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日の上る時刻であったが、やはり駐車スペースに母の車はなかった。それはまさにユウタが家路につく前に予想した通りである。なぜならユウタの母親がこの時間帯に家にいることはほとんどないからだ。
今住んでいる平屋造りの一軒家は、見るからにとても古くて貧乏臭い。しかも兄含む親子三人が住むにはあまりにも狭かった。
しかしそれでも月二万円で一軒家に住めるのだから、本当は深く感謝すべきなのかもしれない。この家を貸してくれたのは母の友人である。
ユウタはなるべく音を立てないよう、慎重に玄関の扉を引いた。入るとすぐに、スニーカーやスリッパなどが無造作に投げ置かれているのが目についた。
薄暗い部屋の中はしんとして、なんの物音も聞こえてこない。どうやら兄も出かけているらしい。
兄はつい二ヶ月程前に大学生になったばかりで、最近は毎日のように遊び仲間と外をほっつき歩いている。
ユウタの家の中は足の踏み場もない程、理解不能のガタクタで溢れ返っている。例えば、自転車のタイヤチューブ、サイフォンコーヒーの器具、小さめのガスコンロ。
それらは全部、母が人の家から持ち帰ってきたものである。もちろんそんな役に立たないガラクタを、ユウタが使用したことは今までに一度もない。
母は、そんな人だった。そして、母の姉である叔母は、そんな人ではなかった。
ふと潮の香りが鼻を掠めた。そろそろ朝日が上るらしい。ユウタの住む地域では、朝早くの時間帯に海からの潮風が少しだけ強くなるのだ。
学校の時間だ。だけどやっぱり面倒くさい。身体に怠さを残したまま学校に行くのはどうしても億劫に感じる。今回も適当に言い訳しよう。
ユウタはそう考え、畳の上にごろんと寝転がる。自分の予想よりもだいぶ早くに眠気は訪れた。
ユウタは今、齢13の中学一年生である。しかし、夢の中ではなぜだか小学一年生のままで、いつまでも母の手に引かれて歩いている。
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