第3話
―――狂気にも似た鮮やかだった先程までとは対極な灰色の箱の中にその身はあった。
土臭く、埃と時々カビの匂いが鼻を刺し起こす。
目を覚ましたが視界がぼやけ。気を失っていたのか、ずきずきと頭部が痛む。
朝整えてきた黒髪が視界に入り、髪型が崩れていることに気付いた。
視界に入るその髪をかきあげれば、ふつふつと不満が湧いてくる。
状況確認などすることも、此処へ来て最初の廊下の散策で飽き、
とうに止めていた。
これからどうしたものか座り込み考える。
捕まったとき牢がどうのと言っていた、
恐らくここはそこで間違いないだろう。
お決まりの鉄格子、
横になることも許そうとしない凹凸の激しい石床、
壁のレンガも乱雑に築かれている。
目に入る灯りといえば、
鉄格子の先に背を向けて立ち尽くす兵士の頭上に灯る蝋の揺らめきくらいだ。
考えもなくため息をつこうと
「気づいた?」
息を吸ったまま肺が止まる。
室内の予想が出来ていたため牢の中を確かめることはしなかったが、
もう一人中に人がいた。
「全く、リーファったら勇者を連れてきたんじゃないの?」
最初の優しげな声は最初のみ、
不満たっぷりの声色で灯りの影がら姿を現したのは、捕まっていた彼女だった。
いや、捕まっているのは今も変わらない。
絹のように輝く金色の髪は小さな灯りでさえも輝きを忘れるこのとなく、
不満な表情でさえ映る金色の瞳は陰りなく強い輝きをこちらに向ける。
だが素直に再会を祝うことは出来なかった。
目が覚めてから身に起こる不幸に納得が出来ていないからだ。
「ここはどこだ?手の込んだ誘拐かなんか?」
転がすようにぶっきらぼうに尋ねる。
「ここはワートンダイスランダーのハートレリア城の監獄よ。」
「いや、あんたの業界用語は聞いてない、俺の学校からどのくらい離れている?」
彼女への態度は変わらない。
が、彼女も表情を変えない。
「ガッコウ?記憶障害でも起きているのかしら、まだこの空気に慣れてないのかしら」
どこまでしらを切るつもりだろう。
彼女はこちらの質問をそっちのけで一人考察を始める。
「あー、もう大体分かった、ここ、精神病院か何かだろ、あんたが捕まっていた理由がなんとなくわかったよ。」
彼女の反応に痺れを切らし立ち上がると、
鉄格子の向こうの兵士に歩み寄り声をかけてみる。
「あのさ、急に飛び込んだことは悪かった、不法侵入のことで怒ってるならそれも謝るよ、ここから出してくれないか?」
だが問いに背中は微動だにしない。
「おーい聞いてる?俺が悪かったって。とりあえず―――」
不意に鋼の塊は振り向くとその兜を格子に自ら叩きつけ、後の言葉もその打音に負けじとユウマに叩きつけられた。
「黙れ!リーフリリアの言葉に耳を貸す気はない!お前は処刑されるまでおとなしくしていろ!」
ここに来てからの不満を抑えて懇願した願いを一方的に切り捨てられ、堪忍袋は簡単に開封される。
蹴落とされ知らない場所についたと思ったらいきなり監獄送り。
そんな理不尽に納得出来る者がいるだろうか―――否だ
「びっくりさせんな!、俺は帰りたいだけだろうが!ふざけるなよ!こんなの付き合ってられるか」
格子から腕を伸ばし全身フルプレートの胸元の金具を掴むと、
勢いよく格子に引き付ける。
先の打音にさらに負けじと打ち付けられた鎧は、
勢いよい余って兜ごと格子を打ち鳴らし落ちた。
兜は冷たい石畳に金属音を撒き散らしながら、二、三音を響かせる。
しばらくして監獄を静けさを取り戻そうとしたが―――
「・・・おいなんで・・・頭が・・・」
静寂に再び音の露を落としたのはユウマだった。
視線を落とす先には闇、鎧の中身だったのだ。
本来兜の中の声であるモノの表情がない、
いや、顔そのものが物体として存在していない、
顔がないなら首―――ない
当然のようにあるはずの常識がそこには無かった。
その中身はを行灯から隠すように鋼の襟が黒で遮る
「ええい!離さんか!!」
空洞な胴体はわめくと手を振りほどき、
落ちてしまった先ほどまで首だったものを拾い上げると強引に襟元に押し付け元の姿へと戻り、
迷惑がってからか、
乱暴な囚人の見えないような廊下の先まで歩いて行ってしまった。
アリスの横に伏せた目線の先には、先ほど捕えらここへ放り込んだ甲冑の兵士が三人、武器と鎖、それから枷を手に待っていた。
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