260 胃痛


 派閥のパーティーから帰ったフィリップはボエルに笑われたので「明日からサボる!」とご乱心。ボエルが体を張って献身的にマッサージすることでようやく機嫌が直った。


「てか、お兄様の婚約発表で、城のメイドがどうなってるか知ってる?」

「オレも殿下について行っていたからあまり知らない。知りたくないってのが本心だけど……」

「いまから聞きに行くか~……」

「荒れてんだろうな~……」


 せっかくメイドたちが仲良くなっていたのにフレドリクが炎を投げ込んでいるのだから、大炎上は確実。

 ボエルは見たくなさそうだけど、怖い物見たさのフィリップが行くならついて行くしかないので、2人ともテンション低く服を着るのであった。



「またゾンビみたいのが歩いてる……」

「アレはアレで怖いな……」


 メイド詰め所に向かっていたら何人ものメイドと擦れ違ったけど、ほとんど生ける屍。キラキラ皇子のフレドリクが正式に婚約発表したから、メイドたちはショックで生きる気力が抜けたらしい。

 そんなゾンビメイドたちをビクビクよけながら歩いていたフィリップとボエルは、なんとか感染せずにメイド詰め所にいるアガータと面会した。


「なんか凄いことになってるけど、仕事とか大丈夫?」

「動きに覇気がないだけですので、なんとか……」

「やっぱり婚約発表のせいだよね?」

「はい。まだチャンスがあると思っていたようです。それが完全に潰えたので、あのようになりました」


 フィリップは予想通りとは思ったけど、どちらかというとホッとしてる。


「ま、まぁ、荒れてケンカばかりするよりマシか」

「ですね。この状態がもうしばらく続けばいいのですが」

「長くは続かないだろうね~……最悪、聖女ちゃんを暗殺するとか言い出しそう。もしも危ないこと言ってる人がいたら、僕にも情報流して。なんとかするから」

「それは心強いお言葉。感謝いたします」


 珍しくフィリップが皇族らしいことを言っているので、アガータもボエルも感心だ。

 ある程度の情報を手に入れたフィリップは帰ろうとしたら、アガータからまだ話があるみたい。


「今月いっぱいでおひまをいただくことになりました」

「そうなんだ……」


 フィリップは「この大変な時期に辞めるの!?」と言いたかったが、アガータはもう歳なのだから老体にムチは打てない。


「後任は決まってるの?」

「はい。坊ちゃまのおかげですんなりと決まりました」

「てことは、ユーセフソン伯爵家の人か~……」

「はい。あのことががなければ、もう数年は揉めていたでしょうね。危うく干からびてまで働かされるところでした」


 アガータの冗談に、フィリップは苦笑い。すでに干からびて見えるもん。


「ま、長きに渡りお疲れ様。これからは穏やかに余生を楽しんでよ」

「はい……坊ちゃまにこれほど立派なお言葉を掛けられて、このアガータ、感無量でございます」

「僕だってこれぐらい言えるよ~」


 皇帝に続きアガータにもからかわれたモノだから、ボエルは吹き出して笑い、フィリップは涙目になるのであった。



 アガータの今後を聞いたら相談役として城に残るそうなので、フィリップは「遊びに行くね」と声を掛けて部屋に戻る。

 その帰り道、ゾンビメイドが「ぬっ」と出て来たからビビリ、走って逃げて部屋のドアを閉めたところでボエルから質問が来た。


「なあ? 珍しく皇族らしいことしようとしてるけど、どうしたんだ??」


 何もやろうともしないフィリップが珍しくやる気を出しているから、不思議で仕方がないらしい。


「そりゃメイドとは仲良くしておいたほうがいいでしょ? マッサージしてくれるかもしれないし」

「やっぱり変だ! 殿下は面倒な貴族の女に近付かないだろ! 絶対、裏がある!!」

「裏と言われても……せいぜいこのぐうたら生活を守るためとしか言いようがないんだけど……」

「あ、そっち? それなら殿下らしくて安心した。疑って悪かったな」

「なんか腑に落ちないんだけど~??」


 ボエルはスッキリしたけど、その変わり身が早すぎてフィリップは逆にスッキリできずに夜が更けて行くのであったとさ。



 翌日からもフィリップは派閥のパーティーに嫌々出席。フレドリクとルイーゼがイチャイチャして、それを貴族たちが不満そうな顔で見ているからフィリップは今日もお腹が痛そう。

 でも、知人がいるパーティーでは、フィリップもパッと明るくなった。


「エイラだ~。元気にしてた? ……ダグマーも??」


 でもでも、元カノみたいな元メイドが2人同時に現れたので、フィリップの胃はキリキリ言ってるよ。


「元気でしたよ。ダグマーさんとは殿下の話で盛り上がっていたのです。ね?」

「はい。お互い知らない頃の話が聞けて、有意義な時間でした」

「そ、そうなんだ……何を話していたか気になるけど、怖いから聞かないね~」

「たいしたことではありませんよ。あのことを私が教えたぐらいなので」

「でも、私の趣味の内容は教えたことがないと仰っていたのですが、殿下はどこで知り得たのですか?」

「こんなところでやめてよ~~~」


 話の内容的には仲良く喋っていたのはよかったけど、マッサージの話をして来るのでフィリップもギブアップしてしまうのであった……


「「ところで新しい侍女ともなさっているのでしょうか?」」

「だからやめてよ~~~」


 さらに追い討ちをされて、ボエルがギクッとした顔になるのであったとさ。

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