第94話 破壊
鮮血が噴出した。
時雨の背中を狙っていた男の右腕が切り落とされ、噴水のように血の雨を降らせている。
彼女はくるっと向き直って、腕に妖力を集中させた。
「葵! 俺たちの後ろで結界を張れ! 」
私達は急いで空亡達の後ろへ回り、葵が結界を発動する。
「“
空亡達と、法衣の敵、そして下級の妖怪達を包むようにして結界が形成される。
薄いが、とてつもなく硬い。そんな結界が幾重にも重なってドーム状になった。
空亡と時雨、2人の大妖怪が互いに力を集中させていく。
「“幽玄神威”! 」
「“乱風散華”! 」
この国そのものが震えているのかと思う程に、大地も大気も振動していた。
空が裂け、全てが呑み込まれる。
時雨が生み出したのは恐らくは、竜巻だろう。おそらく、というのは、あまりに巨大すぎて全貌が確認できないからだ。
私達に見えるのは、ただ風に巻き込まれた砂塵が天高く舞い上がっている様だけ。
それに空亡の幽玄神威が加わって、高出力のエネルギーを持った妖力の渦と化している。
妖術の減衰、など無意味だ。1000を100にしたところで、待ち受けるのは死だけなのだから。
葵の結界にヒビが入る。
私も結界を構築し、心ばかりの助力をするが、すぐに割れてしまった。
――葵はこれを抑えてるの!?
「“百重結界 守式”」
彼女はもう1度、結界を構築した。
最初と同じ、薄く硬い結界を何重にも重ねた結界。
普通であればあの硬度の結界だと、1つ生み出すだけで脳の血管が切れてもおかしくない。
しかし彼女はそれを数十、数百と構築し、完璧に制御している。
パリパリと、興亡派の手下が纏っていた結界が崩れ、破片が彼らの肉片と共に空を舞った。
「はああああああ!! 」
時雨の雄叫びが木霊する。竜巻は勢いを強め、大地を掘り返していた。
10分は続いただろうか。轟音と爆音はなりを潜めて、代わりに静寂がやってきた。
「ふぅ、終わった……」
葵がガックリと肩を落とす。少し鼻血が出ていた。霊力を使いすぎたのだろう。
「大丈夫? 肩貸すわよ」
「えへへ、やったぁ……。これで、ちょっと得した、かも……」
冗談を言う元気はあるようだが、明らかに体力は無くなっている。
彼女をこのまま道満達の戦いに連れて行って良いものか。
「リコちゃん、私は絶対下がらないからね」
私の心を見透かしたように、少しカッコつけて彼女は笑った。
「リコちゃんは、絶対守るんだから」
「守るって言ったって、その体じゃ……」
「おやおや、酷いことをなさる。これじゃあまたやり直しですか」
上からの声。声の正体は分かっている。
「安倍晴明……」
白い狩衣を纏った、優しげな顔つきの男。
そしてもう1人。
「まぁ、苦労するのはあやつだけじゃ」
「蘆屋道満……」
ハゲ頭の大男。口元に蓄えられたヒゲを撫でながら、私達を見下していた。
まだいる。彼は人間ではない。
天狗である。
「あなたを殺す日、待ちわびていましたぞ。時雨様」
「霧雨……」
時雨が低く呟いた。雪から聞いた話では、あいつが昔に起きた反逆事件の首謀者だ。
なぜ生きているのか、などと気にしている暇は無かった。
「葵、自分で飛べる? 」
「うん……大丈夫」
葵を下ろして、私は晴明達に指を突きつけた。
「お高く止まってんじゃないわよ! すぐに地面に叩き落としてやるわ! 」
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