舘の大噓つき

しばお緋里

プロローグ

 無防備な首に手を回し、親指、人差し、中指で「彼女」の脈を抑える。

 とくん、とくんと彼女がまだ生きていることを自分に伝えてくれている。

 その感触に安堵しながら、柔らかい肌を撫でて、ゆっくりと力を込めた。

 かは、と彼女の口から息が漏れる音がして、瞳が揺れる。

 アクアマリンの瞳に涙が滲み、宝石がぽろぽろと零れているかのように見えて美しい。



 首を絞める手の力は緩めない。むしろ、彼女を脅すように更に力を込めた。

 ……それでも、彼女の意志は揺るがない。

 たった一言、たった一言なのに。彼女は何も言わない。

 唯一の抵抗であった、手首を掴んでいた手がぼとりと落ちて、こわばっていたからだが脱力し、宝石を閉じ込めた瞳が伏せられた。



————また、同じ夜を繰り返す。答えを得るまで、何度でも。



 何が真実で何が嘘か。

 それは当事者にしか解らないし知り得ない。

 当事者たちが『真実』と言えば、紛れもない真実となるのだ。

 そこに第三者が絡むというのなら、払うに堪えない三文芝居に成り下がるだろう。

 なぜなら、当事者たちはどこまでも本気なのだから。







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