第5話


 男子高校がコーヒーを淹れて飲む映像がテレビで流れている。


 オレが映っている。まぁ、オレで撮ったCMだから当然なのだが自分がテレビで放送されるってなると、こう、むず痒いものがある。


 「このCMはお前から見てどうだ?」


 「…自分でイメージしてたのとはだいぶ違う」


 「それは良かったってこと?」


 「いや、逆です。イメージよりもだいぶ低い。自分としては及第点ギリギリのデキですね」


 「蓮太郎君自分に厳しいねぇ」


 「それでいい。ここで満足してちゃ困る。役者は常に上を目指してこそだ」


 CM撮影から1週間が経ち今日も今日とて学校帰りに本能寺に寄っている。


 寄っているっていってもここがオレの仕事場なんだけどね。



 「またなんか仕事とかきてないの?」


 あれから1週間も経つし、この1週間特に何もしてないから何かしらの活動をしたい。


 「次は決まってるぞ」


 衝撃発言きたー!


 「ちょっと煙草さん!そういう大事な事はもっと早く教えてあげて下さいよ」


 「次は何のCMなんだ?」


 「CMじゃねぇよ。次はリアリティショーだ」


 「えぇ!リアリティショー⁉︎大躍進じゃないですか!」


 花さんが大興奮している。

 オレ、リアリティショーって見た事ないんだよなぁ。


 リアリティショーとはテレビ番組で、状況のみを設定しておき、台本なしで、出演者の本当の反応や人間関係などを見せるもの。


 ネットニュースとかでたまに見るけどそういうのって恋愛がメインのが多いと思うんだけどオレには無理そう。


 「オレには厳しそうなんだけど。恋愛とかできない」


 「心配すんな。お題は別だ」


 違うのか。ならまだ何とか…。


 オレが密かに希望を見出していると。


 「ええっ!?なんでですか!蓮太郎君が呼ばれるって事は学生世代でしょう?なら恋ですよ!恋しましょう⁉︎」


 花さんからの猛抗議が炸裂する。オレが恋愛ショーにでても微塵も上手くいく気がしないよ。リアリティショー自体厳しそうだけど。


 「いやいや、ムリムリ。恋愛じゃなくて良かった」


 「何でですか!その年なら恋してなんぼでしょう!」


 「尋常じゃない執着だな」


 一体何が彼女をそこまで駆り立てるんだ。


 「花さんはほっといて、テーマは?撮影はいつから?」


 恋愛うんぬんの前にそっちの方が大事だ。


 「お題は『青春』。明日からだ」

 

 明日⁉︎いくら何でも唐突すぎでは?


 「来たあぁぁー!!」


 ちょっとまて、と抗議の声を上げようとした所でまた突然花さんが爆発した。


 うるっさ!


 「急になんですかもう…」


 「恋だよ恋!青春の最高のスパイス!」


 「どんだけ恋に飢えてるんですか。オレには無理ですよ。諦めてください、無難にやり過ごす予定なんで」


 「イケる!蓮太郎君ならイケるよ!諦めないで!私はきゅんきゅんしたい、若い子達の甘酸っぱい恋で胸を締め付けさせて下さい、お願いします!」


 最初っから最後まで自分の要求をぶち撒けて勢いよく土下座をする花さん。


 引くとかじゃなくもう怖い。怖いです花さん。


 「花のアホは放って置いて、ほらよ」


 話の流れをぶった斬って煙草さんが紙束を渡してくる。


 パラパラとめくって中を流し見る。


 「何これ。顔写真と名前が載ってるけど」


 「今回お前と一緒にリアリティショーにでるメンバーだよ。一つ二つ上の奴もいるが青春がテーマだからみんな学生だ。持ち帰って目を通しとけよ。明日はそのまま現場に直接いけ」


 「…マジか。了解」


 明日、明日かぁ。急すぎるしリアリティショーなんてオレにできるかなぁ。不安でいっぱいだ。


 とりあえずもらった資料に目を通して寝るか。


 明日の事は明日のオレに考えさせよう。



 ◇


 当日。特に何の考えもなく現場に到着。


 心の中は凪いでいる。自分の考え無さ加減に恐怖を感じる事さえない。


 もはやどうにでもなれ、である。


 学校タイプの撮影スタジオ。


 建物は丸っきり学校だ。最近のスタジオは凄いもので廃校なんかを買い取ってそのまま使ったりなんかもするらしい。おかげで教室だけでなく職員室だったりとか図書室、調理室なんかもあるらしい。


 そんなこんなしているうちに目的の教室に到着。


 教室周りには沢山の撮影機材とスタッフさん達がスタンバイしている。メンバーが揃い次第すぐに開始らしいから当然なのだが。

 

 教室の引き戸に手をかける。


 中にから複数の若い男女の声が聞こえてくる。この感じだと恐らくオレが最後だろう。そう思うとより一層気が重くなる。


 時間は有限。引き戸を開け中に入る。


 「こんにちは。本能寺プロダクションの蓮太郎です。今日からよろしくお願いします」


 「おっ。やっと来たか」


 「遅いわよ」


 いかにも陽キャって感じの男と勝ち気の女が反応する。

 同年代って設定だしタメ口がいいか。

 

 「申し訳ない。自己紹介ってこれから?」


 とりあえず自己紹介を仄めかす。


 なんかもうカメラ回ってるっぽいし進めて行こう。


 「別にやらなくてもいいんじゃないかな。共演者の事は皆んな知ってると思うし」


 「ええ。そうね」


 「ウチもそれでええよ」


 「はい。私も調べてるので皆んなが良ければ無くても大丈夫です」


 「…」


 上から順に


 白髪長身の女性

 「歌姫」 伊集院いじゅういん アリス

 

 身長が171あるオレよりも高く何ならこのメンバーの中で一番高い。

 瞳は血の様に紅く噂ではハーフだとか。

 純白の髪は長くポニーテールにしているがそれでも腰まである。



 気の強い女性

 「天才子役」上がりの叩き上げ女優

 来栖くるす るか


 明るい金髪でこちらはおそらく一番背が小さいかも知れない。



 目を逸らすのが一苦労なすんげぇスタイルの女性

 「グラビアアイドル」

 菊間きくま 純香すみか


 黒髪ショートでインナーカラーがピンクで来栖と同じぐらい背が低い。



 一番おとなしそうな雰囲気の女性

 「天才役者」

 獅子王ししおう 紗羅さら


 髪は肩口ボブカットで濡羽色。角度によっては翠にも見える。


 最後の無言首肯の女性

 「人気女優」

 夏目なつめ 咲耶さくや


 この中では平均的な身長で艶やかな深い黒髪ロングである。


 以上が女性陣である。


 いやぁ、もうみなさんキャラが立ってますねぇ。肩身が狭い気がする。


 「オレ達も別にいいよな」


 「大丈夫」


 今度は男性陣だ。


 上から順に「ファッションモデル」

 鳳凰ほうおう 天馬てんま


 髪は燃え盛る炎のような赤である。

 男性陣では一番背が低いな。まぁ、男子校生の平均169ぐらいか。


 次が「人気バンド・ベース」


 東条とうじょう 和真かずま


 こちらはちょっとぼーっとしがちな雰囲気があるが髪はピンク、青、紫、緑と多色である。


 以上が男性陣である。オレを含めて3人しかいない。比率おかしくね?


 自己紹介が省かれつつあるのだが問題と言えなくも無い問題がある。


 「オレ最近活動始めたばっかだから皆んな知らないと思うんだけど」


 そう!オレが芸能界復帰してからこなした仕事は一回、CM一本!この一回だけで知名度が上がるかと言うと…上がらないッ!

 

 つまりオレには圧倒的に知名度が足りない。共演者の皆さんはリストみて名前を知っていたとしても、カメラを通してみるお茶の間の皆さんにとっては本当に名も知らぬ誰かなのである。


 …撮影一本しかしてないし、ぶっちゃけ共演者の皆様も名前以外知らないんじゃね?



 「歌姫」ぐらい人気ならまだしもなぁ。とゆうかこのメンツなら「歌姫」が知名度はぶッッッちぎりだけど。


 人目を引く、文字通り日本人離れした容姿でアイドル歌手として活動しておりハンパない歌唱力で、時折海外でのライブもあるとか。

 知名度も日本だけじゃ収まらない、「歌姫」がただ出るだけで毎回見る人はいるであろうレベルの有名人である。


 「私は知ってるよ。昔一度だけ共演した事あるから」


 獅子王がオレと共演者した事がある、などどと衝撃発言。


 全く記憶にないのですが。昔ってどれぐらい昔?子役時代の事なんだろうけど記憶にありません。


 「子役時代に私もあんたと共演した事あるんだけど」


 来栖からも決定的な証拠発言きましたー。

 

 マジかぁ。でも子役時代な訳だからあの頃とは皆んな変わってる訳だからしょうがないのでは?


 …何やら2人からの視線が強い気がする。



 「天才子役蓮太郎。当時の子役なら誰もが憧れた輝き。当然私も憧れたわ。獅子王紗羅だってそのはずよ」


 「…はい」


 来栖の発言に同意する獅子王。


 急にシリアスな雰囲気になってきたんだが。

 

 えっ?今日リアリティーショーまだ一回目だよね?いきなり波乱な展開に。


 「何度も共演していい関係を築けていたと思っていたのに。あんたは一切何も語る事無く姿を消したわ」


 来栖の声がとても冷たいように感じる。


 「それが急に戻ってきたと思ったらこんな輝きも何もかも無くして覇気のない奴になってるなんて思わなかったわ」


 声に僅かな震えが混じる。怒りか。

 

 当然か。当人に輝きだ、なんて言うほど憧れていた奴が枯れ木の流木と言っていいほど無様な姿で帰ってきたんだ。


 「…何も弁解できんな」


 確かにオレは当時に比べたら意欲も覇気も何もかもが届かないだろう。

 全てが嫌になって持っていたものを捨て去ったのだから。


 「別に弁解する必要はないわ。あんたが消えてから私達は成長した。今度は私達に憧れさせるわ。しっかり見てなさい!」


 さっきまでとは打って変わって明るく勝ち気な彼女らしいと言える声で、ビシッと指を突きつけてくる。


 


 少しだけ思い出した。


 オレがドラマに出た時に『私の方が先輩なんだから調子にのらないでよね!』って絡んできた可愛らしい女の子がいたのだ。


 「…ああ。しっかり見させてもらうよ、先輩」


 くりっとした可愛いお目目をぱちくりさせる来栖。


 「いきなり凄い展開だなぁ」


 「シッ!今2人の世界に入ってるんだから静かに!」


 「変わり果てた憧れの人に激励、しかも『私を見てなさい』ってせめるねぇ」


 周りがヒソヒソしてる。


 「ちょっと!茶化すんじゃないわよ!」


 来栖が顔を赤くしてくってかかる。

 

 正直オレとしては大分助かったな。来栖と獅子王のおかげで視聴者に名前は知ってもらえただろうけど、最後はいい雰囲気になり過ぎたからな。


 東条、鳳凰、伊集院が収拾つけてくれてよかった。


 撮影外のどっかで来栖と獅子王の2人と話さないとな。


 来栖はいろいろ語ってくれたが撮影に配慮して押さえていた節があるし獅子王も何かしらオレに思う所があるのだろう。でなければあんな視線は向けられんしな。



 しかしまぁ、一回目からコレとはつかれるなぁ。…残りも上手くやれるんだろうか。


 そんな不安に苛まれながら残りの時間は皆んなの話に適当に相槌を打ってすごした。



 こういう所がダメなんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイドル @Karamtyi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ