289 慈悲
「いい体勢になったね~? アハハハハ」
暗殺者は、フィリップが放った
「さってと……どいつだったかな? あ、いたいた」
フィリップはヘルゲの前まで行くと、勝ち誇った顔で見下す。
「んで……どこに嘘があったのかな~?」
「嘘だ……こんなことありえない……第二皇子が魔法を使っただと……」
「あ、そこから? 僕、氷魔法が使えるの。これを知って生きている人は、ゼロ~。だから誰も知らないんだよ」
「嘘だ! 俺は適性検査の日に見ていたぞ!!」
「僕が全員を
「グ、クレーメンス……あの謀反人の……ま、まさか……」
クレーメンス伯爵の名前を出したところで、ヘルゲにもフィリップの言葉は事実ではないかと頭に浮かんだ。
「それじゃあ、そろそろ死のっか? コースはふたつ! 痛みなく殺されるか、死ぬほどの苦痛を味わってから殺されるか……お前たちを僕に差し向けたヤツを教えてくれたら、楽に死ねるよ~? さあさあさあ! 急がないと拷問を始めま~す!!」
フィリップが大声で死の宣告をすると、全員絶句。普通こんな場合は、生かすことをチラつかせて聞き出すのだから、言うも地獄言わずも地獄では仕方がない。
「ま、待て!」
「待てだと??」
「待ってください……お願いします……」
「そうそう。苦しゅうない。申してみよ」
ヘルゲが
「一度だけでもチャンスをいただけないでしょうか?」
「もうやった。ここに来るまでに、僕の冤罪は主張した。なのにお前たちは信じず僕を殺そうとした。あそこで引き返せば、僕もこんなことせずに済んだんだよ」
「そのことは謝罪します! どうか、私の命ひとつで許してください! どうか御慈悲を……」
哀れみの目を向けたフィリップなら通じるかもと、ヘルゲは痛みを
「誰も黒幕を言わないのなら、拷問始めるね。パンパンパ~ンっと!」
「「「「「ギャアアァァーーー!?」」」」」
だが、フィリップは無慈悲。転がっている者の手を狙い澄まして氷の礫で打ち抜いた。その痛みに耐えかねた者は、1人、また1人と黒幕の正体を口にして許しを
「なるほどね~……レンネンカンプ侯爵が黒幕か……」
イロイロ名前が出て来たけど、ここにいる者は末端だから指示をした人は多くいる。その中で一番偉い者がレンネンカンプ侯爵なのだから、これで決定だろう。
「てか、侯爵って何人いるの? 悪いヤツばっかだな。これで殺すの3人目だよ? 帝国には、こんな侯爵しかいないのかよ~」
「3人目? あ……不審死している侯爵は、もしかして殿下が……」
「おお~。君、賢いね。そんなヤツの下につくなんて、もったいない……でも、さよならだ」
聞くことを聞いたフィリップがもう必要ないと右手の人差し指を向けたら、ヘルゲ必死の命乞いが始まる。
「死は免れないのでしょうか?」
「当たり前でしょ。僕の夜遊びを邪魔した上に、秘密にしている魔法も知ってしまったんだ。こんなに大勢に知られたら殺すしかないじゃん」
「そ、そんなことで我々は殺されるのか……」
「僕に取ってはそんなことじゃないし。てか、そもそもな話、お前たち、誰を殺そうとしたかわかってんの?」
「そ、それは……」
ふざけた罪状に怒りの目を向けていたヘルゲは、フィリップに指摘されて目を伏せた。
「言えよ」
「だ、第二皇子殿下です……」
「そうだよ。お前たちは皇族を殺そうとしたんだよ。普通、一族郎党皆殺しだよ? わかってやってたんだろ?」
「で、ですが! ですが、まだ未遂です! 前回も未遂では死刑にまでなりませんでしたよね? 殿下のことは秘密にしますので、皇太子殿下に我々を付き出してください! 皇太子殿下の裁きを受けさせてください!!」
このままでは確実にフィリップに殺されてしまう。ヘルゲはフレドリクの名前を出して助かる可能性に賭ける。その言葉に、暗殺者たちはフレドリクなら助けてくれると希望が生まれた。
「お前ら、な~んか勘違いしてない? お兄様は僕より冷酷な人だよ??」
「いいえ。慈悲深い御方です」
「前にアードルフ侯爵家の男共が惨殺されたじゃん? 僕が義賊に見せかけてやったんだけどね。その義賊を見付けようと、無実の平民を片っ端から拷問しようとしてたから僕が止めたの。国の為なら、お兄様はなんでもするよ?」
「へ、平民と我々は……」
「前回の、第一皇子派閥だから助かったとか思ってるんだ~……それも違う。僕が学生は無罪放免にしてやれと頼んだからだ。学生を甘くしたから、他もそれを基準に合わせるしかなかったんだよ。つまり、助けたのは僕。冤罪を掛けられて命を狙われた僕が、助けたの。それなのに、二度目だよ? どうなるか、わかれよ!!」
フィリップが怒鳴ると、ヘルゲたちは驚いた顔になる。
「前回甘くしたから、今回はかなり重くなるんだよ! もう二度とこんな馬鹿が出て来ないように、本当に一族郎党皆殺しにされてしまうんだ! お兄様は助けてくれないぞ? どうすんだよ! だったら、ここで皆殺しにして行方不明にするしかないじゃん!! お前たちの家族を救う方法、他にある!? あったら教えてくれよ!!」
馬鹿皇子だと信じていたあの第二皇子が、犯罪者の家族を救うために涙まで流しているからだ。そんな第二皇子を見たことがないヘルゲたちは、何も言葉を交わさずとも、全員が痛みに耐えながら
「この度は、我々の勘違いで殿下のお手を汚すこととなったこと、誠に申し訳ありませんでした」
「「「「「申し訳ありませんでした!」」」」」
「いまさらではありますが、殿下に忠誠を誓うことをお許しください」
「「「「「忠誠を誓います!」」」」」
フィリップの魂からの訴えが、騎士の心を奮い立たせたのだ。
「うん。あの世で待ってて。僕が死んだら、屍騎士団で地獄を征服してやろう!」
「「「「「はっ! お待ちしております!!」」」」」
初めてフィリップに忠誠を誓った騎士16人。屍騎士団結成の瞬間に息絶える。その顔は、とても晴れ晴れした顔だったそうだ……
屍騎士団結成の翌日……は、フィリップは寝坊したので仮病で休み。ただでさえ帰るの遅くなっていたのに娼館に行ってたんだって。
その次の日も寝坊したけど、ボエルに「連れて行ってくれ」としがみついて、なんとか登校。結局、昼まで教室で寝ていたから、ボエルは「なんのために来たんだ……」と褒められたもんじゃない。
リネーアに揺すられて、やっとフィリップも目を覚ました。
「大丈夫ですか? まだお体が優れないのではないですか??」
「ふぁ~……ダイジョブダイジョブ。いつも通りだよ~」
「確かにいつも通りですけど……」
こんなに寝ていてもいつも通りで通じるとは、フィリップは寝過ぎ。そのことをリネーアは言いたくて仕方なさそうだ。
「なんか変わったことあった?」
「特には……あ、お城でのお話ですけど、騎士様が十数人も行方不明になってるんですって。生徒の中に、その人の子供がいて心配してるそうですよ」
「へ~……僕、そんな話知らないんだけど~?」
「寝てるからじゃないですか?」
「ボエル~。父上からなんか聞いてる~?」
そりゃ寝ていたら、知るわけがない。ボエルは皇家から注意勧告が届いていたから教えたと言っていたけど、フィリップはウトウトしてたから頭に残らなかったのだ。
「ま、いっか。ごはんいこ~」
「「大事件なんだけどな~……」」
どんな時でもフィリップは通常運転。ボエルとリネーアは「肝が据わってる」と思うよりも、「どんだけやる気ないんだ」と呆れてフィリップの跡を追うのであった……
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