236 フィリップの悪巧み


 新しいメイド服はコンペをすることになったので、フィリップは上機嫌。鼻歌まじりにスキップで自室に戻ったら、ベッドに飛び込んだ。


「てか、あんなに悪い顔で悪巧みしてたのに、何がしたかったんだ?」


 その喜びようもフィリップの意図もボエルにはわからないらしい。


「上手く仕事をメイドたちに押し付けられたじゃな~い?」

「まぁそれはわかるけど、取りまとめるのは殿下だから、上に立つ者としたらそんなもんじゃないか? あの顔は、もっと酷いことをしようとしていた顔だ」

「失礼だな~。アレが真面目に考えてる顔なんだから馬鹿にしないでよ~」

「アレが? そういえば、殿下が考え事をする時、いつもエロイ顔か悪い顔してたかも……」

「僕、そんな顔してたんだ……」


 嘘をついたつもりなのにボエルが信じてしまったので、フィリップも落胆。この日は奴隷館のキャロリーナとマッサージする日だったので、事が終わったあとに鏡を見ながら考え事をするフィリップであった。


「なにボーッとしてるのぉ?」

「考え事してる顔なんだけど……」

「考え事ぉ? 殿下が考える時って、エロイ顔する時じゃないのぉ??」

「どうしたら真面目に考え事をしてると伝わるんだろ…… 」

「なになにぃ? どうしたのぉ??」


 他の人にも伝わらなかったので、フィリップは自信を無くし、キャロリーナに激しいマッサージを要望して気分をまぎらわすのであったとさ。



 メイドを集めて会議をした翌日のフィリップは、体調不良とか言って起きたのは昼過ぎ。キャロリーナと遊びすぎたのが、体調不良の原因なんだけど。

 そのままベッドの上でダラダラ過ごしていたら、夕方にボエルから報告があった。


「絵が上手い人の取り合いになってるんだ~」


 メイドたちは、仕事のかたわらに争奪戦が勃発しているらしい。


「ああ。でも、これで期日に間に合うのか?」

「まぁ位の高い人から決まって行くでしょ」

「そりゃそうか。期日も短いから、アイツらも急ぐか」

「そうそう。あ、ルールを追加しといたから、お婆ちゃんにこれ渡しといて」


 フィリップの渡した紙には、メンバーが決まったら家名とフルネーム、絵を描く者とデザインのアイデアを出す者の名前を提出すること。プラス、メンバーチェンジは一回まで許可することが書かれていた。

 これは普通のことに思えたボエルは特に気にせずメイド長のアガータに届けに行き、その翌日の夕方頃にはメンバー表がフィリップの下へと届けられた。


「意外と早く決まったな」

「だね。はてさて、どうなるかな~?」

「また悪い顔で笑ってる……何がそんなに面白いんだよ」


 ボエルはもう、フィリップが真面目に考えてると思えないらしい……


「見たらわかるよ」

「気になるからいちおう目は通したけど……笑うならデザインを見てからじゃないか?」

「いや、メンバーのほうが面白いでしょ」

「はあ?」


 ボエルがわかってないので、仕方なくフィリップは教えてあげる。


「ほら? この侯爵家の組、1人だけ準貴族がまざってるじゃない? 仲良しなのかな~??」

「確かに変だな……あ、この子が絵が上手い子か??」

「だろうね。派閥で固めないで勝ちに来てるのが見え見えだよ。それで勝てるかどうかは別だけどね~」

「そこまでしてるなら、トップクラスの絵描きだから勝てそうに思うけど……」

「甘い。甘すぎる。甘いを通り越して辛い。今日は辛い物が食べたくなっちゃった。予約ってまだ変更可能??」


 絵の話からまったく違う話に変わったので、その前からイラッと来ていたボエルは正式に怒る。


「もう夕方だから無理だ! それより何が甘くて辛いんだ!!」

「甘辛も捨てがたい。明日のランチは甘辛でよろしく~」

「わかったから、早く言えよ!」

「えっと……なんだっけ?」


 ボケすぎてフィリップは本当に忘れてしまったので、ボエルは怒鳴り付けて思い出させた。


「要するに、そんな高貴な者の中に入って、子羊ちゃんが本来の実力を発揮できるかってことだよ」

「んん~? 多少は緊張するだろうけど、なんとかなんじゃね??」

「それが、上から物を言われたら??」

「そりゃ逆らえない……あっ!!」


 ボエルが気付いたみたいなので、フィリップは指をパチンと鳴らして答えを言う。


「たぶん、自分の感性でああだこうだデザインを押し付けると思うんだよね~」

「やる。アイツらなら、確実にやる……」

「そのデザインは、どんなのができあがるんだろ? 見物だね~」

「ま、まぁ、ファッションに詳しいヤツもいるだろ? そんなに変な物はできないだろう」

「ボエルは成功するに賭けるんだ。じゃあ、僕は逆張りで失敗するに賭けるね。何してもらおっかな~??」

「オレも失敗するにオールインしたいんだけど……」


 ボエルまでそんなことを言うので賭は成立せず。フィリップはこころよくそれを認め、たまに新ルールを追加するだけでいつも通りダラダラして時間が流れるのであった……



「何組か、デザイン案が上がって来たぞ」


 会議から5日後、早くも収集係のボエル経由でフィリップの下にデザイン案が届けられた。


「う~ん。お婆ちゃんに見せて判断しようと思ってたけど……どう見てもナシだね」

「ナシ? めっちゃ上手く描けてると思うけど……豪華でよくないか??」

「メイドが着飾ってどうすんのよ? これ、分類すると美人画じゃね??」

「あ、うん。ナシです……」


 女好きのボエルは、貴族の美女が美しく描かれた絵に魅力されてたっぽい。


「ほら? 名前見てみて。不安も的中だ」

「見事に位の高い組ばかりだな……」

「アホばっかり。ちゃんと議論したかも疑わしいね」

「してねぇだろうな~……てことは、こいつらは落選のまま進めるのか?」

「それも面白くないでしょ」


 フィリップは悪い顔してデザイン画をボエルに渡す。


「これ、返却しといて。んで、いま現在提出された物は全て落選と言って。さらにルール追加。一回だけ描き直しを認める。今回返却した組は、次がラストチャンスとね」

「ラストチャンスっと……」


 ボエルはメモを取り終わるとフィリップの顔に言及する。


「普通のこと言ってるのに、なんでそんな顔してんだ?」

「これが普通か~……プププ」

「もったいぶらず教えろよ」

「仕方ないな~……今回、位が高い者が全て却下されたでしょ? 理由は述べてないから悩むだろうね~。するとどうなるか……責任の押し付け合いだ。一番言われるのは、子羊ちゃん。このまま抱えて最後までやりきるか、それとも追放してどこからか引き抜くか……いや~。ドロッドロの戦いが繰り広げられるぞ~。アハハハハ」


 理由を聞いて、ボエルもその未来が見えたのかドン引きだ。


「だ、だから最初からそんな顔してたのか……だからメンバーチェンジできるようにしてたのか! きたなっ!?」

「策士と言ってくれたまえ。女の戦い、ゾクゾクするよね~? アハハハハ」

「笑えねぇよ!!」


 こうしてフィリップの描いた絵図通り、メイドたちはドロッドロの泥仕合を始めるのであった……

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