第245話 西園寺葵 対 ??? ②

 一条夜子は未来を見通す占術の使い手だった。

 逆に、それ以外の霊術については扱えず、戦闘能力は皆無に等しい。

 だが、今彼女の体を使っている妖怪は、その特有の膂力でそれをカバーしていた。

 結果として葵が相手にしているのは、未来を見て攻撃を察知し、かつ本体の性能が人間よりも格段に上。という上位種に成り上がっていた。


「“八重結界 攻式”! 」


 囲うようにして相手の周りに構築した結界を即座に収縮させ、圧殺する。

 見えない壁に押しつぶされる故、並の者であれば対応しようとする暇もなく押しつぶされる。


 しかし、妖怪にはそれも見えていた。

 結界が構築される位置、発動するタイミング。全てを知るそいつには、葵の攻撃の一切が通じず、避けられる。


 ――冗談じゃない! こんなのどうやって!


 次の結界を彼女が作ろうとした時、既に掌底が腹に叩き込まれていた。


「うぐっ……! げはっ! 」


 喉からせり上がるように胃液が口から放出される。

 地面に転がりながら、詰まった息を整えようとする彼女の顔面を、力強い足が踏みつける。


 顔、腹、背中。

 いたぶることを楽しんでいる妖怪は、中々葵にとどめを刺そうとしない。

 痛みに歪む彼女の顔を見て、そのニヤケ面を一層深くした。


 ――夜子、さん……。


 やがて葵が動かなくなり、声も出さなくなると、飽きたのであろうか。ついに彼女の首に手をかける。

 このまま首を握り潰そうと腕に力が込める。


「“四重結界 破式”」


 力無く垂れ下がった葵の手は、印を結んでいた。

 妖怪の腕に構築された結界が爆ぜ、絶叫と共に飛び退く。


「はあっ、はあっ、いったいなぁ……くそっ! 」


 ヨロヨロと立ち上がった彼女は悪態を1つつくと、再び戦う意志を見せた。

 だが状況は良くない。

 何とか反撃には成功したものの、吹き飛ばした妖怪の腕はすでに再生しており、苦痛に歪んでいた顔も、憎たらしい笑いをもう一度作っていた。


 妖怪は治癒術の発動効率が人間よりも良い。

 占術をかいくぐって、何とか攻撃を当てたとしても即座に回復されるだろう。


「なるほど、お前は死人憑しびとつきか。どうやったか夜子さんの肉体はクローン技術かなんかで作った。本体は魂のほう。そりゃ占術も使える訳だね、真似したんじゃなくて、体は夜子さんそのものなんだから」


 ――たしか向こうには頭のおかしい生物学者かなんかがいたはず。きっとそいつが夜子さんを……。


 ギリっと歯が軋む。


「死んだ後も、あの人を弄ぶのか……! 」


 葵の体も、体力も既に限界だった。

 今彼女を突き動かしているのは、計り知れない、――。


「覚悟しろよ、刺し違えても、ぶっ殺してやる……! 」


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