311 ボエルの給料


 ボエルは大金にビビってフィリップの部屋に駆け込んだけど、この部屋の主人は置き去り。なので迎えに行こうとしたが、大金が気になって外に出れず。

 ドアと革袋を交互に見ていたら、フィリップがゆっくりと部屋に入って来て文句を言ってた。

 ボエルも主人を置き去りにしたことは悪いと思っていたので平謝り。お茶をいれて機嫌を取っていたが、フィリップはずっと皇帝から渡された資料を読んでいた。


「それって……何が書いてあるんだ?」

「う~ん……ざっくり言うと、諸経費? 給料とかも事細かに書いてあるよ」

「てことは~……どういうことだ?」

「皇子として独り立ちしろってこと。このままグウタラできると思ってたのに、メイドとかも雇わなきゃいけないなんて面倒くさいな~」

「いや、グウタラしないで働けよ。第二皇子だろ」

「第二皇子でも馬鹿皇子って言われてるも~ん」


 フィリップは自分のことを馬鹿皇子と言って愚痴っていたが、ボエルは「自分で言うんだ」と呆れ果ててる。


「ちなみにボエルって、給料いくら貰ってるの?」

「オレ? オレはけっこう貰ってるぞ。月に金貨3枚なんて、さすがは専属従者だな~」


 金貨3枚とは、平民の月収の6倍以上なのだから、ボエルはニコニコ嬉しそう。しかしフィリップは難しい顔をしてる。


「ねえ? ここには、最低、金貨10枚ってなってるんだけど……」

「……へ??」


 そう。皇子専属従者は高級取り。下級貴族で金貨10枚。家格の違いで男爵家や子爵家と上がって行き、公爵家の場合は30枚も払わなくてはいけないのだ。


「もしかしてだけど……どこかで中抜きされてない?」

「そ、そんなワケは……毎月オヤジから手渡しで貰ってるし……」

「そこが一番怪しい! いや……そんなもんなのかな?」

「どういうことだ?」

「ほら? 貴族ってのは家が全てでしょ? 給料は家に渡されて、当主が多く貰うシステムなのかも??」

「言ってる意味はわからなくもないけど……それでも7割も抜くか~? あんの、クソオヤジ~~~!!」


 いつもは父親から金貨3枚貰って「ありがとう」と返していたボエル、真実を知って殺意が生まれる。フィリップは貴族の常識を知らないので、ご愁傷様ぐらいにしか思ってない。


「ま、これはこれで結果オーライじゃない?」

「どこがだよ! 月7枚ってことは、年に84枚。3年で……252枚だぞ!? それなのにオレが貰ったのは……いくらだ!?」

「そこまで計算したなら自分で計算しなよ」

「できるけど~! こんな気持ちでできるか!?」

「はいはい。108枚ね。ちょっと落ち着いて」

「倍以上~~~!!」


 せっかくフィリップが数を教えてもボエルは怒り心頭。フィリップがお茶をいれて、なんとか落ち着いたのは10分後だ。


「ブッ殺してやる……」


 いや、まだでした。殺気が漏れまくってるよ。


「だからね。そんなことしなくていいの」

「殿下は他人事だからそんなこと言えんだよ」

「だから聞いて。父親の弱味を握ったんだから、それでよかったじゃない?」

「……弱味??」

「うん。ボエルは女の子と結婚したいんでしょ? だったらこのネタを使ったら、有利に進められるんだよ」

「あ……その手があるのか……」


 ここでボエルの殺気が消えた。


「その時まで、このこと黙っておきな。取られた分は、僕が補填する。切りよく300枚……体の関係もして貰っていたから、400枚ってところが妥当かな? ボーナス~」

「き、金貨、400枚……」

「合わせて508枚。それがボエルの正当な対価だ」

「500……ゴクッ……」


 金貨の枚数を聞いて息を飲むボエル。さらに革袋の中身が取り出されると、冷や汗が垂れた。


「白金貨ばっかだな。金貨が足りないから、白金貨で払っていい?」


 白金貨だけで100枚を超えているんだもの。金貨500枚でもそうそう拝めないのに、そんな大金は見るだけでも怖いみたいだ。


「き、金貨のほうがいいです……」

「そうだよね~。使いにくいもんね~。とりあえず200枚渡しておくよ。残りは金貨が増えたら渡すね」

「ちょ、ちょっと待った! それ、どこに保管したらいいんだ??」

「……ボエルの部屋?」

「盗まれたらどうすんだよ!?」

「そこまでは僕も責任持てないな~」


 もうこのお金はボエルの物。でもボエルは大金にビビッて、フィリップに「与っていてください」と言って持ち帰れないのであったとさ。



 とりあえずお金の件は、ボエルの給料支払いを帳簿に記入して革袋に入れ、フィリップの部屋にある金庫に保管。

 ここで貴族から奪ったお金があったのを思い出したけど、このお金はボエルは貰いたくなさそう。マネーロンダリングだもの。フィリップは「お金に色はないのにな~」とか言ってた。


 この日はまだ時間があったので、新居を見ようと昼食後に散歩がてらお出掛け。でも、歩けども歩けども全然到着しない。


「遠いよ~。てか、なんなのこの城。広すぎない?」

「なに言ってんだ。自分の家だろ」


 フィリップの生活圏は、お城の中央らへん。そこに皇族の居住スペースや職場、パーティー等の施設が複数あるのだから、馬鹿広い。

 まだそこも抜け出せていないから、フィリップは文句タラタラ。でも、ボエルに冷たくツッコまれて「そうだった!?」とかフィリップが驚いていたから、ますますボエルの目は冷たくなるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る