部屋は機能性があればそれで良いのよ。小物とかいらないわ
とりあえずどうしてこうなったのか、わたしは掻い摘んで経緯を説明していく。
話を聞くたびにメンマはなぜか恍惚の表情へと染まっていく。
「分かりました!! お姉ちゃんは悪くないであります!! 元来捕虜には優しくするべきだと異世界からの書物に書いてあったのであります!! ぐちゃぐちゃにしてやるのです!!」
「その既成事実重視思考を止めろっての!」
ミリアは何かの危機を感じているのかハルナの腕に抱き着き、背中に隠れようとする。
この子はうん……。色々とね。
胸に全部栄養いっているどころの騒ぎじゃない。
容姿は本当に可愛いし、愛嬌があってトコトコついてくる様は小動物みたいなのよね。
……これ以上良いところ思い浮かばないし、考えるの面倒くさいからいいや。
いちおう家にいる母親にも事情を説明したところ、良い顔をされなかったけど仕方ないと頷いてくれた。
親不孝ダークエルフでごめんなさい。
はぁ……、これから何かやるたびエルフを匿っているダークエルフとして周りから見られる羽目になるのかしら。
……胃が痛い。
わたしはミリアを案内しようとして、ふと思いついたことを聞いてみる。
「わたしとメンマ、どっちの部屋に泊まる?」
「ハルナ」
「じゃあわたしの部屋ね」
ミリアはハルナを指さした。
即答だった。
残念だと思うけど、ハルナはわたしと同室なのよ。
メンマがこれだから。
後ろの方で勝手に期待に目を光らせ、勝手にがーんとショックを受けた様子のメンマ。
軽く残当……残念でもないわね。
わたしの部屋に入るなり、ぐるりと全体を見渡すミリア。
そしてわたしの部屋を一言で言い表した。
「殺風景。あんたホントに女子なの?」
良く言われると返して、わたしは部屋の立て窓を開ける。
だって部屋を模様替えしたところで置いた小物とか見ないでしょ。
掃除するとき邪魔だし。ならあっても無くても一緒だと思うわ。
途端に部屋の中に新鮮な風が入り込んでくる。
ミリアはわたしのベッドにボスッと体重を預けた。
「ふーん、寝心地はまぁまぁね」
「……別にいいけど」
「そこは何様だとでもツッコんどけよ」
わたし的には床で寝る方が好きなのよ。
落ち着くから。
ツッコミはハルナがやってくれるし。
わたしは適当にタンスから取り出した上着類をベッドのすぐ近くに放り投げる。
あとは横に広げるだけで即席毛布の完成である。
さて、こっからどうしようかとわたしはボーっとミリアを眺めていた。
仕事は嫌だけど仕事しかやることがないから。
「……あんたのその目、本当嫌いだわ。そのすべてを諦めているかのような、夢も希望も無い虚無って感じで」
「……元々夢なんて抱いていないから。わたしはわたし。変化する体力なんて無いのよ」
「つまらない生き方ね」
「先行きの見えない未来より、今ある安定を伸ばしていくのが一番だとわたしは思うわ」
ただ何不自由なく暮らすことができて、それ以上に何かを強く求めることも無い。
だって求め続けるのって、非常に疲れるじゃない?
友人との会話、仕事の業務。常に最先端を取り入れ、古いものは淘汰されていく。
そこに休みなんてものはない。
休日なんて、新しい物を仕事以外で取り入れておいてねと言われているだけ。
そこで得た新しいものは、数日、数か月経てば古いものとして淘汰される。
堂々巡り。メビウスの輪。イタチごっこ。
変化とはキリがなく、答えも見えない虚しい行為だと思うわ。
「おれはお前の考え方に関して、少しは共感できる。けど少しだけな」
ハルナはわたしの肩を軽く叩いて言葉を続ける。
「おれが思うに、キリシマに足りないのはバカ騒ぎ出来る友人だ」
「友人作ったら土日休日、連絡しないといけないかもよね。面倒くさい。いつか忘れ去られる」
「そういうところだぞ、お前」
ハルナはわたしの頭を軽く小突いてきた。
友人の境界線が分からないし、人によって定義が違う。
最終的に忘れ去られるのであれば、別に仲良くなる必要なんてないじゃない。
ふと出会った時会話しないといけない。
相手から話しかけられた時、わたしが相手の顔を忘れていた時とか気まずいったらないじゃない。
ミリアはベッドに身体を預ける。さらに顔を上向きに逸らした。
「ほんと、くっだらない。私は嫌よ。こんなところで死ぬのも、こんなところでずっと暮らし続けるのも。だから私は——」
何かを言おうとしたミリアを遮るかのように扉が強く開かれた。
「お姉ちゃん狩りの時間であります!!」
入ってきたのはメンマ。
一瞬変な意味の方かと神の炎を出しそうになってしまったけど、村中に響く笛の音で普通に狩りなのだと理解する。
さっ、今日も緊急の仕事ね。
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