課金女王

Glacialis

課金女王

松江流可(24)無職、アバター、ルカ

松江駿司(28)会社員

永崎アキラ(29)ジムトレーナー

陰山貴俊(26)無職、アバター、バツ

井上孝之(25)無職

田仲通義(30)無職


○松江家、マンションの一室、リビング(朝)

   松江流可(24)は、カウンターで朝食の支度をする。

   松江駿司(28)は、ネクタイを締め、食卓の椅子に座る。

松江「流可、お母さんの調子はどうだい?」

流可「ええ…いつも通り、私を忘れているわ。

 あのね、お兄ちゃん…?私も仕事したいの…」

松江「ダメだ。父さん亡き後、俺が働いて稼いで、

 流可が家で、母さんの面倒を見ると決めただろ?」

流可「私だって外で仕事したいし、オンラインゲームの彼氏じゃ

 つまんないわ!」

松江「あのな、介護費や病院の入院費なんか馬鹿にならないんだぞ!」

   奥からガタンと大きな音がする。

流可「母さんが起きたんだわ」

   流可は席を立つ。

松江「仕事に行ってくる」

   松江はスーツの上着をはおると、カバンを持ち、居間から出て行く。

   流可は松江を不服そうに見て、奥のドアを乱暴に開ける。


○松江家、マンション表玄関、エレベーター、ポスト前(朝)

   エレベーターの扉が開き、松江が出て来る。

   松江はポストの中を覗く、ハガキを取り出し見る。

松江「俺宛てだが、流可のクレジットカードの請求書だな…」

   請求額85,430円

松江「なんだよ、コレは!

 流可のヤツ、帰ったら問いつめてやる!」


○松江家、リビング(朝)

   流可は、奥のドアから出る。

   着信音が鳴り、急いでポケットからスマートフォンを出し見る。

   バツと名前の表示のメールがある。


○松江家、流可の部屋、6畳、テレビ前(朝)

   流可は、急いで座ってゲーム機のスィッチを入れる。

   テレビ画面に、バツのフレンドネームが表示される。

流可「きゃーバツ君がインしてる!久しぶり!」

   画面にバツのアバターの映像。

   流可はクッションを抱きしめ、悶えながら頭を振る。

流可「ああー新作の服が出てるぅ〜!欲しいな〜」

   流可はテレビ画面上で、服を見ながらスクロールを止める。

流可「あ、この白い帽子、つばが広くて、すごく可愛い〜!

 高いな〜…う〜ん…でも、バツ君に可愛いねって言われたい!

 よしっ……買っちゃえ!」

   流可は、財布からクレジットカードを取り出し、支払い画面を開く。

流可「早く〜早く〜バツ君とパーティー組む前に可愛くしなきゃ…」

   流可は、コントローラーを動かし、テレビ画面を食い入るように見る。

流可「新しいコスできた!バツ君、今日は会ってくれるかな」

   ツバの広い白い帽子を被った流可のアバター。


○テレビ画面上、チームの集合所、チャット(朝)

   アバター、ルカがいると、アバター、ドルゥが来る。

ルカ「あ、チームリーダーの、ドルゥさん!」

ドルゥ「ああ、ルカ、こんにちドルゥ」

ルカ「こんにちわ(^^)」

ドルゥ「ルカ、週回行くよ…って、その帽子…また課金したのかえ」

ルカ「ドルゥさん…ちがうんです……あのぅ…」

ドルゥ「ルカ…アンタ陰でなんて呼ばれてるか知ってるの?…

 バツに媚びる課金女王って呼ばれてるのよ」

ルカ「え…ひど……」

   アバター、バツがインする。

バツ「やほールカちゃん、久しぶり!」

ルカ「おひさーバツ君」

バツ「メリとキマが居るからバトルの準備しとけよな」

   バツはドルゥを無視しルカにチャットを送る。

バツ「ルカ、その帽子、可愛いなぁ〜似合うぜ」

ルカ「ホント?バツ君に言われるとテレるなぁ」

ドルゥ「カッコ悪い帽子だね、まったく」

   バツはドルゥを再び遮る。

バツ「ルカ、俺とリアルでデートするか?」

ルカ「えっ!いいよ、でも、どおしたら…」

バツ「ウィンダム公園って知ってる?」

ドルゥ「はいはいはい、等身大のウィンダムが居る公園ね」

バツ「アンタは長崎の人間なんだろ?邪魔すんなよ」

ドルゥ「ナガサキでも、ウィンダム世代だからねぇ」

バツ「チェ、BBAのくせに…。ルカ、メールくれよな」

   アバター、バツは落ちる。

ルカ「あああ〜リアルですぐ出かける用意しなきゃ」

ドルゥ「ルカ、ホントに行くのかえ?」

ルカ「うん、メルアド知ってるし、彼女だから行くお」

   アバター、ルカは落ちる

   

○松江家、居間

   流可が出ようとすると玄関のドアを閉める音がする。

流可「え?誰?」

   紙切れを持った松江が居る。

流可「お兄ちゃん、会社はどぉしたの?」

松江「昼休みだ!それより、この請求金額、一体何に使った?」

   流可は松江から目を逸らせながら、小さい声で呟く。

流可「オンゲーのドレア代…」

松江「そんなくだらないことに…!」

流可「くだらない事ないわよ!彼氏のバツ君だって、

 白い帽子を見て、可愛いって言ってくれたわ!」

松江「流可…いいか…兄ちゃんが初めに言っただろう?

 こんなものにお金を沢山掛けて、何が残るんだ?」

流可「…わかった、もういい!私、この家出るわ」

   流可は居間を出る。

松江「おい!流可!どこに行くんだ?!」

   スマートフォンの着信音が鳴る。

松江「ヤベ、会社からだ!」

   玄関のドアを閉める音がする。

松江「おい!流可、待てよ!」


○ウィンダム公園前、ショッピング通り、帽子屋店前

   流可は歩いていて、店のショーウィンドウに、つば広の白い帽子を見つける。

   ガラスに手を添えて見る。

流可「わー色も形も、そっくり〜!欲しい!」

   流可は帽子屋に入る。

   流可はつば広の白い帽子をかぶって店から出てくる。

流可「アニキめ、カード止めちゃって!…ううん

 あんな人より、バツ君の方がずっと優しいもん」


○ウィンダム公園、ベンチ(夜)

   流可はベンチに座ってスマートフォンを見ている。

流可「お腹すいた…帽子を買ったからお金無いよ〜

 何度もメールしたのに、バツ君、まだかな…

   陰山は、白い帽子の女を見つけ近づく。

陰山「ルカちゃん?」

流可「バツ君?よかったぁ〜来てくれたんだね」

陰山「ここじゃ顔もよく見えないし、ウチ来る?」

流可「…うん」

   陰山はスマホで電話をする。

陰山「あー俺、バツだよ、これから来いよ」



○陰山家、コーポ1階、居間、8畳(夜)

   流可は帽子をかぶったまま畳に座り、うつむいてる。

   陰山は、立ってサッシを少し開け煙草を吸い灰皿に置く。

陰山「顔を見たいから、そのデカい帽子取れよ」

   うつ向く流可の帽子をめくりあげ、顔を覗き見る。

陰山「ブス」

   流可はうなだれる。

   呼び鈴が鳴る。

陰山「おう!入れ」

   井上孝之(25)と田仲通義(30)が入る。

井上「なんだ、きったねえ帽子で顔が見えないじゃん」

陰山「だろ?ブスだから脱がないんだぜ」

   流可はますますうなだれる。

田仲「課金狂いで、イイ女かと思ったら、チッパイ鳥ごぼう系かよ」

陰山「ハハハ…田仲ちげぇねぇ!井上もそう思ったろ?」

   流可は、涙目で顔を上げる。

陰山「鳥ごぼうかどうか、服を脱がせろよ」

井上「へいへい、ご主人様…てか…」

   井上は、四つん這いになり流可へにじり寄る。

流可「いやっ!」

   流可は立ち上がり、開いていたサッシから飛び出す。

陰山「裏へ回れ!捕まえろ!」


○ウィンダム公園、湖散歩道(夜)

   流可は帽子のつばを両手で掴んで走る。

   陰山、井上、田仲は流可を後から追う。

   流可の背後に、ガタイのいい大男、永崎アキラ(29)が立つ。

永崎「さがっておいで、ルカ」

流可「え?…誰?…ですか?」

永崎「その白いデカい帽子で確信したわ。おい、バツ!、メリ!、キハ!」

   陰山、井上、田仲は、永崎の前で止まる。

陰山「誰だオマエ?なんで俺らの名を知ってるんだ?」

永崎「ナガサキだからね」

陰山「‥ナガサキ?、、、長崎!」

   永崎は井上と田仲を湖に投げ飛ばし、 

   陰山に渾身の蹴りを入れ湖に落とす。

永崎「さよなドルゥ〜だ!」

井上、田仲「マジかよ!リアルでも勝てね〜」

陰山「オマエ、ネカマだったのか!覚えとけよ!!」


○ウィンダム公園内、ベンチ前(夜)

   永崎は流可の手を引いて来る。

流可「まさかドルゥさんが男の人だなんて…

 助けてくれて、ありがとうございます」

永崎「いいのよ、もう二度と知らない男の家に行ってはダメよ」

   前から松江が走って来る。

流可「お兄ちゃん!」

   流可は松江に抱きつく。

松江「流可、心配したぞ!アキラ、ありがとう」

永崎「どういたしまして〜」

流可「お兄ちゃん、知り合いなの?」

松江「大学時代の親友だ。流可の事を相談していた」

流可「そうだったの」

松江「流可、兄ちゃんが悪かった、母さんは施設に預けるから、

 流可は外で働いてくれ」

流可「うん…私こそごめんなさい…」

   流可は帽子を脱ぎ捨てて涙を流す。


2022/05/08

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課金女王 Glacialis @Glacialis

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