第5話 準備をしよう
冒険者カードを手に入れたので、ここのダンジョンの事を調べようと早速ギルド二階にある資料室に向かう事にした。まだ、約束の時間には余裕があったので、少しでもダンジョンの情報を手に入れようと思ったわけだ。
いくら守ってくれると言っても、足手まといにはなりたくないからね。
「へぇ~。すごいな。流石ダンジョン都市と言われるだけあるな」
まぁ、他の所はどうなってるか知らないけど。資料室にはダンジョン関係のマップ、それに宝箱や入手出来るアイテム、トラップなどの位置や階層の魔物や中ボスの情報などなど、かなりの数の資料が置いてある。今は、この塔の30階まで攻略済とある。
それ以外にも、この都市の周辺に出没する魔物、採取出来る薬草などの情報も網羅されており、相当の量の資料がこの部屋に取り揃えられているようだ。
「わぁ~。めっちゃ多い。どこから手をつけていいか解らないよな」
その資料の多さに圧倒されてしまった。
「とりあえず、ダンジョン一階の情報から探したらいいんじゃねえ?」
それが置いてあるであろう場所を探して、キョロキョロしながら徘徊していると、その部屋の奥にある棚の隅に身を隠している人物がいる事に気が付いた。
「あれ? ハルさん、どうも先客がいるみたいだね」
僕は十分に注意しながら、気付かれないようにそこに近づいていく。そしてこっそりと棚の向こうを覗いてみた。
するとそこには、棚に隠れるように何かの資料を真剣に見ている女の子がいた。薄汚れた粗末な身なりのその子は、先ほどギルド内を回り、冒険者たちに接触していた少女だったのだ。
隠れて資料を見ていた女の子に声をかけると、その子は一瞬ギョっとなって固まった後、振り向くとこちらに目を向けた。
だが、僕を見るなり明らかに落胆したような顔になって、「チッ!」っと舌打ちをした後、大きく溜息をついたかと思うと、そそくさと資料室を出て行ってしまった。
「なんだよ? あの態度。あのみすぼらしいガキ、失礼だよな」
「まぁまぁハルさん。何か訳ありなんだろうさ」
女の子の態度の悪さにぷりぷりと怒っているハルさんをなだめてから、女の子が見ていただろう物を床から拾い上げる。
「これってダンジョンのマップだよね。あの子が冒険者だとは思えないから、ここにはこっそりと忍び込んだのかもな?」
まさかあんな幼い子がダンジョンへ入ろうとしているとは到底思えない。
「まさかねぇ?」
不安に思いつつも、僕は資料室にて塔関係の資料を探して目を通しだした。それからしばらくして……。ハルさんの退屈指数がマックスになったようだ。
「なぁ、アキト。ダンジョンに入るなら準備とかしといた方がいいんじゃないか? 例えば食い物とか?」
「あ、そうだよね。<閃光の銀狼>の人たちにおんぶに抱っこってわけにはいかないし。まだお昼までは時間があるようだから、市場を廻ってみようか? お昼ご飯も早めに済ましちゃおー!」
「賛成! 飯~、飯!!」
ハルさんはテーブルの上ではしゃぎだした。そんなハルさんを摘まみ上げ胸ポケットに入れると、僕たちは資料室を出て階下へと向かう。
階段を降りていると、<閃光の銀狼>のリーダーがアランさんとギルドの会議室へ入る所を目撃して、僕は足を止めた。
「あ、リーダーだ。もしかして僕の事をアランさんに確認するのかな?」
「そんな事なら、わざわざ会議室になんて入んないだろうよ。周りに聞かれたくない仕事の依頼とかじゃねぇ?」
「まぁ、そうだね。彼らは高位の冒険者だもんね。それじゃ行くか」
僕たちは市場へと足を向けた。
◇◇◇
<小熊の巣穴>の女将に良心的な雑貨屋を紹介してもらっていたので、そのお店でダンジョンでの最低限必要な物を見繕ってもらった。
「お客さん、ダンジョンは初めてかい?」
「はい。ピカピカの新人冒険者です」
店の主人は「それは自慢できないよ」と苦笑いをしながら、この店以外ではその事は余り正直に言わない方がいいぞと助言をしてくれた。
『おいおい、気をつけろよ。アキトは変に物知りなクセに、温室育ちで世間知らずな所あるからな』
ハルさんにも思いっきり注意されてしまった。新人狩りって言うものがあり、舐められると、質の悪い輩に目を付けられたりする。そうなれば、潰しや搾取の標的になる場合があるらしいのだ。
テントや寝袋などの野営道具は師匠の所を出る時に用意している。それと、僕は薬師なので、薬やポーション類は自分で作れる。だから、それ以外をお願いしますと伝えると、親身に相談に乗ってくれた。
「だったら、ほぼ装備類だな。魔物と戦うわけだし、後衛であったとしても、身を守る為にはある程度の強度が必要だよ。ところで、
「得物?」
「得意とする武器だよ。長剣や短剣とか。弓とかかな? もしかして、薬師さんなら杖か?」
師匠に一通りは習ったけど、強いて武器は持ってなかった。そう言えば、あまりに不用心だよな。
「えっと、持ってないです」
「持ってない? う~ん、ダンジョンでは不用心だな。最低限、自分で身を守るものは持ってたほうがいいぞ」
店の主人は、新人冒険者に扱いやすい短槍と丈夫な皮の装備を数点持ってきてくれた。
その中からお手頃価格の物を選び購入した。アルル村からの報奨金がそこそこあったので、ちょっと贅沢してみました。お店にてその装備に着替えて、少し大き目の
それは魔法アイテムバッグを持っている事を悟られないようにだ。
その後、市場で食料も買った後、昼飯を済ませてからギルドに向かった。
◇◇◇
ギルドへと行くとリーダー以外の<閃光の銀狼>さん達はすでに来ていたので、早速、一緒に連れて行ってほしい旨を伝えると……。
「もちろん、大歓迎だよ」
そう、皆さんはとても喜んでくれたので少しホッとした。
「良かった。これで俺たちも安心して戦えるってもんだ」
と、アイラさんの肩をバンバンと叩いていたジーノさんは、その後にアイラさんからヘッドロックをかまされて、何故だか喜んでるように見えたのを、良い子の僕は見なかった事にした。
毎度のことなのだろうか? 二人が戯れている横で、冷静なリンダさんからパーティーメンバーの役割やら決まり事、また、ここのダンジョンの構造の説明もしてもらった。
ここのダンジョンは塔の中心に転移のオーブが設置されている。
その転移オーブは五階単位で設置されていて、その階にいる階層ボスを倒す事でその階のオーブが解放される事になる。
<閃光の銀狼>は二十階の中ボスを倒しており、本来なら二十一階からの攻略となる。
大まか言ってこんな感じだそうだ。
「だったら、初ダンジョンの僕は二十一階なんて無理ですよ。大丈夫なんですか?」
「それは大丈夫よ。今、リリがいないので勝手に先行はできないのよね。君と出会った後に、リーダーは君を鍛えるって鼻息荒かったわよ」
そう言ってリンダさんは笑っている。
「そう言えば、リーダーはまだアランさんとですか?」
「そうなのよ。さっき、アランさんから呼び出されて、まだ帰ってこないのよね。そう言えば、何で知ってるの?」
「ええ、資料室から出た所で、二人が会議室へ入るのを見たんですよ」
資料室でダンジョンの事を調べていた事を告げた。
「へえ、ちゃんと下調べしてるのね。偉いね」
リンダさんから頭を撫でられ誉められてしまった。美人のお姉さんに誉められるとちょっと照れる。
そうこうしているとリーダーがこちらにやってきた。だが何気にリーダーの顔色は冴えない。
アランさんの依頼をメンバーへ伝える為、ギルド内に設置されている個室の一室へと皆を集めたが、苦虫をかみつぶしたような顔で眉間を手でおさえているのだ。そんなリーダーの様子を見兼ねたリンダさんが彼に声をかけた。
「リーダー。顔色が悪いようだけど、何かあったの?」
皆は心配そうにリーダーの顔を凝視している。テーブルに両肘をつき頭を抱えていたリーダーはおもむろに顔を上げると、言いづらそうにだが返事を返した。
「ああ、そうなんだ。あのバカ娘がまたやらかしやがった」
そして、大きく溜息をついた。
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