ボクとビッチとビッチとビッチ~僕のテーブルゲーム部を占拠したビッチ達が、僕を玩具に不健全な罰ゲームを始めました~

蔵沢・リビングデッド・秋

1章 小悪魔とババ抜き

1 ビッチとビッチと初恋の人

 ガコン。


 そんな音と共に、自販機の中で缶ジュースが落ちてくる。チャリンチャリンとおつりが戻ってきて、僕はそれを拾い上げてまた自販機に入れ、ガコン。また入れて、ガコン。


 そうやって缶を三本。

 ストレートとミルクとレモン、味違いの3つの紅茶を手に取って、僕は深くため息を吐いた。


「ハァ……。週5で3本。1500円。それが一か月で……6000円か」


 バカにならない出費である。

 僕は肩を落とし、ちょっと憂鬱な気分のまま、校舎横の自販機を後に部室棟へと歩んでいった。


 真横を過ぎ去っていく窓ガラスには、背が低く気弱そうで線の細い、オーラからして既にいじめられっ子な少年が映り込んでいた。


 もうちょっと、背が高かったら。もうちょっと、精悍な顔立ちだったら。あるいはもうちょっと骨太だったら、毎日毎日放課後が始まると同時にジュースを抱えて俯き加減に部室に向かう事にはならなかったのだろうか。


 そう俯き歩んでいる内に、部室に辿り着いたらしい。


 部室棟2階。その一角にある、テーブルゲーム部。


 僕はその部活の部長である。だが、その部に踏み込むのが今は憂鬱だ。いや、憂鬱、とはちょっと違うかもしれない。どっちかと言うと複雑、だろうか。


「ハァ、」


 もう一度ため息を吐き、僕は部室の引き戸を開けようとして……その時、だ。少し手元が狂って、持っていた紅茶の缶を床に落としてしまった。


 ゴン、ゴンと言う音が廊下に響き渡り、僕は慌てて缶を拾い上げる。


 同時に、テーブルゲーム部の部室の中から、何やらガシャンと、何かが崩れ落ちるような音が響いた。


「……今日は、ジェンガ?」


 中にいる部員達がやっているんだろうゲームに当たりをつけながら、僕は、僕が部長の部室なはずなのにどうしても「失礼します……」と小声で呟いてしまいながら、その戸を開けた。


 途端、僕の視界に入り込んだのは……部室の中心で崩れたジェンガを囲んでいるちょっと派手めな女子3人である。


 そのうちの一人が……もしかしたら今は彼女の番だったのだろうか。机に頬杖を突き、片手に今引き抜こうとしていたのだろうジェンガを一本持ちながら、疑う様に、僕に視線を向けてくる。


「久住くん。……わざと?」


 黒髪ロング。ぱっと見クールな雰囲気のスレンダーな少女だ。いつもカーディガンを羽織っていて、袖は長め。黒いストッキングを履いている。


 名前は、朝間麻衣。ご要望の品はストレートティーである。


 そして、そんな彼女の向こうで、窓際に腰を預けスマホを弄っているのは、金子加奈子だ。


「マジ?ご指名?……策士じゃんユキちゃん」


 カールの掛かったセミショートの茶髪をツインテールのようにまとめている少女だ。その口元にはいつも黒マスクが装備され、その素顔を僕は未だ見たことがない。着ているのはブレザーだが、リボンはつける気がないらしくシャツの胸元が開いていて、そこに銀のアクセが見える。ご要望はミルクティー。


 そしてそんな金子さんの横、朝間さんの向かいに腰かけているのは、おそらくその3人組のボスなのだろう、少女。


「つうかおせぇよ、クズ。……早く飲み物寄こせって」


 派手な金色の髪をしていて、耳には銀のピアスが複数。カラコンなのか元々の色なのかは知らないが目は青く、カーディガンを身に着けてはいるが腰に巻くだけ。そしてまだ6月で肌寒いはずだがシャツの袖をまくっていて、胸元も開きまくっていて、谷間はおろか黒い下着まで見えている。


 名前は、刑部ミカ。そんな刑部さんの元へ、「あ、はい……」と平伏するような気分で、僕は彼女がご要望なレモンティーを置き、金子さんにミルクティーを渡し、朝間さんにストレートティーを渡し……。


 そして、それ以上何も言わず、僕は部室の隅っこへ引っ込んでいった。

 そんな僕を半ば無視するように、彼女達は身内で言い合う。


「ねえ、今のなしにしない?」

「いや、ナシはないっしょ」

「ショーブはショーブだろ?恨みっこな~し、」


 そしてその様子を、僕は邪魔にならないように眺めていた。


 僕は、この部の部長である。そして彼女達は一応、この部の部員である。だが、カースト的には完全に僕が最下位である。


 こうなった経緯を端的に語ろうか。


 まず、去年は平和だった。このテーブルゲーム部の先輩達と、僕は暢気にオセロやらジェンガやらして過ごしていた。


 だが、問題だったのはその先輩達が全員3年生だったと言う点。当然、進級と同時にテーブルゲーム部の仲間達は全員卒業してしまい、残されたのは僕一人。


 このままでは廃部と言う危機に悩んでいた僕の前に現れたのは、我が部に勝手に入り込み我が部の備品であるテーブルゲームで勝手に遊んでいたビッチ達である。


 そう、彼女たちはこの学校で悪名高いビッチグループなのだ。


 朝間マイと、金子カナコと、刑部ミカ。見た目もさる事ながら、その武勇伝もまた、ギャルを通り越してビッチ。


 朝間さんは一見大人しいが裏で男を食いまくっている、とまことしやかにささやかれているが僕はそうじゃないんだと信じたい。ここはややこしい話になるから一回スルーしよう。


 金子さんからガチである。なんと去年1年だけで10人彼氏を作って10人フったらしい。しかもその10人全員と一回関係を持った直後にフっているらしく、故に彼女はこんな異名を持つ。


 “ヤリ捨てのカナコ”。


 常時マスクなのも相まってその素顔を見た者はヤリ捨てられると言う都市伝説まで出来上がっている。ちなみに僕はその素顔を未だ見たことがない。ジュース飲む時ですらちょっとマスク上にずらして飲んでるのだ、“ヤリ捨てのカナコ”は。


 そして、刑部さんは更にその上を行くガチ中のガチだ。端的に言えば、頼んだらやらせてくれる女らしい。超絶遊びまくっていて、学校内でも彼女と一夜、と言うか放課後を共にしたと言う者は数知れない。特に恋人がいる訳ではないらしいが、それ故にか大人なお友達は多い。流石にその現場を目撃したことはないが、頭を下げる男子の先輩を前に、


『ゴムは?……ないなら買って来いよ』


 と言って体育倉庫へ消えていく彼女を目撃したことはある。


 とにかく、だからこの3人はこの学校でビッチとして名高い。そのビッチ達がある日我が部室を占有していて、気弱な僕は出て行って欲しいと言うにも言えず部屋の隅っこで空気となり。


 後日、……ある意味流石ビッチと言うか、学校内で大声で言えない情報網が凄いのだろう彼女達は、この部が存続の危機と知ってか僕に入部届を渡してきた。


 条件は、『飲み物と快適な遊び場の提供』である。


 いわゆるヤリ部屋にされるのかと僕は危惧したが、彼女達が男を連れ込む気配はなく、基本的にはテーブルゲームで遊びつつ僕に飲み物をパシらせるだけで……だが、そこはやはりビッチ。本来僕のような愛好家でなければ退屈なはずのテーブルゲームに刺激的な要素がいつの間にか追加されていた。


 それこそが、


「てかさ。マイ。罰ゲームは?」

「そうだよ。やれって早く」

「え~?」


 そう言いながら、金子さんと刑部さんに急かされ、渋々と言った具合に、朝間さんは僕の元へと歩み寄ってきた。


 そう、罰ゲームだ。この部には、彼女達に占領されてから、ビッチ的罰ゲームが導入されてしまったのだ。


 最初はそこまで過激ではなかった。部室を占領されて所在ない僕と、ゲームに負けた誰かがオセロをするとか、将棋をするとか、チェスをするとか……そう言う僕的にはいろんな意味で(ソレ罰ゲームになるんだ……)と泣きたくなる奴だった。


 だが、それではビッチ的にも面白くなかったのかだんだん方向性が変わって行き、負けたら僕と握手とか負けたら僕と恋人繋ぎとか僕の尊厳を踏みにじられる方向に行ったかと思えばその果てに“僕とハグ”が発生して僕の価値観はバグった。


 負けたら僕とハグである。向こうからすれば嫌だろう。だが僕的には正直役得である。そしてビッチ達は案の定そっちの方向にスリルと面白さを見出してしまったのか、罰ゲームをだんだんとエスカレートさせていき……近頃のルールはこれだ。


「……わざとだったら恨むからね?」


 そう言って僕を睨み上げると、朝間さんはスカートをたくし上げた。


 いわゆるレギンス。もしくはパンティストッキングだったらしい、白い素肌が覗くことのない黒いストッキングを僕に見せ、僅かに頬を朱に染め僕を軽く睨みつけながら、朝間さんはスカートの裾を持ち上げていく。


 それを、僕はガチガチになりつつ凝視していた。そしてそんな僕を面白がるように、向こうでガチビッチ二人が笑っている。


 だとしてもそう……だから、複雑なのだ、色々。


 朝間さんが、頬を朱に染めながら、僕にだけ見えるように、スカートを上まであげる。


 そうして見えた、スカートの下。そこにあったのは、けれど、期待したような光景ではなかった。


 短パンである。短い体操服の下だ。朝間さんはレギンスの上にそれを装着していて、……だが自分からスカートをめくっているだけで恥ずかしいのだろう。


 朝間さんは頬を朱に染めつつ、小声でこう言った。


「……久住くん。これで、見た事にしといて?お願い」


 その言葉に小さく頷いた僕を前に、朝間さんはスカートを下ろし、元の澄ました表情に戻ると、奥にいるガチビッチ二人の元に戻って行き、言った。


「……これで良い?」

「まあ、良いんじゃね?ね、ミカ」

「なんかリアクション薄いけどな……。次から上にするか?」

「ちょっと……」


 とか言いながら、朝間さんはテーブルに戻って行き、そしてまた、次のゲームの準備が始まった。


 その光景を大変複雑な心境で、僕は眺めていた。


 ちなみにだが、ガチなビッチの金子さんと刑部さんは、本当に見せてくる。金子さんは日によって色が違う。刑部さんは大体黒い。そして、そんな二人と高校に入ってからつるみ出したらしい、他二人に引っ張られビッチのレッテルを貼られ二人に話を合わせているらしい朝間さんは、……罰ゲームをどうにか頑張って回避しようとしていた。


 要は、ビッチ3人衆に一人、レギンス越しですら下着を見せたくない身持ちの固い子が混じっている集団に僕は弄ばれている訳である。


 しかも、もっとめんどくさい要素も、この部室にはある。

 僕と朝間さんは、同じ中学校の出身だ。


 そして、……朝間さんは僕の初恋の相手である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る