226 皇帝とランチ


 フレドリクのお誘いを乗り切った翌日は、皇帝の呼び出し。今日のフィリップも足取り重く皇族食堂に向かっていた。


「よりによってランチの誘いとは……」

「よかったじゃないか。陛下は忙しいなか会ってくれるんだろ?」

「初めて2人きりで食べるから緊張するんだよ~」

「マジか……マナーとか大丈夫か?」

「それも心配なの~。行きたくねぇ~」

「昨日と同じこと言ってるよ……」


 ただでさえ皇帝と会うのは緊張するのに、それが食事の場ではフィリップはド緊張。フィリップは何度か足が止まるので、ボエルが手を引いて連れて行くのであった。



 皇族食堂になんとか辿り着いたフィリップは、ノックをしてから中に入ったけど給仕しかおらず。この人は皇帝専属の給仕だと説明を受けて椅子を引かれたので、その場所に座る。

 それから15分ほど待たされたフィリップは、勢いよく開かれたドアの音で慌てて立ち上がった。


「父上。お仕事お疲れ様です」

「うむ。楽にしろ」

「はっ」


 嫌々でも礼儀を忘れないフィリップ。頭を下げているボエルは「やればできんじゃん!」って、ちょっと感心してるな。

 このまま食事が始まるのかと思ったら、皇帝は自分の付き人やボエルを追い出し、給仕が料理を複数並べて出て行ったところでフィリップに食べるように促した。


「いただきます。うん。美味しい」

「そうか」

「それにしても、父上はいつもこんな食べ方をしてるの?」

「ああ。時間がもったいないからな」


 長いテーブルの上にはコース料理が全て並んでいる状態。皇帝もマナーを気にしていないのか、パンを鷲掴みにして咀嚼回数も少ないので、フィリップも合わせようかどうか探り探りだ。


「それよりフィリップ。アガータから聞いたが、聖女への悪口を禁じていたのはどうしてだ?」


 皇帝の呼び出しの理由はこれが聞きたかったらしい。


「学校でも酷い言われようだったからだよ。それでお兄様が怒ることがあったから、先に手を打っておいたほうがいいかと思って。出過ぎたマネだったかな?」

「いや、いい。よくやった。しかしフレドリクでも怒ることがあるのだな」


 フィリップとしては皇帝はなんでも知っていると思っていたので少し驚いた顔になった。


「え? 聞いたことないの??」

「エステルとのことは耳に入れていたが、それ以外は報告を受けていない」

「それって、誰かが止めていたってこと?」

「だろうな。その程度は些事さじだから、俺に聞かせる必要はないと判断したのだろう」

「あ、忙しいもんね。そんなのいちいち報告されたら僕だってイヤかも? できる家臣だね~」

「うむ」


 最初は行きたくなかった皇帝とのランチは、意外と話が弾んで進んで行く。そうして後半になって、ようやくあの話を切り出すフィリップ。


「もう数日で学校始まるから、寮に戻って準備しようと思うんだけど……」

「そうか……」

「あ、はい……」


 皇帝は特に反対する気はないみたいだが、急に自分の膝を叩いたのでフィリップはその上に。離れるのは寂しいのだろう。

 フィリップはここから話が弾まなくなったので、いつもこの体勢じゃなかったらもっと上手く喋れたのではないかと思ったのであったとさ。



「うぅ……食べた気がしない……」


 皇帝とのランチから帰ったフィリップは、今日もベッドに飛び込んでグデ~~ン。


「また昨日と同じこと言ってるよ……なんか怒られたのか?」

「いや、どちらかというと褒められた」

「だったらなんでそんなに疲れてんだ?」

「最後の最後で膝に乗せられて撫で回されたの~。父上、僕の年齢知ってるのかな?」

「プッ……かわいがってもらえるからいいじゃないか」

「あ~! 笑った~! アレ恥ずかしいんだからね~!!」


 フィリップはこう見えて今年14歳。ボエルが笑うからプンプンだ。


「だったら断ればいいだけだろ」

「お兄様に言い出し難くされてるんだよ~~~」


 フィリップだってあんなはずかしめはやめたいに決まってる。フレドリクが拒否した話を聞いていたから、皇帝からやめるのを待っているのだ。というか、自分から言う勇気がないってのもある。

 この日もフィリップは機嫌が悪く、またボエルの体に当たり散らしたであったとさ。



 翌日は予定通り、城から逃走。寮の自室に入ったら、フィリップとボエルはベッドに飛び込んでグデ~~~ン。


「なんでボエルまで?」

「貴族の女、面倒くさい……」

「なになに~? なんか言われたの~??」


 どうやらボエルは、連日ネチネチからかわれるのもしんどいが、フレドリク狙いの貴族の相手もしんどかったらしい。


「婚約破棄したのに聖女ちゃんのこと言ってないからそうなるか……」

「ああ。殿下経由で顔を繋いでくれってのが多い多い。もう少しで聖女様のこと言ってしまうところだった」

「よく我慢したね~。ご褒美にマッサージしてあげる~……わっ」


 フィリップが寝転んでいるボエルに覆い被さったら突き飛ばされた。


「いったいな~。労ってあげるだけでしょ~」

「2日もあんなにやられたから疲れてるんだよ! てか、それが一番の理由だ!!」

「あ……あはは。僕もちょっとストレス溜まってたから……学校始まるまでゆっくりして。食事の世話だけでいいからね?」


 ボエルの疲れの理由は、フィリップのマッサージ。連日長々とやったので、フィリップも反省して学校が始まるまで夜の町に通うのであったとさ。

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