後に緊急状態で始まる第二のバーチャル体験は、


 火災発生脱出パターン、

 殺人犯に追いかけられるパターン、

 地震で閉じ込められ、脱出するパターン

 別の会社の素晴らしい男性社員と恋に落ちるパターン(別料金)

 上司をビルから突き落とし警察から逃げるパターン


は、

本人がこれから1分後、潜在意識の中にある選択機能で選ばれます、体験映像を観ている時は、その選択したという思考はわかりません、夢は明晰夢と言う、自分でこれは夢だとわかる時がありますが、これはそれはありません。

そして、普通ならこの特別映像は高額ですが、睡眠が長引き、シナリオが途中で途切れるために復旧再開までタダでお楽しみいただけます。 

その説明もお二人には体験前に承認されております。

激しい内容の夢の場合、心拍数は上がることになりますが健康の範囲です。

睡眠から目覚めるまで家族の方はホテルかこの茶屋で待機されることを願います。

、、これは極、低確率ではありますが、もし睡眠から目覚めない場合、つまり永久昏睡状態に陥ってしまう場合にはご家族に高額の保険が支払われることになっております、

しかし今までは私どもの娯楽機器では実験段階以外で失敗したことはございません。

復旧するまでしばらくお待ちください、計算ではすべてうまく行きます。

 すべて。」


       終

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女が階段を降りるとき しおじり ゆうすけ @Nebokedou380118

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