ついてこないでって言った時に限ってついてくるのなんでなのかしら? 2
この世界は部分的に異世界だと思う。
少なくともクラスだとか魔力だとか闘気だとか、そんな目には見えない非現実的な力が蔓延っているのは確か。
そしてそれらの力、無いとまともな暮らしをすることができない。
それくらいわたしたちの暮らしに浸透している。
とある学者は言う。
なぜこの世界に魔力があるのか。なぜクラスがあるのか。なぜ闘気があるのか。
そんな頭が痛くなるような話とは無関係でいたい。
料理を作る過程は知りたくなる。けれどその料理がどうして誕生したかの経緯なんて、誰も興味が無いのである。
わたしからしてみればそれと同じで、クラスも魔力も闘気もどうだっていい。
せいぜい普段の支障をきたさなければいいな、って思う程度である。
だからね、
「へぇ~、ここが。なんというか、野蛮って感じね」
ミリアはダークエルフの村を見渡しながら、そう評価を下した。
わたしとハルナは本気で全力疾走したのに。
「「追いつかれた……」」
なんでこの娘、息切れひとつしていないのよ……。
エルフ族なのに。
お願いだから第一印象で問題を起こすことだけはやめて欲しい。
この思い、通じればいいな
「あっ……」
バキッと何かが砕ける音がすぐ後ろで聞こえてきた。
遅れてミリアの呆けた声。
二種の音が耳に入った途端、わたしとハルナの動きは完全に固まった。
さてダークエルフなのだけど、割と芸術を重んじる種族をしている。
岩や木々、家にも施されたペイント。首から下げられた魔物の牙で作られたネックレス。
一言で言えば、ある程度ルールが敷かれた野性の部族。
狩りもするし、農業もする。
されど来るものは拒まないし、去る者も追わない。
外との交流もそれなりで、割とよく人間とか魚人とか異種族も来る。
わたしの隣に居るゾンビのハルナも、その一環でこの村に訪れている。
家も木造建築で出来ていて、部族長だから家が一番大きいだとか目立つとかそういうものはない。
多分だと思うけど、ある程度家を区別するためにオブジェクトを作っている面もあるのだと思う。
住み心地に関しては……まぁ住めば都。
上司にいびられるだとか、時間外労働だとか、胃が痛くなるストレスといったものを感じられないからその点は最高。
さて、そんな芸術を重んじるダークエルフの村で聞こえた異質音。
その正体を探るべく、わたしとハルナは機械のように首をそっちに動かす。
「あいつ、予定調和上手いよな」
ミリアの近くに壊れたオブジェが広がっていた。
この時のわたしは後になって考えてみると、多分こう思っていたに違いない。
わたし……、社会的に死んだ。
ミリアはたはたと走りながら、わたしとハルナに壊れたオブジェの欠片の前で笑って見せる。
「形ある物はいつか壊れるっていうし、別にいいわよね」
「良いわけあるかばっきゃろーーーーーー!!」
「何よ。創造の前に破壊ありって言うでしょ」
「お前はどこの破壊者だよ!」
オブジェを作ったであろうダークエルフ、プッカさんのムンクの叫びが聞こえてくる。
なのに何にも悪びれることなくきょとんとした顔でいるミリア。
ハルナ、突っ込んでくれてありがとう。
けどね?
もう変わらないのよ。
みんなから敵意の目を送られてきているのは。
「ちょっと置いてかないでよ、キリシマ、ハルナ! なんか物凄い形相をしたダークエルフが追ってくるんだけどぉ!」
「これ悪い夢だったりしないかしら。頬をつねればすぐにベッドで起きて」
「悲しいことに正現実なんだよな」
ハルナはわたしの頬をつねってくる。
それじゃあ今、ミリアが名前を叫んだせいで、わたしに向けられる嫌悪の目も現実?
もうほんと……なんでこんなに散々な目に会うの!
プッカさんに追われるミリアに追われる羽目になるわたしとハルナ。
もう既に敵意を向けられているのに。
この後ラオウさんに会わないといけないって考えると本当に……。
平謝り、土下座まですればこの村に居させてくれるかなぁ……。
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