335 メイド訓練(仮)


 カイサとオーセが初仕事で体を張ることで、フィリップは気持ちの良い目覚め。感謝して2人の頭を撫でていたら、寝室を覗いていたボエルと目が合ったので「スケベ~」とからかっていた。

 ひとまず朝食は、ボエルが準備。この頃には食堂からデリバリーが決まっていたので、1階の廊下側で待っていたら届けてくれる。


 ボエルは護衛騎士の食事を分け与えたら、2階へ移動。ダイニングテーブルに全て並べると、全員で座って食べる。


「これも普通なんですか?」

「いや、殿下だけだ。普通のメイドは先に食べるか後から食べるかだな。その間、立って待ってなきゃならない」

「ですよね~?」


 フィリップの生態を聞いたら、カイサたちのほうが常識がある。今日からメイド訓練があるのだから食べながら質問して、ボエルが「殿下以外は」と必ず枕詞まくらことばを付けてから答えている。

 フィリップは時々反論していたけど、「絶対違うよね?」と3人に否定されていたからボロ負けだ。


「んじゃ、今日は仕事より、メイドの作法から教えてあげて」

「うっし。よく見てろよ」


 ボエルはまずは挨拶から。姿勢を正してお辞儀を見せるが、フィリップはストップ。


「いまさらなんだけど……なんでスカート穿いてないの? 僕、昨日、メイド服で来てって行ったよね??」

「しまった!?」

「ズボンも持って来てね~」


 執事服のままでは話にならない。ボエルは走ってメイド服を取りに行き、フィリップが紅茶のいれ方講座をやっていたら、ボエルが戻って来て着替えたのでテイク2。


「わかったか? やってみろ」

「「はっ。おはようございます」」

「違う違う。もっと背筋を正して!」

「ストーップ!」


 カイサとオーセが挨拶をすると、ボエルが何かしようとしたのでテイク2もフィリップストップだ。


「ボエル、その手に持ってる物はなに?」

「ムチだけど……」

「それ禁止」

「はあ? オレの教育係は、叩かれて体に焼き付けるようなこと言ってたぞ」

「それ、ボエルが物覚え悪かったからじゃない? もしくは、その教育係がただイジメてただけとか??」

「そういえば叩く度にニヤニヤしていたような……あの女~~~!!」


 新事実発覚。ボエルは無駄に叩かれていたと知って、荒れ出したのであった……


「今ごろ気付くって……」

「私だったら、厳しすぎるって泣いてるよ」

「ボエル、めちゃくちゃ強いからな~……たぶん叩かれても痒い程度だったから、イジメが通じなかったのかも?」

「「そんなことある?」」

「あるんだよ。ボエル、帝都学院ではクマ女と恐れられていてさ~……」


 カイサとオーセが不思議に思っていたので、フィリップがクマ女伝説をチクってあげるのであったとさ。



 ボエルの気持ちが落ち着いたら、テイク3の開始。ボエルが見本を見せて、カイサとオーセが続き、ボエルがダメ出しを続ける。

 そんな中、フィリップが動いてボエルの隣に立った。


「ボエル、礼」

「はっ」

「ちょっと触るよ? お腹を少し引いて、もう少し角度をこう。あと、アゴもちょっと引こうか……うん。そのままキープ。2人とも、この形、よく見て覚えて」

「「綺麗……」」


 フィリップが調整するだけで、ボエルのお辞儀姿勢はレベルアップ。カイサとオーセでもわかる違いだ。

 とりあえずボエルがその姿勢を保っている間に、2人は目に焼き付け、同じ角度になるように自分たちも挑戦している。


「も、もういいか?」

「あ、うん。ご苦労様。いい見本があると、わかりやすいみたいだね~」

「な~んか、殿下にいいところ取られたみたいなんだよな~」


 その通り。ボエルは及第点スレスレだったから、エイラたちのお辞儀をいつも見ていたフィリップが調整してあげたのだ。

 次は歩き方の指導をボエルが始めたけど、またフィリップが介入する。


「肩揺らし過ぎ。歩幅、もう少し抑えて……ふんぞり返らない。ちょっと! 大股やめてって言ってるでしょ!!」

「うっ……オレが教わってるような……」

「それでよく僕の従者になれたな……」


 ボエルがだらしないんだもん。フィリップはカイサたちそっちのけで、ボエルの指導に明け暮れるのであったとさ。



「まぁ……いまやったことさえ覚えておけば、城の中を歩いても変に思われないからね? ボエルだってあの程度だったし……」

「うっ……すんません……」

「「ハハハ……」」


 フィリップに散々ダメ出しされたボエルは自信喪失。カイサとオーセのほうが様になっていたから空笑いだ。

 いちおう午前の部のメイド訓練は終わったので、昼食を終えたら午後の確認。


「午後は~……ボエルって彼女のところ行く?」

「この状態で行ってもいいのか?」

「慰めてもらいに行きな。近衛騎士になるのも時間の問題だしね」

「はい。行って来ます……」

「あ、会う日は決めて来てね? 戦闘の訓練もあるからね~」


 ボエルは肩を落としてフィリップの根城から出て行く。ダメ皇子にこんなにダメ出しされたから、プライドが傷付いたらしい。

 残されたカイサたちは、フィリップがダラダラしているので何をしていいかわからない。


「私たちは何をしたらいいのですか?」

「う~ん……掃除でもする?」

「そんな適当に……」

「僕もこの生活、3日目なんだも~ん。とりあえず歩き方と言葉遣いを気を付けながらやってみよう。あ、洗濯物も出さなきゃダメなのか~……一人暮らしも大変だね」

「「これが一人暮らしなのかな~?」」


 さっきまで皇子様っぽく指示していたのに、ボエルがいなくなった途端フィリップはポンコツに。カイサとオーセは「自分たちがしっかりしないといけないのでは?」とブツブツ言いながら、掃除から始めるのであったとさ。

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