第37話 渡る世間に鬼はない

 さて、マクミランによる、なかなかの無茶振り。

 これがどういう結果になったかというと――


 上手く行ったのである。

 それも想定以上に。


 まず見習いとしてスカウトされたのは馬人種族の少年ランスだ。

 ランスはミオの横で実際に鶏を焼き始めたのだが、当然上手く行くはずがない。


 売り物にもならないし、逆にミオの邪魔をすることが多かったのだが、そのランスを見つめる常連客達の目は優しかった。

 一度、ミオをこういった形で育てたのは彼らだったのである。


 それで調子に乗った、というのはあんまりな言い草ではあったが、そういう理由を含めても確かに常連客達は親切だった。

 

 「秘伝のタレ」を盗まれたという事情があったにせよ、初心者に優しい「ダイモスⅡ」の雰囲気を作り上げたのは、確かにミオの働きと言っても良い。


 さらにランスの幼い弟妹については東地区の住人、具体的に言うと、近所に住むご婦人方が面倒を見たのである。

 この辺りは近所の助け合いではあったのだが、実際にランスは働いているのである。ご婦人方も全くのただ働きとはならなかった。


 やがて、こういう助け合いは「鶏肉の仕込み」という作業に繋がることになり、さらに屋台計画を後押しする。

 マクミランはその内に東地区に社宅のようなものまで建設しようとまで言い出したほどだ。


 つまりはそれほど屋台計画は順調、いや実際にランスに屋台を任せるようになっても順調だったのである。


 「ダイモスⅡ」に赴くまでも無く、手軽に「ポッドチキンの焼き物」を楽しめるとなると、思った以上に潜在客は多かったということだ。

 すぐに屋台二号店の計画に取りかからなくてはならない、というような義務感に駆られるほどに。


 そしてパシャが難しいと言っていた屋台の機能、そしてゴーレムについては――


「決して連続で動かさないこと。一晩は必ず止めてください。ゴーレムは他の用途で使ってはダメですよ。何なら二人がかりで屋台を動かすスケジュールにしてくれれば――」


 と、色々と条件をつけたのだが、とりあえずはマクミランの要求通りになったのである。つまり「浮かぶ屋台」の完成だ。

 実はその物珍しさこそが、屋台の成功の要因であるかもしれない。当然その理由にはゴーレムが含まれている事は説明するまでも無いだろう。


 やがてパシャは「ダイモスⅡ」での仕込みからは離れ、技術部門にかかりきりなったのだが、それは自然の流れなのだろう。

 マクミランと同じように、二人目の専門職の誕生だ。マクミランがそれを強力に勧めた、という事情もあったのだが……


 かくして「ダイモスⅡ」を中心としたグループは繁栄の時を迎えることになったわけである。

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