アイドル

@Karamtyi

第1話

 「はいこれ。次のライブチケット」


 そう言って彼女はライブチケットが入っているのであろう封筒を手渡してくる。


 「…ありがと」


 何の変哲もない普通の高校の普通のありふれた授業合間の休み時間。


 そんな10分の休み時間に超売れっ子アイドル本人から自身の半端ない倍率のチケットを渡され後ろめたさがありながらもちゃんと受け取るオレ。




 『Stars』という名前のグループを結成し構成メンバー3人で活動していたが5人に増え最近ではあちこち引っ張りだこでソロ活動が増えている彼女。


 栗花落つゆり まな


 アイドルとしてはマナで通していて周りからはマナちゃんと呼ばれている。


 腰まである光を浴びて煌めく艶やかな深い紫の髪


 眩しい白い肌に美人すぎる整った顔立ち、 濡羽色の髪と同じように紫がかった輝く星を閉じ込めたかのような煌めく瞳。


 発育も良く整ったプロポーション抜群の身体。


 そんな人目を引く国民的アイドル自らチケットを渡される関係は約3年ほど続いている。


 アイドル 栗花落 愛


 ファン  遠山とおやま 蓮太郎れんたろう


 遠い関係のはずだが大分近くにいる不思議な関係だ。



 



 「ねぇ、今日はどうする?直帰?」


 非常に耳に良い澄んだ声で問いかけてくる。


 「直帰。今日もついて来るつもりか?」


 「もちっ⭐︎」


 キラっとウィンクに横にしたピースを合わせて星を飛ばす栗花落。


 うっわ。可愛えぇ!


 この会話からも分かる通りこのアイドルは良く放課後オレについて来てはゲーセンだったりカフェだったりとオレを振り回す事もしばしばである。


 何なら家にもくる。


 「いや、もちっ⭐︎、じゃないでしょ。オタクアイドルよ?スキャンダルとか気にしろよ」


 「可愛いぃ‼︎もう一回、もう一回やって!」


 何が良かったのかテンション上げて赤いスマホのカメラをこちらに向けて来る。


 「聞けよ、そしてカメラこっちむけんな」


 カメラNGなのが不服なのか頬をプクっと膨らませて


 「ウチの事務所は気にしないから大丈夫!何ならむしろ恋愛推奨してるし」


 そんな事を言ってくる。


 「それでもでしょ…。」


 いつ聞いても思うがアイドルの恋愛推奨とかかなり強気な事務所だよね。

 

 そんな会話をしてる間に10分なんて短く授業開始の鐘がなり教師が入ってくる。


 「国語かぁ〜。眠くなるからイヤなんだよねぇ」


 そう言って机に突っ伏す栗花落。


 「責めて最初は教科書出して聞いてますって振りぐらいしろ」


 「はぁーい」


 間伸びした返事をしてゴソゴソと引き出しから教科書を取り出して適当に広げ顔を引き締め前を向く。


 陽光を反射して紫に煌めく髪がそよ風を受けてサラサラと靡く。


 横顔も凄い美人だ。


 栗花落がついて来るなら今日はどうしようか、カフェでも寄り道して行こうかな。



 開始10分で栗花落は寝ていた。


 


 

 画面の中でゴリラと赤いおっさんがボコスカと殴りあう。


 約2分に及ぶ死闘の末ゴリラが投げ飛ばされ空中コンボを決められ決着が付く。



 「いぇい⭐︎」


 赤いおっさんを操作していた栗花落が今どきな両手の中指と人差し指でハートを作って顔をの前に持ってきてこちらに決めポーズ。


 「クソぉ…」


 ムカつくけど超可愛い。ムカワイイ。


 今の所3連敗してるんだけど…、前やった時はオレの圧勝だったのに。何なら毎日やってるのに栗花落が圧倒的に強くなっている。


 アイドル業で忙しいはずなのになぜ?才能ですか?オレにも下さい。


 ちなみに今日は直帰です。寄り道しようか考えたけどアイドル連れ添ってはちょっと無理だ。


 いくら本人や事務所が公言してても自ら人目につく行動は避けたい。


 「今日も来てるけど仕事は大丈夫なのか?」


 秘技意識逸らし!


 会話で意識を逸らしてその隙を突いてボコす!


 「大丈夫。今日はプライベートデーだから」


 プライベートデー?なんじゃそら?


 プライベートデーについて掘り下げようとして逆に隙を突かれてやられたぁ!


 「また私の勝ちぃ!」


 「ぬぅっ…。」


 「それでプライベートデーってなんなんだ?」


 「 ? プライベートデーはそのままプライベートデーだよ?個人の時間を大事にする日」


 ふむん。最近家にくる頻度が増してきたのはそのせいか。

 

 引っ張りだこの要因の一つはこれのせいでもあるんだろうなぁ。


 「レッスンとかに時間使わなくていいのか?ライブもうすぐだろ?」


 「レッスンだってちゃんとやってるよ。ぶっ倒れそうなぐらい。でも蓮太郎と遊ぶ時間も大事なんだよ」


 「……。」


 ぐあぁー。なんて事ないふうに言われた言葉なのにとても照れる。


 「…次のライブも見に来てね、蓮太郎」


 「ああ、行くよ。必ず」


 

 オレ達は付き合っていない。


 どちらかが好きといい出したわけでもなくただただ一緒にいる。


 地下アイドルから始まり今や東京ドーム目前と言われる伝説級アイドル。


 方やこっちはずっと追いかけ続けてるだけの何処にでもいる1ファン。


 たまたま住んでるマンションが同じで、たまたま学校の休み時間に話しかけられた事から始まった関係。


   恋心はある。


 だがこの心は口には出せない。


   彼女はアイドルだ。


 彼女が言っていた言葉だがアイドルはとびっきりの嘘で人に夢を見せる職業だそうだ。


 オレにも心当たりはある。


 オレも世間と同じように彼女に魅せられている。彼女には人目を惹きつけ魅了する圧倒的なカリスマ性がある。


 いくら彼女が、彼女の事務所が恋愛を推奨していたとてしてもよろしいことではない。無いだろうけどもし彼女とそんな仲になり世に知れれば炎上し世間は許さないだろう。



 お互いそんな事はわかっているはずだ。


 わかったいるはずなのに続けているこの関係は一体何なのだろうか。



 


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