312 フィリップの新居
フィリップたちが新居を見に行こうと城の中を長い時間歩いていたら、やっと中央の建物が終わった。
「ここで半分ってところだ」
「え~。まだなの~」
次は城の左翼側。まだまだ新居までの
「こっからはメイドの寮になってるから、男は立ち入り禁止の場所もあるからチョロチョロ歩き回るなよ?」
「女子寮!? お風呂はどこかな~??」
「しまった!?」
でも、ボエルの失言で元気復活。フィリップは階段を見付けてはそこにスキップで突撃するから、その都度ボエルが首根っ子を掴んで阻止。
全然諦める素振りがないので、ついにボエルは強硬手段に出てフィリップを脇に抱えて運んで行く。
「ケチ~」
「ケチとかじゃねぇし。ルールだ」
「ボエルだってルール破ってるじゃん? 心は男のクセに」
「オレは体は女だからいいんだよ」
「こんな時だけ女になるなんてズルくな~い? どうせお風呂とか覗いてるんでしょ~??」
「覗いてねぇし。大浴場だから見えてしまうだけだし」
「それ、男の夢じゃん!? ズルイズルイズル~~~イ!!」
「何もズルくねぇし。フッ……」
フィリップがバタバタしても、ボエルはお構いなし。フィリップに勝ったとか思いながら、先を急ぐのであったとさ。
ボエルに荷物みたいにフィリップは運ばれ、メイドの中で誰が一番いい体なのかを聞いていれば、ようやく左翼の一番端。建物の全体像からいうと、北西の先っぽにある扉の前に到着した。
「なんか、こうも離れていると厄介払いされてるみたいだね」
「まぁ……ここって、高貴な人が幽閉される場所だし……」
「はい? 何その話……僕、聞いてないよ!?」
「なんで知らないんだよ。城でも、いつ殿下が牢獄送りになるか注目の的だったんだぞ」
どうやらこの話を知らないのはフィリップだけ。この場所を使うのは皇族で罪を犯した人だけで、歴史的に忌み嫌われる場所なんだってさ。
「まぁいいや。中、確認してみよ」
「おう。ちなみに殿下って、幽霊とか大丈夫か?」
「出るの!?」
「噂ではな」
「父上~。僕が何したって言うんだよ~~~」
「何もしないからだろ」
さらに幽霊まで出るのでは、フィリップもこの扱いは酷すぎると泣きが入る。ボエルの至極真っ当な返しは心に深く突き刺さったけど、ムリヤリ引っこ抜くフィリップであった。
「う~ん……広いけどホコリが凄いね」
カギを開けて入った新居の1階はガランとした部屋だらけ。お風呂やトイレも設置してあるが、何年も使われていないのかホコリまみれとなっていた。
「ああ……男爵家の友達の別荘より広いかも?」
「そんな友達いたんだ~……そこが玄関かな?」
「それぐらい居るし。開けるぞ」
玄関を開けるとそこには……
「枯れてるね……」
「だから幽霊屋敷とか言われてるんだ……」
玄関前も庭も荒れ放題。枯れ散らかっているから、おどろおどろしさの演出が増している。さらに高い壁で囲まれているから牢獄にしか見えない。
外から軽く外観を見たら、中に戻って2階に上った。ここも1階と同じくホコリまみれで間取りも似ているのでスキップ。3階も似たような感じだったが、一番奥の部屋は妙な空気が漂っていた。
「ここはベッドルームに使ってたのかな?」
「何もないのによくわかるな」
「ほら、あの壁のところ、色が変わってるじゃない?」
「どこだ??」
ボエルはわかり難いからと近付いて壁を凝視したら、嫌な物が見付かった。
「なあ? 赤黒い字で『助けて』とか『殺してやる』とか書いてるんだけど……」
「壁紙も張り替えないとダメか~」
「怖がれよ。幽霊怖いんだろ?」
「怖いよ。だから消したいんだよ!」
「プププ。殿下にも怖い物あるんだ~。プププ……」
ボエルが勝ち誇ったように笑ったその時、フィリップはボエルの後ろを二度見して、その位置に視線を置いたまま大口を開けて固まった。
「な、なんだよその顔……」
「絶対に振り向いちゃダメ……ゆっくりこっち来て……」
「いや、だからなんだよ。オレのこと驚かそうとしてんだろ?」
「いいから。僕を信じて……」
「どうせ何もないんだろ? オレは騙されねぇぞ!」
そう言いながらボエルが右斜め後ろを見たら驚愕の表情を浮かべて飛び退く。
「うおっ!? 蜘蛛~~~!!」
そう。そこにはフィリップの顔ぐらいありそうな蜘蛛が天井から下りて来ていたのだ。
「なんじゃこりゃ~~~!!」
「ちょっ! ダメだって! そんなデカイ蜘蛛、潰したら体液が~~~!!」
でも、ボエルは驚き過ぎて、蜘蛛にパンチ。フィリップの制止は聞かず殴ってしまったので、部屋に大量の体液がバラ撒かれるのであったとさ。
「あ~あ……殺人事件みたいになったじゃない」
「すんません……」
巨大蜘蛛は、ボエルの手加減抜きのパンチで破裂。飛び散った体液が
とりあえず清掃は業者の人に任せるのでそのままベッドルームを出たら、洗面所でボエルの手を死ぬほど洗わせる。気持ち悪いもん。
その後、2階にあった広いバルコニーに出た2人は外を眺める。
「まぁ、使われてないってだけで、整備したら使いやすい家になりそうだね」
「ああ。いいな~。こんな家。オレもいつかこんな家に住んでみたいな~」
「お兄様の下で出世したらいいだけだよ。目指せ、女男爵だ」
「おう。やる気出た。頑張るぞ~~~!」
「ねえ……あそこって、僕たちがたまに行ってる庭園だよね?」
「ん? ああ。そうだな」
「あの遠回りはなんだったの!?」
あと、近道を発見した1日であったとさ。
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