明日喪き我らの征く先は Bride of Rip van Winkle 【第9回角川文庫キャラクター小説大賞参戦版】
企鵝モチヲ
序章 グッバイ、フロンティア! ハロー、デッドエンド!
これは、事実に近い物語である。
『明日へ向かって撃て!』
そこはかつて、
整然と区分けなんてされていなかった大地。
数えきれないほど沢山の
飛び交う銃弾と硝煙のにおい。
そこは、純粋な自由が満ち溢れる世界。
ビリー・ザ・キッドや【ジェシー・ジェイムズ一味】のように威勢溢れる
俺たちが駆け抜けていくのは、そんな世界。
俺たち【ワイルドバンチ強盗団】が駆け抜けていくのは、そんな世界。
明日なき今日という刹那の瞬間続きで構成されているであろうそんな世界を、明日喪き我ら【ワイルドバンチ強盗団】は駆け抜けていく。
生き抜くことの不安も、死ぬことの恐怖も、そんなの全部後回し。
ひたすらに、
がむしゃらに、
ただただ真っ直ぐに、
ずっと、ずっと――
ぐるんっ、と視界が回転したと思ったら、受け身をとる間もなく床に叩きつけられていた。
我が身のことながら、他人事のように思う。こりゃあ死んだな、今度こそ本当に、と。
不揃いの石を泥で固めて作っただけの土壁を突破した銃弾は、猟犬の牙となって俺の身体を容赦なく喰い破った。
衝撃が重さを伴って突き抜け、一瞬、呼吸が止まる。気付けば、床に倒れ伏していた。
穿たれた銃創からは血が、指先からは力が、止まることなく溢れ出ていく――立ち上がろうとする、気力すら。
痛みが灼熱となって身体中を駆け巡るも、喉から苦鳴が迸ることはなかった。吐き出されたのは、血反吐だった。
「ここまで、か」
どうやら、俺はここで終わりらしい。だが、それは俺だけに限られた話ではない。
越えればなんとかなっていたはずの州は力を合わせ始めたし、協力者であったはずの牧場主たちは分け前にあずかるより平穏な稼ぎを望むようになった。
そしてなにより、あの忌々しい【ピンカートン探偵社】がのさばっているとくる。
「斜陽だな」
ああ、そうだ。
そういえば、ここ最近
苦い笑みが、自然と浮かんでしまう。
それはともかく、斜陽か。ちなみにそれは、時代か? それとも、
でも、そんなの今更じゃないかってんだ。なぁ、そうだって思わねぇか?
「それじゃあ、そろそろ
目を閉じて、引き金を引く。
さようなら、二〇世紀。さようなら、我らが愛する
そして――さようなら、ブッチ・キャシディ。
時のうつろいに抗えなかった俺は、明日ではなく今日の残り香を抱いて、ここではないどこか遠くへ――
そして轟いた銃声は、これからの旅立ちを祝福する鐘の音。
確かめずとも、弾はちゃんと二発残っていた。
一九〇八年十一月。ボリビアの山村、サン・ヴィセンテにて。
史実が語るところによれば、ブッチ・キャシディ――
記録が語るところによれば、その最期は決して劇的なものではなかったとされる。
籠城していた小屋を騎兵隊に包囲され、追い詰められた末の自殺。残されたのは、惨めな死に様を晒した物言わぬ躯だけ。
所詮、
だが、
その炎は、燐が発する光のような
それが部屋いっぱいに満ち溢れる様は、いっそ幻想的だ。恐怖を忘れて、ほけーっと見入ってしまうぐらい。
そんな、おおよそ現実ではありえない光景の中――アトリは、銃を向けられている。
古めかしい銃だ。アニメやラノベに出てくる、ワルサーP38とかSIGザウアーP230とかみたいな、モダンで角ばったものとは違うデザイン。
見た目は無骨。だけど、作りはシャープで美しい。
リボルバーだ。またの名を、回転式拳銃。
西部劇でよく観る銃だ。クリント・イーストウッドが演じる
「で、だ。くだらねぇ前置きはここまでだ。正直に答えてもらうぜ」
【再生】した際に新しく生え変わったアッシュブロンドの髪が、炎に照らされて
そんな銃を、アトリに向ける男がいる。
この男の名は、ザ・サンダンス・キッド。
「俺の相棒はどこにいるってんだ? なぁ」
アトリは、呆然と呟く。
「……なんでこんなことになったんですか?」
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