第44話 猫ならともかく、ドラゴンの腹は和まない

 「うわ、ドラゴンってでかいんだな。」

 思わずの呟きに、

 「もっと大きいのいるよ、キング・ドラゴンとか」と、千夏がサラリと答えてくれた。


 「名前がまんまでセンスねぇ。」

 「わかりやすいのが1番でしょ。」

 「まあ、そうだけど……」

 「にしても、大きいですねぇ」と、感心したように世奈がため息。


 非常事態なのに、余裕でハイを抱っこしている。

 ハイもぐっすり寝ている。

 緊張感ねぇ。


 王宮上空にドラゴンが現れたというので、朝食を食べまったりしていた私達は、皆で見物に来た。

 アルスハイドの人々は慌てているが、今この国は朔夜の結界に覆われている。


 入り込まれることはあり得ないので、余裕だ。


 「ドラゴンとか上位の魔物って、魔力が大きいものに引き寄せられるんだよ。王宮にこれだけ勇者がいて、しかも魔力量チートのいちごがいれば、いずれ来ると思ってた。」

 って、先に言えや、千夏‼


 ドラゴンは真っ直ぐ王宮を目指し、今上空にも張り巡らされている結界に阻まれ、ジタバタしている。


 降りたいのに降りられない。

 そんなところだ。


 視認できない結界が、そこにドラゴンが張り付いているからよくわかる。

 上空数10メートルに膜があり、そこから魔物は侵入出来ない。


 腹、白っていうより青みがかっているな。

 体表はもっと強い青で、深い海の色みたいだ。


 「あれはアクア・ドラゴンね」と、千夏。


 「?」

 「この前言ってた、赤竜より上なのか?」

 「赤竜は飛ぶだけのドラゴン。こいつは、」


 千夏の解説を待っている場合じゃないと、急に大口を開けたドラゴンが勢いよく水を吐き出す。


 「うおっ‼」

 「すごっ‼」


 大量の水は結界の外をつたい、アルスハイドの周囲の魔の森へ注いでいく。


 うん、オークが流される姿が目に浮かぶ。


 「水魔法を使うよ。」

 今更どや顔の千夏に、

 「遅いよ‼」と、怒鳴る。


 庭でドラゴン見物を続ける耳に、

 「おわああぁ‼逃げなくていいの、あれ‼」と、初めて聞く声。


 やった、かかった‼


 ……

 いや、日本食で釣れたわけじゃないか。ドラゴンさん、ありがとう。


 「ああ、この子、17号。」

 「なんでテンション低いの、千夏。」

 「召喚されてすぐ大暴れされて、バカバカ殴られればこう言う反応にもなる。」

 「ああ。」

 「なかなかのユウシャですね。」

 

 17号は、世奈と年が近い感じだった。

 髪はこっちに来てから切っていないのだろう、腰に届くくらいの黒髪。

 足が長くて頭が小さい。

 顔立ちは地味だが、磨けば光りそうな子だった。


 一向に慌てない私達に、

 「ちょっと‼逃げなくていいの、あなた達‼」と、騒ぐ。


 「あなた達、召喚者でしょ?」

 「幸田千夏。」

 「大崎いちご。あなたは?」

 「悠木ほむら‼」

 「あ、うちは坂谷世奈。こっちは息子のハイ。」

 「いや‼」


 「自己紹介やってる場合じゃないし‼」と、ほむらが吼える。

 ノリ、いいなぁ。


 「まあ、結界あるし、大丈夫でしょう。」

 「いや、でも‼」

 「まあ、もうちょっと待ちな。そろそろ、結界の制作者が来るだろうし。」


 千夏の予言通り、遠くから駆けてくる朔夜の声が聞こえてくる。

 「おーいっ‼いちごさーん‼千夏さーん‼」

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