第96話 総力戦

 朝水は晴明の前に立ちはだかる。彼女の目は、仲間である葵の方へと向けられていた。


 すると、目の前にいる晴明から目を切って、ふよふよと葵の方へと飛んでいく。


 隙だらけ。特に敵のことを気にしていない素振りで、彼女は浮いていた。

 当然、そんな隙を見逃す奴はいない。晴明が彼女に向かって札を投げる。


「“潰蛙かいけい”」


 朝水の腕がひしゃげて、潰れる。純白の骨が肉を突き破って露出し、彼女の白い肌を赤色に染めた。


「な、何やって……」

「大丈夫です。私、死なないので」


 時間が巻き戻るように、飛び出た骨が戻っていく。筋肉が修復し、その上に肌が布をかけるように再生していった。


 彼女は治癒術が得意、とはアンケートに書いてあったが、ここまでの再生スピードは見たことがない。

 妖怪の生命力を持ってしても、ここまでの回復力は無い。


 晴明は分かっていたように頷いて、大して驚きもしない。


「不死身とやら、試してみようか」


 次いで、道満が両手で刀を握って彼女の頭に向かって振り下ろした。


 バンッと銃声が響く。道満の頭に風穴が開く。

 死にはしていないが、その傷を塞ぎながらも彼は撃たれた方角を見ていた。


「銃、とか言ったか。その武器は」


 視線の先にいた、拳銃を携えた芙蓉がニヤリと笑った。


「時代遅れのおっさんには分かんねぇよな」


 朝水は葵のそばに到着すると、彼女の手を握った。


「随分と霊力を使いましたね。はい、これで元通り」

「うひょー! ありがとう朝水ちゃん! 」


 先程まで霊力を使い切って疲弊していた葵の顔色が、みるみるうちに健康的になっていく。


「霊力を、戻した? 」


 治癒術で回復できるのは、身体的な負傷や毒物などだけである。

 病や霊力は、その治癒の対象外のはずだ。


 だが、何にしても心強い味方が加わったことに変わりはない。


「仲間割れしてみた気分はどうでしたか? 」


 いやらしい顔で晴明が笑う。


 大方、私達と合流する前に罠でも仕掛けていたのだろう。


 憤慨した様子で朝水と芙蓉が答えた。


「やっぱり貴方の仕業でしたか。悪趣味な……」

「頭吹っ飛ばしてやるから、覚悟しろよ」


 それぞれの獲物を構える私達を相手にしても、晴明と道満の余裕が消えることは無い。


「なんで、途中で術を解いた? 」

「……なんのことです? 」


 芙蓉がまっすぐに晴明を見る。


「幻惑術を解除しなければ、私は死んでたはずだ」

「気づいていましたか。なぁに、貴方達には生きていて貰わないと困るんですよ」


 訳の分からないことを言い続ける奴に腹を立てた芙蓉が、晴明の頭に向かって発砲した。


 銃弾は彼の頬を掠め、赤い液体を流させる。


「意味がわからんが、まぁいいさ。こちとら胸に穴が空いたんだ。死んでも文句言うなよ? 」


 晴明と道満が太刀を握り直して構えを取る。

 片手は印を結びながら、霊力で肉体を強化していた。


「我らは死なぬ。そして、お主達も殺さぬ。ただ、役に立って貰うだけよ」


 相変わらず、奴らの考えがまるで分からない。私達を襲っておいて殺さないし、天狗の里にちょっかいをかけておいて引くし、何がしたいのか。


 ――痛めつけて聞き出してやる。


 2人の巫女を加えた私達は、一斉に飛びかかった。

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