第63話 戦いの果てに
ミオは覚悟をして「ラスシャンク・グループ」に乗り込んだはずだが、総帥であるイブはあっさりと面会に応じた。
どうやらケーキについても提供する前提でミオに接してくれているようだ。
ただミオの本当の狙いは「ラスシャンク・グループ」からケーキを仕入れることでは無く、ケーキのレシピを取り入れて独自のケーキを作りたい、と言うことだった。
どう考えても無茶な話ではあるが「ラスシャンク・グループ」には、ダスティの処遇も含めて「借り」があるという感覚もミオにはあるのだろう。
もしかすると、その「借り」を無しにしてイーブンにしたいという気持ちがミオの中にあるのかもしれないが、先に詰め寄ってきたのはイブだった。
それも思わぬ方向から。
「実はね、ドライフルーツを私達が得意にしてるのは、それが兵糧だからなのよ」
「兵糧……って、戦争の時に食べるご飯? ですか?」
どうして、いきなりこんな話になったのか。
いや、確かにドライフルーツについてだから、全く関係ない話をイブが始めたわけでは無い。ただピントがずれている。
「ラスシャンク・グループ」が所有する建物の応接室で向き合った二人の間に、微妙な空気が流れた。いやそれは二人の温度差がもたらすものなのか。
「そういう形で、私達は北の帝国に協力してたのね。結局は北からも追い出された形になったんだけど」
「ちょ、ちょっと待ってください」
確かに昔「ポッド・ゴッド」や「クーロン・ベイ」の北に巨大な帝国が存在していたとはミオも聞いている。
ただ結局「ポッド・ゴッド」には戦禍が及ぶことも無く、それは「クーロン・ベイ」も同じ事だ。
つまりミオには、その実感がないのである。
それなのにイブがいきなりそんな話を始めたら戸惑うしか無い。
しかもそんな内容なのに、イブの表情や雰囲気に暗い部分がない。
逆に明るいとさえ感じてしまう。
その明るさにミオは異様なものを感じるからこそ、どうしても疑心暗鬼になって固くなってしまうのだ。元々、無茶な要求をしている自覚もある。
だが、いつまでもこのままでは交渉も何も無い。ミオは改めて覚悟を決めた。
「あ、あの! どうしてその話を私に?」
根本はそこだ。ドライフルーツについて説明するにしても、話が膨らみすぎている。
イブもそういったミオの反応は当然予想していたのだろう。
蠱惑的な笑みを浮かべて、先ほどとは違ってゆっくりとした口調でこう告げた。
「実はね……あなたの所のパシャさん。その北の帝国からやってきたのかもしれない――っていう疑いがね、あるのよ」
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