幼馴染に内緒で、俺は先輩を買う。
ふぃるめる
第1話 盗み聞きとモヤモヤ
「曾根崎さんってウリやってるみたいなんだって」
「マジそれ!?ヤバいじゃん」
「お金のためにそこまでするかなぁ」
通学途中の電車の中で、恥も外見もなくそんな言葉を交わす同じ高校の女子たち。
日常と非日常は表裏一体で、とち狂った倫理観を内包したまま今日も朝を迎えていた。
「
休み時間、隣の席でお菓子を頬張っていた
緩い校則のおかげか、今日も見事な金髪ショートだ。
そんな髪型が彼女のサバサバした性格と相まって似合っている。
「あぁ、
自分から訊いといて、話を真剣に聞く気があるのか無いのかスマホを弄り出した。
かれこれ十年以上になる紗奈との付き合いは、もはや腐れ縁の域に達していた。
「せっかく、幼馴染の悩みを聞いあげようって言ってんだから、ちゃっちゃと話しなよ〜」
「お前スマホ弄ってるから、聞く気あんのかなぁって」
そう言うと紗奈はスマホをトートバッグへと突っ込んだ。
「これなら文句なぁい?」
「お、おう」
長い付き合いでも、ジッと見つめられると恥ずかしいというか緊張するというか……別に付き合ってるわけでもないのにな……。
俺は目を逸らした。
「話は人の目を見て聞くんだよ?」
そう言って紗奈に覗きこまれれば、もう視線の逸らしようが無かった。
「むふっ、それでよーし」
そう言って屈託なく笑う紗奈の笑顔に、やっぱりドキドキさせられながらも朝あった話を切り出すのだった。
◆❖◇◇❖◆
「一個上に曽根崎先輩っているだろう?」
実を言えば、俺と紗奈は曽根崎さんを全く知らないという仲じゃなかった。
元々は、俺たち同様いわゆる新興住宅地に暮らしていて自治会も一緒だったし、小学校の頃くらいまでは一緒に遊んでいた。
でも僕らが中学校に上がろうという頃に、いきなり「遊ぶのはこれが最後だよ」といきなり言われたのだった。
今思えば、どこか翳りのある笑顔だったかもしれない。
それでも曽根崎先輩は、よく冗談を言うしよく笑うしで、俺たちはまた冗談なんだろうとその言葉を信じなかった。
でも翌日、本当に曽根崎先輩は俺たちの前から消えた。
「いるね〜、ってか曽根崎先輩ってよそよそしくない?昔みたいに、
紗奈はそう言われて俺はハッとなった。
三年間会わなかっただけで、気付けば心の距離が大きく開いてしまっていた。
「そ、そうだな……」
たった三年、けれど
「で、彩莉ちゃんがどうしたの?」
紗奈の返しに白々しいな、とため息をつく。
「知ってるんだろう?彩莉先輩が、ウリをやってるってことを」
この手の噂に女子は特に敏感だろう。
汚いだの不純だのと他人の行為を
「あぁ、その話?あくまでも噂の範疇に過ぎないよ」
出来れば噂であってくれ、そう願うばかりだが何となく最悪の可能性は濃厚そうな気がしてならない。
「噂だといいんだがな……」
そう返すと沈みこんだ空気を払拭させるためか、紗奈は茶化してきた。
「ひょっとして彩莉ちゃんとヤりたいの?」
「そういうんじゃねぇよ、紗奈は何とも思わないのか……?」
彩莉先輩がウリをやっているという話を聞いてから間も無いのに、何となくやりどころに困る気持ちが胸の奥に溜まっていた。
きっと以前からその話を知っている紗奈からしたら尚更だろう。
それに紗奈は、仲良くしていた友達がウリをやっていると聞いて、放っておけるほど冷たい性格じゃない。
「……思わないわけないじゃん。でも……聞きに行くのは何か違うと思うし……」
それが紗奈なりの配慮らしい。
でも俺は違う。
紗奈みたいに大人みたいな配慮ができるほど俺の心は成長してはいない。
話を聞いたときから心底、止めたいと思っていた。
「……聞きに行きたそうな顔してるね」
紗奈は真っ直ぐに俺の目を見て言った。
そんな紗奈の赤い瞳が不安げに揺れているのはやっぱり、彩莉先輩のことを心配しているからなのだろう。
「それが事実なら辞めさせたい。たとえこれが俺のエゴだったとしてもな……」
「そっか……奏は優しいんだね」
優しいという言葉に思わず、そうじゃないだろうと言いたくなった。
「心がガキのまんまで馬鹿なだけだろ」
そう言うと、紗奈は首を横に振った。
「普通の女の子はね、好きな人以外とそういうこと、シたくはないんだよ?」
「やっぱりそうだよな」
その言葉は、もしかしたらあの頃から変わってしまったであろう彩莉先輩に、これから会いに行くと決めた俺の背中を押した。
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