炎の棘
YT
少年編
第1話 炎の証、愛の棘
ここは
「母上!明日は王位継承儀式の日、今日もまた伝説の武器の話を聞かせてください!」
「ええ、いいわ。それにしても、明日は楽しみね」
この世界には武器に関する伝説が数多く残っている。
天地を裂いた巨人の剣、千年生きる悪虫を屠った槍、九つの太陽を射る神の弓、空より飛来した大岩を防いだ盾。このように実在する武器だけでも語りきれないほどの数があり、架空の伝承まで入れたらそれこそ語るのに人生が短すぎるほど。
「母上、この武器の使い手はだれ?」
「わからないわ……重要なのは武器、人は所詮いつか忘れられる。だから「使い手」なんかではなく、武器の伝説の「運び手」にすぎないの」
明日で十歳になる
…はずだった。
白虎の国には王位継承の儀式が存在する。
王族の血筋を引く者であれば何の難しいことのない儀式。十歳になった継承者が白虎剣を鞘から抜くだけ。
そう、ただそれだけ。
たったそれだけのことが……いいえ、
国王である父とその全ての臣下が見届ける中、伏龍は予定通り祭壇に上がり神聖なる白虎剣を手にした。
しかし、剣を触った途端に伏龍の右手は燃え出して、結果大火傷という結果になってしまった。
王位継承儀式を境に、王宮内だけでなく国民にまで混乱が広がった。
病弱な王子は白虎剣を抜くことで強靭な肉体を手に入れるはずが、まさか抜くどころか触れることすら叶わないとは全くの予想外。
外敵から国を守るという責任を果たすため、王は不本意ながら新たな妻を迎えて新しい王位継承者を作らなければいけなくなった。
その後伏龍は他の武器で何度試しても結果は同じ、毎回ヤケドをしておしまい。
発火現象を目撃した臣下たちはこの呪いを
何故このような呪いを保有しているのだろうか、疑問に思った伏龍はある夢を思い出した。
正確には夢と思い込んでる記憶である。現実離れした内容だったので、少年の伏龍は本当にあった出来事かどうか判断がつかなかったのだ。
あれは2年前のある日。
父の鷹狩りの同行に出かけた日、冒険好きなのに体が弱いせいで眺めることしかできない少年伏龍はとても退屈していた。ほんの遊び心で彼は従者の目を掻い潜って近場の森に入った。
帰りのことなんて微塵も頭になかった伏龍は森の奥深くまで侵入し、気付いた時には豪雨が降り始めた。
不運はそれだけでなく、伏龍は偶然にも飢えたオオカミに遭遇してしまったのだ。何とか走って逃げるもすぐさま追いつかれてしまい、脇腹と足が容赦なく噛みつかれる。
激しい痛みと止まらない出血で伏龍は七歳にして初めて死を覚悟した。
意識が途切れかけた時、オオカミは何故か急に怯え始めた。しまいには子犬のような情けない声を出しながら慌てて逃げ出す。
オオカミの視線の先に目を向けると、自分の真横には見たことのない獣が立っている。
「……たすけ、て……くれた……の?」
「……」
獣は重傷で死にかけている少年と目を合わせるが、表情を変えることはなかった。
「きれい……すごく……うつく、しい……な」
龍の頭と七色のウロコに覆われた鹿の体、優雅な形の馬蹄で音も立てずに歩く獣。獣の知る人はその奇怪さから逃げ出さない者はいなかった。
「……「きれい」と「すごく、うつく、しい、な」。その二つを貰ったのは初めて………私のことを慕っているという意思で間違いないな?」
もう少年は上手く呼吸ができないので、意思を言葉として口に出すことが叶わない。そんな状態でも伏龍という少年は善性の塊、死ぬ前にせめて獣の期待する目に応えるべく力込めて首を縦に振った。
「人の子にとって死の恐怖というのはとてつもなく巨大なモノである、そんな話も聞いたことあるな……それなのに、怯えよりも私への好意を優先したのか」
蕾が花に咲くように、獣は肉体の形を人間の女性へと変化させた。
口を開けて爪で舌に一本線の傷をつける。彼女の顔から滴る血の雫が落ちて地面に触れた瞬間、その周辺の草花は急速に成長して豪雨にも負けない瑞々しさを帯びるようになった。
「ならば……」
ケモノの彼女は伏龍の頬にそっと触れて、自分の鮮血を飲ませるように口付けした。唇同士が離れると、舌の傷はもう完治していた。
「人の子よ、契りは交わした。
「
豪雨の翌日、王宮で目を覚ました少年の傷は幻のように跡形なく消えていた。
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