畑でうどんの収穫。間違ったことは言ってないわ


「そのうどんはそっちじゃないよ!」


 畑での一幕。

 わたしとハルナ、ミリアの三人できつねうどんの仕分けの手伝いをしていた。

 収穫するうどんの見た目から、喉ごしの良いうどんか噛み応えの良いうどんかはたまたと分けていく作業である。

 これひとつ間違えるだけでうどんの茹で時間とか変わってくるので、ダークエルフからすれば死活問題に入る。

 本来、わたしの行う業務だけどミリアもやりたいと手伝いを申し出たのでやらせている。

 昨日今日見たばっかのミリアにうどんの判別は難しい。

 正直、わたしも感覚でやっているところはあるのでミリアが間違えるたびに気にしないでと口にしている。


「仕分けって何!? 畑から採れるうどんの仕分けって何を言っているの! どれも見た目全部一緒じゃない!」


「ひよこ鑑定士じゃねぇんだぞ! これ仕分けるって!」


 なんて、ミリアとハルナが良い反応をしていたのは記憶に新しい。

 少しでも早く仕事を覚えるためか、仕分けをするおばさんに聞きに行ったりもしたようだ。

 その時おばさんは、エルフに教える優越感からなのか妙に上機嫌で力強く説いていた。


「うどんの声を聞くのさ! 耳を澄ませば聞こえてくるだろ。私はコシが強いよ。私は喉ごしがあるだろって」


「「聞こえるかぁ!!」」


 ミリアとハルナのツッコミが綺麗に炸裂した瞬間だった。

 最初こそこれが常識なのだと受け入れようとしていたミリアだった。

 けれど、仲間のハルナがいるおかげでこれはダークエルフだけの常識だと悟ったようだ。


「あのシコシコしていると脳が幸せを感じるんだよ。白くドロドロと粘り気のある掛け物があれば、思わずコシが浮くってもんよ」


「まだ朝だぞ! 小さい子もいんだから下いのをぶち込むのは止めろ!」


 百歳なんだからそんなカマトトなわけないと思うけど。

 ミリアの耳を塞ごうとした止められているハルナを見てそう思う。

 そこ、ダークエルフにとっても敏感な部位だからね。


「まっ、失敗してもいいさ。何かあったらじゃあ食うなって言っておやり!」


「主婦が放つ最強の一言かよ」


 おばさんはそれだけ言うと、自分の作業に戻っていった。

 それが通じるのはこの村だけ。

 失敗続きだといつかは通じなくなる言葉だけどね。

 ミリアはただ一言「優しい……」と呟く。

 それから首を傾げて次のうどんに手を掛けていた。


「グリーンとかチキン、ポーク、ビーフカレーの仕分けならできるわよ」


「見たら分かるだろそりゃ!」


「なんであんたが! まさかあんたもコルチャーク神様を信仰——」


「色だよ! 色のツッコミは褐色色ボケ種族で手一杯だからボケないでくれ!」


 漫才やってないで手伝うなら仕事してほしいんだけど。

 わたしはハルナの肩を叩き、振り返ったところに無表情で言葉を言う。


「とろろ」


「分かっとるわ! 言葉選びの問題だわ!」


 変に言葉をつけ足すんじゃなかったわね。

 会話するの面倒くさい。

 適当に一言二言であしらった後、わたしは作業に戻る。

 何度も口を挟みながらミリアの手に注目する。

 拙いながらも必死にやっている感は伝わるのでそれ以上何も言わない。


「これはどっちなの?」


「さぬき」


「ダークエルフの畑から採れて良いもんじゃねぇだろ……」


 オムライスとか日本発祥の洋食って言われているし、今更感あるわね。

 ハルナは脱力したように皮袋に入った水を飲んでいた。

 そしてわたしの脇腹を突いてくる。


「キリシマ、知っているか? 洋食ってのは洋食【風】の料理も含まれているからな」


「で?」


「お前、社交性って言葉知っているか?」


 友達同士ならノーカンだと思うわ、わたし。

 気を使い合う友達なんて友達じゃないの。

 例え友達という体でもいつか別れる物よ、そういうの。


 わたしは手のひらを当ててハルナの指を下ろさせる。

 ハルナは目を半分だけ開けてわたしを睨みつけてくる。

 会話していても作業は進まないので、さっさと作業に戻るわたし。

 

 ミリアを見ていると、まだ作業のほとんどが終わっていない。

 けど、必死にダークエルフの文化に寄り添おうとしているのだろう。

 諦める様子はない。

 どうやら本気でダークエルフと仲良くなろうとしているらしい。

 他のエルフと比べても自分を特別だと語ったミリアが、どこまでその宣言を貫けるのか。

 わたしは今この場で教えた知識が無駄にならないことをただ願うばかりである。

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