第89話 浦島太郎10年分

 「こうなると、こっちも試したいな。」


 案の定というか、余計なことを言い出す雨月だ。


 『覗き見君』と言ったか、薄い四角形の魔道具を見せながら、こちらをチラ見してくる。


 魔道具の画面には赤いバーが。


 そこに触れると、『世界の壁』を越えて、触れた本人に関係のある人物の現状が見られるらしいのだが……


 この関係というのが、異世界に召喚されたわたし達を微かにでも思っている事、これが条件と説明された。


 10年以上前にいなくなった娘を、まだ思っていられても辛い。

 そして忘れられていてもモヤモヤすると言うジレンマだ。


 仕方がない、手を上げようとするわたしの前で、

 「ま、いいか。自分で」と、雨月が気軽にバーに触れた。


 ……

 からかわれていたらしい。


 腹立つなぁ、このモフモフオタク‼


 「あ、出た出た。」

 「ん?」

 「おじいさん?」

 「お父さんなのか、雨月の。」

 「そうそう、親父。」


 でも?


 画面に映ったのは、癇の強そうな顔立ちの初老の男。


 別に、彼がまだ娘を思っていることに疑問はないが、その背景が……


 「これ、鉄格子映ってない?」

 「コンクリート張りの床だね。」

 「みんな同じ服着てる。」

 「これって?」


 「やっばい‼刑務所入ってるわ、親父‼」


 さすがの雨月も、一気に『覗き見君』をシャットダウンさせた。


 「は?」

 「刑務所?」

 「うん。自分の親父はトレーダーでさ。Fxや株や不動産投資で儲けてた。

 今国の経済状況がどうか知らないけど、やらかしたんじゃない?」


 雨月の言葉に、いちご、世奈、ほむらが反応。


 「あ⁉コロナ‼」

 「ああ、あん時中国ハチャメチャで、大きな会社が倒れかけたりしてた。」

 「ああ、なるほど‼」


 なんか、召喚最近組が納得している。


 わたし達が知らない間に、世界はどんどんめぐっていく。

 それぐらい、遠く離れてしまっていると実感する。


 「そういうことなら、娘を思っているんじゃなくて、あの行方不明の馬鹿の財産をやらかしの補填に充てたい、とかそう言うのだよ。」


 全然気にしていないような、雨月が笑う。


 「いや、いっそこのヘイトもある意味『力』だし、返還に利用できないかな」とか、言っている。


 強いな、この人。


 「あー、でもこれじゃデータ足りない。自分でやるにしても、さすがに刑務所の親父を何度も見るのも気が引けるし。」


 あ、一応娘だったみたい。


 困っている雨月に手を挙げたのは、意外な人物だった。


 「あ、じゃあ、うちのを見ていいよ。」

 「世奈⁉」

 「いいの⁉」

 「あ、て言うか、うちもそんなに思われてないし。今に始まったことじゃないし、昔からだから慣れてるし。」


 え?


 世奈?


 


 


 

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