第4話 君と俺を変えた日

 ある夏の日。


 俺はそのころになると毎日あの公園へ行くようになっており、君は春の間も毎日公園へ来ていたことを知った。


 その日はひときわ暑く、水筒は基本持たない主義の俺でも水筒にスポーツドリンクを入れて持って行くほどだった。


 そんな暑い日でも君はいつも通りの東屋にいた。


 そこは日を避けられて涼しかったから、多少人がいたことにはいたが2人が座る分には十分はスペースが余っていた。


『有、ちょっといつもとは違う雰囲気にしてみたんだけど、どうかな』


 君は、凄い格好をしていた。


 当時中3の俺からしてみれば刺激が強すぎた。


 ノースリーブの服で、夏なのに真っ白な肩を出し、しかも薄い生地なので発育のいい君の身体が強調されている。


 それに下半身にはショートパンツを履き、これまた白い脚が晒されていた。


 その様相は……


『エッッ』

『そりゃよかったよ』


 俺の発言のどこによかった要素があったのかはわからなかったが、まあよかったなら構わない。


 多分狙ってエロい服装にしてたとかそんなことだった。


『それはともかく、病人なのにそんなに体に悪そうな恰好をしてもいいの?』


 君の服装から話を逸らそうとして、結局服装が関係する話題を振る。


『うーん、まあ本当は駄目なんだけどね……』


 君は恐らくまだ、死んでも構わないなどと思っていたのだろう。だから体に悪くても何の問題もないと。


『俺は命に死なれたら困るんだから気をつけてよ』

『え……』


 君は驚いたような顔をした。


 まさか、俺にすら必要にされていないと思っていたとは、こちらとしても驚きだった。


『命は今俺にとって、世界の意味というものを担保する存在なんだから。死なれたら困る。少しでも長く生きてほしい』

『……そっか。君ったら私がいないと何もできないんだから』


 妙な空気になってしまったが、とりあえず君を生きることに消極的な状態から救い出せた。どちらかといえば掬い出した、の方が近かったのかもしれないけれど。


『じゃあ、死なない。少なくとも君が自力で世界の意味を見つけるまではね!』

『そりゃあ嬉しい。ていうかそう言ってくれるなら一生世界の意味なんて見つけなくてもいいかな』

『馬鹿言ってないで早く見つけて私を楽にさせてよね』


 それは君の強がりだったのかもしれないけれど、おかげで俺も少しは希望というものを見つけられた。




 今考え直してみると、たぶんこの日くらいから俺の幸福度はどんどんと上がっていったのだろう。


 俺は基本的に神なんて信じていないけれど、今ばかり神に願う。


 どうか、あの日に戻りたい。


 時間逆行なんてファンタジーだと思っているけれど、今ばかりはそれが起こってほしいと願う。


 謎の力――春の出会いの魔法みたいなもので、あの時にまで戻らないだろうか。戻ってくれないだろうか。


 戻りたい、と思いながらまた君との思い出を思い出す。


 未だ記憶に鮮明に残っているあの日々を明瞭に思い出すことで、その影響で何か奇跡でも起こらないだろうかという淡い期待が俺をそうさせる。

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