343 カイサとオーセの休日


 メイド訓練が終わった翌日。カイサとオーセは本格的にメイド仕事に勤しむ……


「2週間、慣れない環境で疲れたでしょ? 今日は休みにして、パーッと遊ぼう!」

「「「ええぇぇ~……」」」


 フィリップが今までの努力を台無しにするようなことを言うので、カイサとオーセだけじゃなくボエルも呆気に取られてる。


「休みは大事だよ。それに服とか買う約束してたじゃない? ご褒美ご褒美~。ボエルの彼女にも化粧品買ってあげるよ~??」

「「はあ……」」

「い、いいのか??」


 第二皇子にここまで言われては、休むしかない。ボエルはちょっと嬉しそう。

 今日は平民街まで足を運ぶ予定なので、フィリップとボエルはそれに見合った服装。カイサとオーセは下級貴族の普段着。護衛騎士も普段着で普通の馬車を発車させるのであった。



 フィリップたちがやって来た場所は、貴族街にあるデパート。カイサとオーセは高い建物に驚いていたけど、フィリップはズカズカ入って行く。

 まだカツラを被っていないのでフィリップが相応しくない格好をしていても、店員は超VIP対応。ただ、購入希望の物は下級貴族レベルなのでちょっと落胆だ。


 まずはカイサとオーセの服等を2着ずつ今年の流行りの物を選んで、次は化粧品コーナーへ。店員からナチュラルメイク寄りの物を聞いて、3人分購入する。下着もエロイのと普通のを購入。チップは弾んだから店員も笑顔だ。

 買い物は少し時間が掛かったので、最寄りの料理店で早いランチ。第二皇子来訪なのだから、予約無しでも超VIP席にすぐ様ご案内。


「「美味し~~~い!」」

「アハハ。その顔見たかったの~」


 VIP用料理を食べたカイサとオーセは、ホッペが落ちる。前回ボイルは口調が酷かったが、今回の感想はマシみたい。でも、今日はフィリップの立場がバレないように喋る時はいつもの感じだ。


「殿下は、もっと旨い物を食ってるぞ。皇族専用の食堂があってな~。こないだ初めてちょっとだけ食べたんだけど、信じられないぐらい旨かった」

「「ここは何点ぐらいですか!?」」

「ん~? 皇族用が100点なら、ここは80点ってところかな? でも、皇族用はあんまり美味しく感じないんだよね~……」

「「こんなに美味しいのに80点!?」」


 ここの料理はカイサとオーセには200点どころか千点の味なのに、フィリップが宮廷料理まで美味しそうに言わないので詰め寄った。


「だって~。誰かに見られながら1人で食べなきゃいけないんだよ? 美味しい料理も台無しだよ」

「1人で? 御家族と食べないのですか?」

「母上が亡くなる前は一緒に食べてたけど……ぐすっ。それ以降はお兄様とたまに。仕事し出してからは完全に1人になったね。父上なんて一回しか食べたことないの。やっぱりごはんはみんなで食べたほうが美味しいよね~」

「「「殿下……」」」


 母親を出すと涙が出そうになったフィリップはなんとか持ち直したが、目には涙が残っていたから3人はなんとも言えない顔になった。


「殿下のお母様って、どのような方だったのですか?」

「言わない。聞かないで。もう昔の話なのに思い出すと泣いちゃうから。ゴメンね」

「「はい……」」

「……」


 カイサとオーセはフィリップの気持ちを汲んで質問をやめたけど、ボエルだけは何か言いたげ。おそらく、フィリップの弱味を握ったから、いつか仕返ししてやろうと考えているのだろう。



 ランチは少し空気が重くなったけど、カイサとオーセが盛り上げたので無事終了。護衛騎士用に発注したお弁当を受け取って大金を支払ったら次に移動する。

 2人に行きたい場所を聞いたところ、貴族街は脱出したいとのこと。ずっとお上品な場所にいたから疲れたみたいだ。


 フィリップはそれを想定して元々平民風の服を来ていたので、茶髪のカツラを被るだけで平民に変身。馬車を走らせて平民街に出た。

 ただ、護衛の人数が少ないのでドアトゥドアだけ。カイサとオーセが行きたいけど高くて行けなかったお店を巡る。


 仕立屋やアクセサリー店、小腹が空いたらカフェ。どの店に入ってもカイサとオーセが物欲しそうにしていたら、フィリップのニコニコ払い。

 ボエルや護衛騎士にも欲しい物があったら惜しみなく買い与えている。


「てか、このカネってもしかして……」

「あ、気付いた? 汚いお金、持っておきたくないの~。みんなにはシーッだよ~?」

「聞くんじゃなかった……」

「アレも彼女にどう??」


 このお金は貴族から詐欺で奪った裏金。ボエルはそのことをいま思い出したらしく、彼女用に買ってもらった物を返品したくなったとさ。



 買い物で散財していたら、もう日暮れ。お店から出たフィリップはカイサとオーセに向き直る。


「あ、そうだ。今日は実家に泊まる?」

「「いいのですか??」」

「いいに決まってるじゃん。親御さんも心配してるだろうから、顔を見せてやりな。でも、第二皇子に雇われてるってのだけは秘密ね? 僕を脅そうとする人にさらわれる可能性がグッと上がるから、絶対に家族にも喋らないほうがいい。わかった?」

「「はいっ!」」


 ちょっと脅すような言い方だけど、2人はフィリップが心配してくれてると受け取った。ここで別れると「金持ちの女が1人になったシメシメ」と思う輩もいるだろうから、念のため馬車でこの場を離れる。

 護衛騎士からも追っ手の気配がないと聞いたら、2人の家の近くで1人ずつ降ろす。そうしてどちらにも明日のお昼前に貴族街の門で集合と告げたら、フィリップたちは帰路に就くのであった。



 その日は久し振りにボエルと2人きりになったフィリップは「たまにはやる?」と雑に誘ってマッサージ。ボエルも久し振りだったので乱れたんだとか。

 翌昼になると護衛騎士の操る馬車でカイサとオーセは戻って来たけど、その顔はめちゃくちゃ暗い。


「どったの? なんか嫌なことあった?」

「「もうあんな生活に戻れな~~~い!!」」

「なになに? 何があったの??」


 どうやらカイサとオーセ、豪華な暮らしをしたせいで実家の暮らしが肌に合わなくなったみたいだ……

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