第12話 参事官マリー
参事とは街を運営する事務官のようなものだ。主に大都市「クーロン・ベイ」から穀物等を輸入するための手続き、あるいは交渉を受け持っている。
その他、様々な雑事を受け持っているが田舎町「ポッド・ゴッド」の参事官と言えば、貧乏くじを引いた者、と思われる事がしばしばだ。
積極的に面倒事を引き受ける者はいなかったし、古くからこの街に居着いていた各家から、人身御供のように参事会に差し出される事が常だったからだ。
参事官マリーも、そういった事情は他の参事官と変わることはない。
特別な点を挙げるなら、彼女はとびきり美しかったのである。
犬人種族で、クリーム色の毛並み。垂れ下がった耳。立派な鼻筋と容姿に関しては褒めるところしか見当たらない。彼女にかかれば参事官の制服である濃紺のローブも優美に思えた。
胸元の飾り気のない飾緒も輝いて見える。目深に被った帽子も彼女の雰囲気に合っていた。
いや、帽子に関しては結果論であるのかもしれない。
元々、彼女は婚約者デュークとの婚姻がなかなか進まなくて鬱々としていたのだから。どうしても表情に憂いが溢れてくる。
その上、今度は「ダイモスⅡ」への査察に行くことになってしまった。マリー本人は全くその気が無いのに。これもまた貧乏くじの一種なのだろう。
参事会としても無理に事を荒立てたくはない。だが街の運営にも影響を及ぼす「ラスシャンク・グループ」からの要求ともなれば、それも無下には出来ないのである。
こういう状況ではマリーの美しさに頼ることが多い参事会だ。なんとかマリーの美貌で誤魔化すことが出来ると考えているらしい。
それにマリーはまだ若く、参事会でもそれほど強くは出ることが出来ない。
結果として、
「はぁ……」
と、数え切れないほどのため息をつきながらマリーは「ダイモスⅡ」へと向かうことになるわけである。
そんなマリーの仕草もまた、街中で注目を集めることになるわけだが。
視線と陽の光を浴びながら、マリーは手持ちの鞄の中の書類を確認する。
これもまた繰り返された作業であるのだが、今度こそ覚悟は決まったらしい。
ブツブツと査察手順を呟くことで確認し、書類を鞄に詰め直すと「ダイモスⅡ」に向けてひたすらに足を動かし続けた。
~・~
「は? ええと、査察……ですか? 査察ってあれでしょ? 悪いことしてないか調べるアレでしょ?」
パシャ、ゴーレム達共々店内の清掃に取りかかっていたミオが素っ頓狂な声を上げた。どう考えても、ミオが悪事を働いてるようには見えない。
マリーは再びため息をついて、
「はい。その査察です」
と、諦めたように告げた。
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