第93話 九八は何故か逆らえない
「ん……」
寝苦しくなって目を覚ました。
顔に直接朝日が差し込む。
昨日まで、まだ覚束なくて部屋のカーテンさえ閉められなかった。
そこまで歩く、数メートルが怖い。
でも……なんとか……
「やっと普通に戻った気がする。」
僕は宿のベッドから身を起こし、大きく伸びをするのだった。
王宮は、アルスハイドの国土の中央にある。
その城下町にある、『結界(を発生させる)教会』を襲い、関係者を襲い、見事撃退されて1週間だ。
正直少しホッとしているのはさておき、今回学んだことは、人生において『運』は思った以上に重要なこと。
僕は『三下』属性だ。
常に誰かを支える手下で、喧嘩になれば盾役をする。
どう考えても『不運』だろうに……
それでも『運』はあったみたいだ。
召喚勇者らしい、同年代の女の子が言った。
「運を限界まで吸った」って。
結果、砂利でも躓く。
鳥の糞は全て直撃。
馬車は向かってくるし、葉っぱも木の枝も、落下物は全て直撃。
転がる度に財布をぶちまける。
すり傷だらけ、埃まみれの僕と勇作さんを訝しみ、拾ってくれる優しい人も、盗んでいく酷い人も現れなかったが、確実に回収しきれない。
辛うじて王都から出る馬車に乗れた。
僕らの不運に同乗者を巻き込みそうで不安だったが、彼らの0ではない『運』の力に助けられたのだろう。
酷い事故は起こらずに、ちょくちょく細かいトラブルを回避しつつ、通常の倍くらい時間がかかってたどり着いたのが、『北の地方都市』リリムだった。
辛うじてあった宿(1泊2食付き)代3日分を納め、そのまま沈没。
ダルい……
これも『運が0』の影響なのか、動きたくないし、動けば転ぶ。
回復魔法は持っているけど、痛いものは痛い、当然だ。
ただ宿代が切れる4日目の朝、意を決して銀行に行こうとした僕を、勇作さんが止めた。
この世界には『銀行』がある。
正式名称『勇者銀行』。
勝手に異世界召喚とかやらかすわりに、アルスハイドは召喚勇者に親切だ。
給料も普通の3倍……
この『普通』は王宮で働く人が基準だから、実質国1番の高給取りだ。
国中を巡る勇者に給料を渡すために、大きめの町には窓口を作った。
そこを一般人が、預貯金に使用するようになった、そう言う施設。
なんと、宿代が無くなった朝、勇作さんが女将と交渉、落ち着くまでつけ払いを了承させた。
……
勇作さんにはこう言う部分がある。
この世界は日本に比べ殺伐としているから、まず馴染みでもない一般客につけ払いなどさせたりしない。
なのに、OK。
なんで?
金を手に入れた帰り道、しばらくは動くと危なかったこともあり、1日2食だった。
屋台飯を買いながら、ふと見たリリムの町は?
結界が出来、魔物が入り込むことも無く、穏やかに笑っている。
子供達が駆け回っている。
心から良かったと思うのに……
結界を破壊して、勇者が崇められる世界に戻す。
勇作さんの考えを、僕は全く認められない。
でも、従ってしまう……
なんで?
僕が三下だからなのか?
『愚者の家来』だからなのか?
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