小国の王子から婚約破棄を言い渡された私は、学園を飛び出し、雨にうたれて泣いていました。そのとき、傘を差しだしてくださったそのお方は、超大国の心優しき王子様でした。【短編】

武志

第1話 私は婚約破棄され、雨に濡れています

「君とはもう、おしまいだ。婚約を破棄はきさせてもらおう!」


 ルータス王子は言った。


 ここは、王立ルバリック学園の進級パーティー会場だ。


「な、なぜでございましょう?」


 私は驚いて聞いた。


「なぜ婚約を破棄はきするのか、と聞いたのか?」


 ルータスは茶色い長い髪の毛をなびかせ、言った。

 

 彼は背が高く、すらりとしていて、街を歩いていても女性が振り向くような美男子だった。


「君が、面白味のない女だからだよ! 話をしていても、何も楽しくない」

「そ、そんな」


 確かに私は口下手で、内気な性格だ。


 ──私の名前は、ターニャ・エルロンド。17歳だ。


 一方ルータスも17歳で同級生。このエクセン王国の王子だ。


 私はこれまで、ルータスに様々なことをくしてきたつもりだった。


「そもそも、君は平民じゃないか!」


 ルータス王子は言い放った。


(確かに私は平民だ……。王子のあなたとは、立場が違いすぎる)


 私の両親は平民であった。そして──2年前、事故で死んだ。


 2人は、ルータスの両親──つまりこの国、エクセン王国の王と王妃の親友だった。


 学生時代から、とても仲が良かったらしい。


 親同士、仲が良かったので、私とルータスは15歳のときに婚約した。


 しかし私は今、婚約破棄はきを告げられた。


「私が平民だから、私を捨てるのですか?」


 私がそう言ったとき、後ろから少女の声がした。


「そうよ! 平民風情ふぜいが、王子に近づかないでよ!」


 美しいブロンドの髪の毛をした少女が、私たちの後ろから歩いてきた。


 彼女の名は、グロリア。グロリア・マーセル。私のクラスメートだ。


 エメラルド色の美しいドレスを着て、ピンク色のハイヒールをはいている。爪は美しくみがかれ、輝いている。


 学園で1番の美少女だった。


「王子には、私のような大貴族の娘が似合うのよ!」


 そう──グロリアは大貴族の1人娘だった。


「ああ、グロリア」


 王子はグロリアを抱き寄せた。


「何て美しいんだ!」

「まあ!」


 私は思わず声を上げた。


 まさか! グロリアと浮気をしていたなんて!


「何を見ているのよっ!」


 グロリアは私をにらみつけた。


「あなたと王子の婚約は、もう解消されたんでしょう? 私と王子はね、3年前から恋人関係を続けてきたの」

「さ、3年前?」


 3年前というと、私と王子が恋人関係になった時だ……。


 グロリアは激しく話を続ける。


「王子は、あんたみたいな器量の悪い娘と付き合っていたなんて、かわいそうだわ!」

「そ、そうですね……」


 そうだ……。王子に似合う婚約者は、グロリアのような美しい少女なのだ。

 

 私のような平民で、器量が悪く、不器用で、表情のかたい女の子ではない……。


「いい加減、ジロジロ見てないで、パーティー会場から出ていきなさいよっ!」


 パシイッ


 グロリアは私のほおを、平手でひっぱたいた。


「まあまあ、その辺にしとけよ、グロリア」


 ルータス王子は、ニヤニヤ笑いながら言った。


「こんな面白味のない女に構っていても、仕方ない。付き合っていても、親や親戚しんせきの金も期待できないしな!」

(そ、そんな!)

 

 やはりお金か……。私は親も死んでいるし、エルロンドの家系は平民だから、もともと財産もそれほど持っていない。


「大貴族の娘の私なら、お金の面でも──ルータス、あなたを支えられるわ」

「将来の心配はないというわけだ。パーティーの続きをしよう!」

「いいわね」


 2人は、奥の部屋へ行ってしまった。



 私はフラフラと学園の外に出た。


 雨が降っている。


 私はかさもささずに、家に帰ることにした。


 家に帰っても、両親も誰もいない。


 両親は3年前に、事故で死んでいるから……。


(私は1人ぼっちだ)


 ドガッ


 私が家に向かって道をあるいていると、おじさんとぶつかってしまった。


「ああー? なんでぇ、お前はぁ」


 酔っ払いだ。


「みずぼらしい女だな! どけ!」


 おじさんは私の肩をドガッと押した。


 私はよろけ、地面に尻もちをついてしまった。


「なぜ……なぜなの!」


 雨は私の涙のように、降り注ぐ。


「ああ、神様。どうして私はこんなにまで、不幸な気持ちなのでしょう?」


 しかし、雨は止まない。私は起き上がる気力もなく、ただ、道ばたに座り込んでいるだけだった。


 そのとき──。


 馬のひづめと、車輪が止まる音が聞こえた。


「君、どうしたんだ?」


 私が振り向くと、道路には馬車があった。


 そして馬車の前には──かさを差した、背の高い男性が立っていた──。


 この時は、彼こそ私の運命の男性になるとは、思いもよらなかった。

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