モハメド・アリさんマークの引っ越社🐜
シバゼミ
こんな引っ越社は最高だ!
4月は引っ越しシーズンです。
なかなか大手の引っ越社の値段が高く、
僕はモハメド・アリさんマーク引っ越社にお願いしました。
ギキィィィィー!
窓からのぞくと、ひどいブレーキ音。トラックがハウスごと、引っ張ってるけど。
家ごと、移動する気か? 引っこ抜く気か?
中からターバンを巻いた作業員がメチャクチャ出てくる。
1人、2人、3人、10人、20人、ヤギ、ヤギ、ヤギ、…。家の前で放牧すな‼
しばらくして3階アパート、僕の部屋。
「こんちわ。歌と踊りを届けるモハメド・アリさんマークの引っ越社です。」
その前に荷物、運ぼうよ。
「大丈夫です。今、1階から届けてますんで。」
いや、やめて。たのむから。
「フフン、その心配ないですよ。この部屋で、ピークにもってきますから。」
いや、そうじゃないって!
「とりあえず、小物から運びますんで。まずはあなたから。」
わかるけど。わかるけど、なんか失礼…。
下の階から歌と踊りを終えた作業員たち。
ぞくぞくと僕の部屋へ集まってくる。
「では一曲、聞いていただきましょう。
お題は『明日があるさ』。」
どんな選曲! でも、ターバンつきの圧巻ダンスは見てみたいかも!
「そうだ、土足厳禁ですよね。まずはじゅうたん、しきましょう。」
結局、歌わないんかい! てか、手織りのペルシャじゅうたん‼
すごく複雑。むしろ、しかないでほしい。
さらには多くの作業員が保護パネルをはりだした。そこで、僕は困る。どこにいようか迷ってしまう。
案の定、注意を受けてしまったよ。
「もし、ヒマなら上の階へ行ってください。」
はいはい、邪魔ってことだよね。
「まだ、4階・5階でも踊ってますから。まざってください。パラパラです。」
もう、アパートまるごとホコリまみれだ!
別の彼らが願い出る。
「じゃあ、しばらくキッチン借りますよ。」
じゃあの意味。はいはい、そばでも作るんですか?
「ヤギ、さばくんで。」
やめて! のぞんでないのに、殺人現場‼
手際よく、家具・家電が保護材につつまれていく。ヤギ、さばかれていく。
「クローゼットは運びますか? ここから落としますか?」
運んでください。
「モト彼女との思い出は残しますか? 捨てますか?」
ん~~~、多くの男性はYESだろ。
「残しても、戻ってきませんが、捨てますか?」
そっと、ダンボールにしまっておくから見逃して!
「そんなんだから、重いって言われるぅ~。」
聞いたふうな口を聞くなー!
「いや、分かるんですって。家に帰れば、5人の妻によく言われるから。」
もう圧倒的、敗北感‼ 僕はよろけて、落ちるかも。
「大丈夫ですよ。昔の妻は妖精、今は魔神だ。でも、そこがいい! 男も女も心強くです。」
ありがとう! なんか勇気が出てきた‼
それはそうと、皆さん。多くの作業員が右手しか使ってないんですね。なんか理由でもあるんですか?
「ええ。左手は不浄といわれますから。『僕の右手、知りませんか?』。」
知らないよ。てか、ブルーハーツをよく知ってんな!
「冷蔵庫の後ろから『でらべっぴん』がっ!」
よく知ってんな!
「ベッドの上から偶像がっ!」
それはアニメヒロインの抱き枕じゃ‼
「ベッドの下から、大量のコーランがっ!」
それが彼女と思い出ダンボールじゃ! 泣きたいほどの僕の聖書!
これ以上、重くなる‼
「はい、捨てましょう! どんどん重くなりますから。春はスプリング。しがらみも解放しましょう!」
わかりました。ごもっとも。
ヘトヘト。引っ越しとはこんなにつかれると思ってもみなかった。むしろ、キッチンでの調理のほうが時間かかっているけど。ちょっと、のぞいてみたりして。
「私たちはブタを食べることはできません。」
へ~~~、大変なんだね。
「だから、菜食主義者が多いんですよ。」
へ~~~、だからって、すかしッペすな‼ ちゃんと臭うわ‼
「このあと、10分間サービスが選べます。トイレの中をカモミュールの匂いにするか、冷蔵庫の中をカモミュールの匂いにするか、どちらにしますか?」
絶対、トイレ一択だろ。いらんサービスだわ。
「では1階のトイレから…。」
たのむ、たのむから周りを巻き込まないで。
「フローリングに傷がありましたよ。」
なるほど。傷のチェックね。確かに僕がつけていたものです。あなたがたは関係ない。
「後ろに霊がついていましたよ。」
確かに僕がっって、その確認が一番こわいわ‼
「安心してください。一緒に運びますんで。」
いえ、結構です。
「そうですか。あなたの顔によく似た…。とてもおだやかな顔をした女性の…。」
まさか死んだおばあちゃん! ずっと、僕を見守ってくれていたんだ(涙)。
「ヤギ」
さっき、さばいた! うらみ違いにも、はなはだしい‼
なんだかんだで1時間以上。
ただ、時間の心配より、手織りの高級じゅうたんが砂だらけになっていく。それが恐怖でしかなかった。
僕は作業完了のハンコを押す。
「ハイッ、これで終了ですね。エンディング曲は『いい日、旅立ち』。」
う~~~、名曲なんだ。名曲なんだけど、物悲しいんだよ。
そんな落ち込む中、アパートの住民からのプレゼント。別れ際の紙テープのアラシだ。まるで豪華客船の出港時。
そうか、これが
そうだ、夢と希望はこれから先だ!
ただ、大家だけが激怒って。
「あんた! キッチン、毛だらけよ‼」
さばいた! 血も涙も置いていこう!
毎日が新しい門出。さあ、新生活! いらないものは置いていけばいい。やれなかったことが今日できるかも! いきおいだけでガンバロウ‼
モハメド・アリさんマークの引っ越社🐜 シバゼミ @shibazemi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます