第6話 いざダンジョンへ

 ダンジョンの入口に付いたところ、そこにはみすぼらしい服装をした大勢の子供達が入口の周りで集まって冒険者たちに声をかけていた。


「あの子供達は何をしてるんです?」


「ああ、あの子達は荷物持ちに雇ってもらおうとしてるんだよ。体格のいい男の子には声がかかるんだがな。ここの三階層には貴重な鉱石である魔鉄を落とす魔物がいるんだ」


 アイアンゴーレム狩り専門にしてる冒険者も多くいて、鉱石運びとして雇って貰おうとしている子供たちなんだそうだ。と、ジーノさんは辛そうにそう言う。実はジーノさんもそうやって冒険者になった口らしい。


 リンダさんがその後を引き継いだ。


「だけどね、あの子達は貧しい家の子や親の無い子ばかりなの。だから満足にご飯を食べれないから、あまり体格のいい子はいないのよね」


 あぶれた子たちは一階辺りでスライムやフロッグなんかの弱い魔物の魔石やドロップ狙いでダンジョンに入る。冒険者じゃないので、本来は入れないらしいのだけど、一階だけならと大目に見てるとの事だ。


 荷物持ちポーターに雇って貰えると、スライムやフロッグ狩りよりも実入りがいい。その上、雇い主が倒してくれた魔物の経験値も入る。お金が貯まって、ある程度のレベルになれば冒険者にも成れる。それが目当てなのだ。ただし、下手な冒険者に当たると、リスクも大きいのだが……。


 しかし、今日はいつもよりダンジョンに入る冒険者は何故か少なそうだ。


「私たちも雇ってやりたいのは山々なんだけど、高階層だと魔物も強敵になってきてるから。彼らを守りながらは厳しいのよね」


 と、リンダさんは言う。そこで、ジーノさんたちは変わりに、彼らの剣術の訓練や、炊き出しやらと孤児院への献金は欠かさない事にしているのだとか。


「子供たちだけでダンジョンに入るのは心配なんだが。だけど、あいつらも食べる為に必死なんだよ」


 リーダーさんは今回は少し厄介な仕事も請け負っているので、雇ってやれないんだと、僕たちは必死で訴えてくる子供たちを追い払いながらダンジョンへと入場した。


「あのお嬢様がやらかした事の後始末を済ませないとな……」


 ◇◇◇


 ダンジョンに入る少し前、ギルドの打合せ部屋で、リーダーは吐き捨てるように言った一言。


「ああ、そうなんだ。あの”バカ娘”がまたやらかしやがった」


 あの”バカ娘”とは、僕がギルドに来た時に甲冑に守られてた少女のことのようだ。彼女はここダンジョン都市の支配者アンダーソン行政長官の娘でエレアナと言うらしい。


 彼女は父親に猫かわいがりされており、我儘放題に育った事で、思い違い甚だしい馬鹿娘に育ってしまった。質の悪い事に、公にはされていないが厄介なスキル持ちなのだそうだ。


 彼女の父親ハロルド・アンダーソン長官はかなりの強権の持主で、彼に逆らう事はここでは死を意味し、この都市では生きてはいけなくなる。なので、長官の腰ぎんちゃくである副ギルも逆らう事が出来なかったようだ。


 ここの街の住人や冒険者たちも、このダンジョンでの実入りが大きい事で追い出される事を恐れ、表だって逆らう事はしない。


 それは所属している国家ですら同様で、ここからの収益うまみを放棄する事は出来ないでいる。取り上げるという手もあるのだが、そこは大人の世界。鼻薬が大いに効いていると言うことだ。


「それでリーダー、奴さんは何をやらかしたんです?」


「例の立ち入り禁止にしてた閉鎖地区に忍び込んで、フェンリルの子供をさらったらしい」


 ◇◇◇


 僕は生まれて初めてダンジョンと言う所に入った。


 初めて入るダンジョンに僕は少し浮かれてしまった。だって、前世でやっていたVRMMOの世界そのものだったから。


 だけど、魔物と遭遇した途端、僕は気を引き締める事になる。


 そこは魔物が徘徊する場所で、一歩間違えれば、即、死と言う事もある本当に危険な場所なのだから。


 僕が育った森にも、もちろん魔物は生息している。森の深い所に行くほど狂暴だ。 森の奥へと薬草を採取に行くと高い頻度で遭遇するのだが、ダンジョン内と違い消滅する事はない。魔石や牙、ツメ、皮などが武器防具、また薬を作る上で貴重な材料になる。そして、もちろん、肉は食料だ。

 その為には解体の技術も必要になったりするわけだが。


 そこには生死に向き合う、確実に現実がある。


 その点、ダンジョン内の魔物の身体は、より多くを魔素で構成されており、討伐されれば消滅し、魔石やアイテム、武器や防具等をドロップする。そして、しばらくすれば完全な状態で復活する。その為、もちろん解体も必要ない事で、命のやり取りだと言う事に現実味を持てないのだ。


 だから僕は、それでダンジョンに入る事を躊躇してしまっていたわけだ。


 ゲームの存在を知る転生者である僕は、ゲーム感覚で判断してしまいがちで、つい、そこは魔物が徘徊する危険な場所なのだと言う事を忘れてしまいそうになるのが怖かった。


 このダンジョン世界は現実なのだと、常に自分に言い聞かせないと平常を保てないかも知れないと……。だってだ、こちらが死ねば復活なんてないのだから。


 そんなことをグダグダ考えていた所で、魔物は待ってはくれない。僕たちを認識したゴブリンが奇声を上げて飛び掛かってくるのだ。


 ◇◇◇


「今後は君をアキトと呼ばせてもらうよ。敬称は抜きだ。いいよな」


 ダンジョンではいちいち敬称なんて呼んでられないからなと言う事だ。そして、入る前にリーダーからここのダンジョン構成の説明を聞き、決して単独行動はしないようにと言われた。


「ここの塔ダンジョンは建物構成で出来ているんだよ。階層によって、異なった街並みや、または神殿やら迷路やらが広がっていたりする――――


 だからな、塀や壁、小部屋に隠れる事が出来るから、戦術が大切になってくるんだよ。

 もちろんそれは魔物にも言えることだ。隠れていた魔物に突然襲われる事もあって、気を抜くことが難しいんだ」


 だから、どんな時でも指示をよく聞いて、決して一人にならないようにしろ。常に気を抜くな! 簡単に助けて貰えるとは思うな! 厳しい顔で脅された。

 そう脅した後、リーダーはニヤリと笑った。


「だが、ウチには索敵が得意なジーノがいるから、そこは安心してくれ。それにだ……」


 このダンジョンは魔物が入って来ない場所などを確保する事が割とたやすく、野営するには適しているらしい。その上、ダンジョン内には結界を張った冒険者の集落も作られていて、宿屋や酒場、雑貨屋なども営業しており、長期で潜ってる冒険者も多いんだよね。と、リーダーから説明を受けた。


「ダンジョンに一歩入ると世界が変わる。ここが塔の中だとの認識は捨てることだ。次元が違うとでも思っておいてくれ。最初は戸惑うだろうがな」


 俺たちがちゃんとサポートするから下手な心配は無用だからとは言ってくれた。


「まぁ、そう緊張するな」


 神妙な顔をして聞いている僕の肩をジーノさんはポンとたたいた。

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