278 夏休みは大変


 第二皇子暗殺未遂事件からフィリップはまったく部屋から出なくなったので「毒でも盛られて動けないのでは?」と帝都学院内で噂になっていた。

 でも、中間試験には普通に出て来て試験が始まって20分ほどで寝たから「馬鹿皇子健在」と意見は変わってた。生きているとかではなく、その生き様を表したディスリだ。


 中間試験が終わると貴族女子の求婚は復活していたので、また仮病。外に出るのはボエルと街にナンパしに行く時と、1人で夜遊びするぐらい。

 期末試験も普通に受けたら、待ってませんでしたの夏休み。城に帰るかどうか、フィリップはめちゃくちゃ悩んでるのでボエル任せだ。


「リネーアたちはダンジョンに潜ると聞いたし、一緒に行くのもアリか……」

「アレ? 彼女はどったの??」

「主人が里帰りするから会えない……」

「あらら~。そりゃ一番に来ないワケだ。だから浮気するなら今がチャンスってワケだね」

「するか! お茶して喋るぐらいは浮気に入らないし!!」

「女子とはお喋りしたいんだね……」


 ボエルが寮に残りたい理由は多々あるみたい。てか、浮気ならフィリップたちとしょっちゅうしてることを忘れてるな。


「殿下こそどうなんだ? 城のことが心配で帰りたいんだろ??」

「まったく……できることなら、帝国をいますぐ離れたい」

「皇子が国を捨てて逃げようとするなよ」


 城は例の如く荒れているのは目に見えているので、フィリップは国だって捨てる覚悟。そのやる気のなさが皇族としてどうなのかと、ボエルは説教。

 そんな説教をしていたらボエルも城のことが心配になったので、フィリップを引きずって城に連行するのであった。



「いや~。アハハ。なんか暗いね~」


 久し振りのお城は、雰囲気がどんより。ひとまずフィリップは、メイド長のベアトリスから情報を仕入れようと世間話しに来た。


「この1ヶ月、聖女様を陥れようとするメイドが続出しまして……」

「あっら~。またお兄様狙いに戻ったんだ。それで怒られまくって意気消沈と」

「はい。酷い場合は実家に送られまして……」

「そりゃ暗くもなるよね~」


 メイドたちの元気がないだけなら助かるのだが、派閥間のケンカも耐えず陰湿なイジメも再発しているから、ベアトリスはお手上げ状態らしい。


「なるほどね。んじゃ、僕は行くよ~」

「お、お待ちになってください」

「どうしたの?」

「何か助言はないかと……」

「なんで僕に聞くの? 僕、出来損ないだよ~?」

「アガータ様から、もしもの時は殿下を頼るように言われているのです。前回も知恵をお貸しいただけましたし……」


 前メイド長からもお願いされているのでは、フィリップも無碍むげにはできないらしい。


「僕の悪い噂はもうやってるよね?」

「はい。効き目が薄くなっています」

「てことは、もっとインパクトのあることやらないとダメか~……」


 でも、フィリップもお手上げ。何も思い付かない。なんならエロイこと考えてるな。


「あ、そうだ。結婚や出世に興味が無くて、それでいて位の高いメイドっていない? できれば美人でオッパイ大きい人がいいな~??」

「御手付きしたいのですね……」

「違う違う。え? なんでわかったの??」

「顔に書いてあります」


 顔に書いてあるどころか口からも出てるから、わからないワケがないよ。ボエルも「本当に書いてるぞ」と言うので、フィリップは鏡で確認してた。文字は書いてないけど、スケベな顔してたから頑張って元に戻してた。


「それは置いておいて、誰か思い当たる人いない?」

「その条件ですと……顔や胸は外して考えてもいいですか?」

「なんとか入れられない?」

「無理です。う~ん……あっ、あの御方なら……」

「オッパイ大きい人??」


 ベアトリスはフィリップの茶々にも負けず、位が高くて出世欲のない人物が頭に浮かんだ。


「ローエンシュタイン公爵家の方なのですが、特殊な部署に所属していますので、殿下のあげた条件に当て嵌まると思います」

「親戚のお姉さんか~……手を出していいのかな?」

「それより部署の話を聞いてくれません?」


 フィリップがまたスケベ顔をしているので、ベアトリスは勝手に説明。どうやらこのローエンシュタイン公爵家のペトロネラはメイドとして働いているのだが、一般的なメイドとは仕事内容が違うとのこと。

 それは外交用。帝国はこの大陸で一番の大国なのだから、各国の大使や貴族が毎日のように現れるので、各国の文化やマナーを知らなければ話にならない。


 別に帝国に合わせろと一言いえば事足りるが、それでは格好がつかないし、自国に戻った時に帝国はマナーがなっていないと笑われるのも腹立たしい。

 そうならないように、各国の文化やマナーを習得したメイド部隊が発足された。つまり、エリート中のエリートメイド集団なのだ。


「ふ~ん。エリートか~。メガネかけてるのかな~? エロイな~」

「メガネは一切エロくありません」

「ヤバッ。口から漏れてた。んじゃ、その公爵家の人、紹介してくれる?」

「申し訳ありませんが、私では接点がなくて……あっ、アガータ様なら、ペトロネラ様にもご教授していたので親交があると思いますよ」

「そっちのが早そうね。おばあちゃんにメガネのエロイお姉さんを紹介してもらって来るよ」

「メガネはエロくないですよ~~~~」


 フィリップ、まだ見ぬメガネで頭がいっぱい。そのことをベアトリスは真面目に訂正していたが、フィリップは聞く耳持たずでスキップで出て行ったのであったとさ。

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