第9話 オークで構成された女

 「だって、魔石は取っておけって言われたんだもん‼」


 いや、一々可愛いぶるな、この饅頭王は。

 

 駄々っ子中年。

 うん、可愛くない。


 勇者18号中心の王国結界システムに、必ず魔石が必要になる。

 特大のドラゴンの魔石なら、おそらくオートで10年くらい結界が張れる。

 歴代勇者が倒した(主に初代)魔物の魔石だが、大きなものは残り10数個。


 絶対取っておけと怒られたんだそうだ。


 で、ここで魔力量がイコールならいけるんじゃないかの、発想。


 王宮魔導師10人を、一般人100人とすり替えた理屈だ。


 「オークの魔石も10000集めれば召喚できたよ。」


 その結果が『勇者マイナス』。

 『食料召喚』で、『爆食王』だよ‼


 「いや、さすがオークだね。」

 笑いを噛み殺す千夏をギンと睨む。

 「いや、ごめんごめん」って、まだ笑ってるじゃんか‼

 

 「で、大福。これ、野良なの?家畜なの?」

 「え……」

 「言わなくてもいずれバレるよ。」

 「……家畜の方です。」

 「マジか‼」

 またまた爆笑した千夏。


 「いや、8年位前かな?魔物のオーク、肉はうまいから、これ飼ってみたらどうだろうって。」


 子供のオークを数匹生け捕りにし、柵の中で飼ってみた。

 交配させ、いわゆる畜産を試した結果。


 「今は一大産業になってる。安定して食肉が手に入るし、オークは見かけも変化して、日本で言う豚そのものになって……」


 豚だよ、豚‼

 ブーブー言ってて、柵の中で飼われてて、丸々太って。


 でも元が魔物だから、魔石だけは取れるんだって。

 それをかき集めたって……


 「もうじわげございまぜんでしだぁ。」

 私から立ち上る殺気に饅頭が再土下座、笑い過ぎた千夏が呼吸困難になった。


 ……


 「で、どうするつもりなの、大福?」と、千夏が聞いた。

 

 本音なら石くらい抱かせたい。

 机の上で正座させられている饅頭だ。


 「2人に、勇者達が帰る方法を探して欲しいんだよ。希望者は返してあげたいじゃん。僕、人道的だし。」


 どこがじゃ‼勝手饅頭‼


 「また人に押し付ける気、あんた。」

 「いや、だって‼勇者の中で1番頭脳派なのは千夏ちゃんだし、1番帰りたいのは最近召喚されたこの子かと思って‼」


 馬鹿饅頭と思ったが、でも……


 「協力して、千夏。」

 「……帰りたい?」

 「そりゃ、帰りたいさ‼私はまだ、何も返せていないんだから‼」


 母子家庭育ち。

 最初は総合格闘技の選手をしていて、20歳までは女子プロだった。

 けれど、相手の指が目に入った時‼


 「千夏のヒールで治ってるけど、網膜がやばかったんだ。引退せざる得なくて、なんとかスポーツに関わりたかったけど、医師は無理だし。浪人して看護大学入って、やっとおふくろに返せるところだったんだ。」

 「格闘技の選手……それで、腕ひしぎ十字固め……」

 「あ、ちなみに金髪は地毛な。爺さんがドイツ人だったか?あと、私も知らない父親は、金髪のアメリカ人だって、おふくろが。」


 「は‼4分の3西洋人なの⁉️」

 驚く千夏。

 「うん。」

 「……東洋系って。」

 「うん、すごいよな。」

 

 髪だけ金髪、でも顔立ちは派手な日本人に見える私です。

 東洋系の遺伝力?ヤバい。


 「帰りたいから協力して。」

 再度言うと、

 「仕方ないな」と千夏が頭を掻き、何故か嬉しそうな饅頭。


 話が進むと思った矢先、

 「すいません‼勇者様方‼アルスハイド王‼」と、文官風の男が飛び込んできた。


 「大変です‼前回召喚された勇者様が産気づきました‼」


 はい?

 どう言う展開?

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