290 全部ウソ
第二皇子暗殺未遂事件、または騎士の大量行方不明事件から3日。ムリヤリ昼型に戻したフィリップは、今日も元気に教室で寝ている。
いちおうフィリップの名誉のために言うと、この間に情報収集やどうしてもやらなくてはいけないことがあったので、寝るのはいつも朝方になっているから仕方なく寝ているのだ。
「いつも通りだな……」
「はい……殿下、ごはんですよ~?」
でも、まぁ、ボエルとリネーアからしたら、いつもの日常。いつも通りフィリップを起こして食堂に連れて行くだけだ。
その日の授業が終わった帰り道、珍しく男子生徒6人が道を塞いでいたので護衛騎士が前に出て、ボエルがフィリップを背中に隠した。
「何用だ?」
「殿下にお願いの儀があって参りました!
男子生徒の1人、オットー・デーネケが護衛騎士を通り越すような大声で用件を告げると、フィリップはボエルのお尻をサワサワしてから前に出た。
フィリップの名誉のために言うと……そんなのないや。前に出るのをボエルに止められたから、セクハラしやがっただけだ。
「なんの用なの?」
「ここではできない話です……」
「なるほど……
「「「いやいやいやいや……」」」
フィリップが活き活きした顔でお願いしたが、護衛としては密室に第二皇子を入れたくない。オットーたちが危険というより、フィリップの悪巧み発言が引っ掛かって……
それでもフィリップは強引に部屋を取りに走らせて、最低限の身の守り。護衛騎士が自発的にオットーたちが武器等を持っていないか確認していたので、「大丈夫だって~」っと、帝都学院内の応接室に入って行くフィリップであった。
「んで……どんな悪巧みするのかな~?」
応接室のソファーに座ってふんぞり返ったフィリップは、立ったままのオットーたちに問い掛けた。
「行方不明になっている父たちのことを聞きたいだけなのですが……」
でも、悪巧みなんかではない。フィリップはこの接触を待っていたから無理して授業に出ていたのだ。だからボエルたちにバレないように、あの場ではふざけていたのだ。
「あ、そっち? お前たち、あの場にいた学生か~」
「「「「「はあ……」」」」」
この場でもふざけているのは、馬鹿皇子を演じているだけだよ? たぶん……オットーたちは「絶対忘れてやがんな!?」と思っているけど。
「父たちはどうなったのでしょうか?」
「う~ん……聞く? 聞いたら後戻りできないよ? 最悪、死ぬことになるけど、それでも聞く??」
「「「「「それでも構いません!」」」」」
全員、最大級の脅しに負けず覚悟の目を向けたから、フィリップはため息まじりに喋り始める。
「暗殺犯の前に、僕の話を聞いて……まず、僕は皇帝なんてやりたくない。お兄様を全力で応援してる。父上もお兄様も、それはわかってくれてるの。だから、お兄様を殺す動機はひとつもないんだよね」
この話は、オットーたちは信じられないって顔。
「次に、僕のこと。僕には派閥なんてない。なりたそうな人からは、騙して金を巻き上げたから、嫌われているんじゃないかな? それと、忠誠を誓っている人もいない。護衛は全員、父上の命令を受けているだけだ。これでどうやって、お兄様に刺客を送れるか僕にはサッパリわからないよ」
この話は、フィリップにはヘディーン子爵家のリネーアしか取り巻きがいないので、めちゃくちゃ唸られた。信じるに足るみたいだ。
「そこで問題だ……誰が刺客を放ったんだろう? もちろんお兄様がいなくなれば残ったのは出来損ないの僕しかいないから、操りやすいと考えたヤツがいるのかもしれない。けど、いまのところ僕には良好な関係を築いている貴族なんていない。だから可能性は低い……次に可能性が高い人物は誰だ? はい、そこの君!」
「え? あ、はい。わ、わかりません……」
いきなり当てられたオットーも、その他も全滅してしまったのでフィリップが答えを告げる。
「自作自演だよ。僕が継承権を持っているから、お兄様を殺そうとする者が現れると思ったヤツが、僕の名前を使って刺客を放ったんだ。ここまで言えば、犯人は誰かわかるよね?」
「「「「「……」」」」」
オットーたちは同時に、自分の家より格上の人物の名前が浮かんだ。
「それを踏まえて、行方不明の話だ。僕の周りには父上が寄越した護衛だけじゃなく、お兄様の放った暗部の手の者も密かに見張ってくれているんだよね~。なんでそんな手の込んだことしてるかわかる? そう、お前たちの動きなんて、父上もお兄様もお見通しってこと」
この真っ赤な嘘に、オットーたちの顔は真っ青。
「あの日、賊が忍び込むって2人から聞いたから、逃がさないように僕が
さらに嘘を重ねて笑ったら、なんとかオットーも喋れるだけの冷静さが戻った。
「ということは……父たちは……」
「さあ? 僕はダンジョンに誘い込むだけしかやってない。あとのことは暗部に任せたから、知らないな~。案外ダンジョンに挑戦して、今ごろリッチキングと戦っているのかもね~」
「そんなワケは……」
もちろんそんなワケはない。フィリップは暗殺者全員を殺して、死体はリッチキングの部屋に置いてダンジョンを出た。つまり、ここだけは真実をチョイ混ぜ。ゾンビかスケルトンになって生きている可能性はゼロではないと思っているからだ。
「さてと……まだ何か聞きたいことある?」
フィリップが言いたいことを言ったら、オットーたちは父親がもう生きていないと確信して落胆だ。
「あの……どうして私たちはなんの罪も問われていないのでしょうか?」
「さあね~? お兄様からは学生は逃がすように言われてただけだからな~……たぶん、親の命令には逆らえないと思って助けたんじゃない? 僕だったら一族郎党皆殺しにしたのに、お兄様、お優しぃ~。生きてることに感謝しなよ?」
「「「「「はい……」」」」」
オットーたちは生かされたが、父親は殺されたのだから素直に感謝できないみたいな顔だ。
「あ、そうだ。大事なこと言われてたんだ。お兄様は『私は暗殺に関与した学生の名前も顔も知らない。知ってしまうと死罪にしなくてはならないから、今回の件、墓まで持って行くように』……だってさ。殺されたくなかったら、絶対に口にしないほうがいいよ?」
「「「「「わかりました……」」」」」
これまた大嘘で口を塞ぐフィリップ。これでフレドリクにすら近付けないはずだ。
「最後に、僕からの助言ね。父親のこと、上からの指示で聞きに来たの?」
「指示はありましたが、本心で父のことが聞きたくて……」
「てことは、報告するのね。まぁしたかったらしたらいいよ。いまは黒幕の屋敷は暗部に囲まれていると思うから、巻き込まれるかもしれないけど……行方不明になりたかったら行きな。僕は止めないよ。アハハハハ」
これにて、学生への脅しは完了。皇帝は全てを見透かし、フレドリクに恩赦を与えられ、フィリップからは動きを封じられたオットーたちは、この日以降、口を閉ざしてひっそりと生きて行くのであった。
全部フィリップの嘘なのに……
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