第71話 一心不乱のデューク

 当然、「ポッド・ゴッド」の参事会の面々はコンゲと面識があった。

 だが、それは「ポッド・ゴッド」側が「クーロン・ベイ」に向かう形での面会の経験があると言うことだ。


 ウェストだけは議長に収まってから「クーロン・ベイ」に出向くことはないが――そうなると街の格を巡って外交がややこしくなるので――コンゲのことは知っていたようだ。

 いや、この場にコンゲが現れた経緯もある程度は知っているらしい。


「本来ならぁあ~、先にぃお約束を求めてからぁ~、参上ぅすべきなのですがぁぁあ、非常事態ぃにつきぃ、ご容赦をぉ賜りたいぃい」


 さすがに渉外担当官らしく、その辺りの街間の力関係についてにも気配りが出来ているようだ。……恐らくそういうことなのだろう。まず聞き取りにくいのだが。


「非常事態、ですか?」


 恐らく近年になって「ポッド・ゴッド」で最もコンゲと交渉することになったマリーが、重要な部分だけを切り取ってコンゲに質問する。


 そうするとコンゲはウネウネしながら――恐らく頷いて――マリーの質問に答える。


「左様ぅぅ~。是非ともぉ~ご助力ぅいただきたくぅ~」


 コンゲが言うには保守派が実力行使を躊躇わなくなった。それによって革新派の旗頭シュンが追い詰められている。

 それは政治的に追い詰められている、と言うわけではなく、単純に命の危機だと。


 そこで同じ派閥のコンゲが、この緊急事態において「ポッド・ゴッド」に救援を求めに来たというわけだ。街同士の礼儀を無視する形になったのは、それが理由らしい。


 それはわかるのだが、それで何故「ポッド・ゴッド」に来たのか。

 それがわからない。


 ――いや、わかってはいるのだ。特にマリーは。


 この局面を逆転できる可能性を持っているのは「ポッド・ゴッド」に隠棲するマリーの婚約者。


 “一心不乱マニック・ステート”のデュークに動いて貰うしかないと。


               ~・~


 この時、先の戦いで英雄となったこの男はどういう状態であったのか?


 狸人種族で、いつも眠そうな眼差し。卓越した戦術眼と指揮能力には確かなものがあったが、それよりもデュークの名を知らしめたのは、圧倒的な戦意。


 決して戦いを厭わず最後の最後まで帝国を追い、瓦解させた彼が奉られた異名は「一心不乱」。

 彼を中心にすれば、どれほどにでも熱狂的に戦い抜くことが出来たのである。


 普通なら彼の勇名は長らく語られることになるところだ。

 だが、その熱狂が彼自身の精神こころを灼いてしまったのか、戦いが終わった後は「ポッド・ゴッド」に隠棲してしまった。


 であるので、自然と彼の事が口の端に上ることさえ、少なくなっていたのだが……


 ――その彼は今、洋上にいる。頭のおかしい速度の荷車に乗って。

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