第5話 さらに根本的問題
ポッドチキン、などとわざわざ名前までつけて有り難がっているが、要は「ポッド・ゴッド」周辺で自生していた鶏だ。
それがたまたま旨かった。
砂浜から適度に塩分が吸収されているから。厳しい環境だから身が引き締まる。
――等々、後から理屈がくっついたが、概ねそんな感じの肉質だ。
これに「ダイモスⅡ」の店主スタディ・ソードホルダーが開発したタレが抜群に合うわけである。
肉を一口大に切り分けて、串で刺して焼いたこともアイデアだったのだろう。
街の周辺で身体を動かす仕事に取り組む男達が「ダイモスⅡ」に夜な夜な押しかける――いやそれは「ポッド・ゴッド」の習慣になっていたと言っても過言では無い。
だからこそ「ダイモスⅡ」が休業している間は、まるで火が消えたよう。そして待ち望んだ開業再開の時が訪れたとき、かつての常連たちは大挙して「ダイモスⅡ」に詰めかけた。
前店主のスタディの訃報は当然皆が知っている。そういう事情もあってミオは様々な種族の男たちから慰めの言葉を貰っていたのだが……
「ミオちゃん、これは良くないよ。焼きすぎ」
「こっちは生が残ってるなぁ」
犬人種族と鳥人種族の客から同時にクレームが出た。
そう。秘伝のタレがあってもチキンを焼くときの技術はそう簡単に再現できないのである。
「うう……ごめんねえ。お代はいいから、私を鍛えて」
ミオは仕入れに関しては父親をサポート出来ていた。だから再開までの準備は滞りなく出来たのだが、実際に焼く技術は一朝一夕に身につくものでは無い。
だが「ダイモスⅡ」はそこまで格調が高い店ではない。それに秘伝のタレの力は確かにあって、常連たちもミオを改めて鍛えよう、という雰囲気になっていた。
この辺りはミオの明るさも要因だろう。
しかしである。
奥の厨房で仕込みに取り組み、元々手先も器用だったのだろう。パシャはその方面では確かに役に立ってはいたのだが、問題は接客だった。
何しろ、あの三白眼。
小綺麗な格好になって、甲斐甲斐しく給仕を受け持っても、店内の清掃をこまめに行っても、常連客からは胡乱な目を向けられてしまう。
いや、根本的な問題として――
「人手が足りなすぎる……! 二人じゃどうやっても無理よ!」
とはいえ、かつての従業員に秘伝のタレを持ち逃げされた直後だ。ミオとしても改めて人を雇うことに躊躇いがある。
パシャは特殊なのだ。
そのパシャが、そんなミオの悲鳴に大きく頷き、あの言葉を口にする。
「ミオさん。こんなこともあろうかと用意していたものがあるんです」
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