220 物語の終わり


 フィリップがボエルたちにギャーギャー責められていたら、フレドリクがまた高いところから喋り出したので一時ストップ。内容はエステルには触れずに、楽しい夜だったとシメの挨拶だ。

 最後の一曲は、全員スローに踊る。パートナーのいないフィリップは「帰っていい?」とか言ってたのでボエルに怒られていた。


 曲が途切れると、万雷の拍手。「卒業おめでとう」と言う声がそこかしこから聞こえていたけど、フィリップが「まだ卒業してないのにね~?」と言うので、ボエルに「水差すな」と呆れられていた。

 さらに「そんなこと言ってないで挨拶行くぞ」と、ボエルにフィリップは脇に抱えられて連行。フィリップは「明日、卒業おめでとう」と正確に声を掛けたら、フレドリクたちに苦笑いされ、ボエルがめっちゃ謝って退場するのであった。



 その夜は、リネーアとコニーには「部屋に来るな」と追い払い、ボエルも「もう眠い」と早めに追い出すフィリップ。説教されそうだから先手を打ったってのが真相。

 あと、イーダに早く会いたいってのが……


「なんであんな所にいるんですか! エステル様が婚約破棄された~! うわああぁぁ~ん!!」


 やっぱりもう少し落ち着いてから来ればよかったとフィリップは後悔。でも、婚約破棄よりフィリップの立ち位置が先に来たので、ちょっと吹き出しそうになってるな。ポコポコ叩くイーダを抱き締めて顔を見せないようにしたし。


「力が足りなくてゴメン。でも、これだけは言わせて。エステル嬢が死ななくてよかったね」

「うぅぅ……わ~~~ん」


 エステルの命の危機は少なからずあったと知っているイーダは、フィリップに当たり散らすこともできず、ただただ泣き続けるのであった……



 それからどれぐらい時間が経っただろう……


「なんであんな場所にいたのですか?」


 泣き疲れたイーダもこのことが一番気になるらしい。フィリップはボエルたちに言ったように煙に巻いたけど、真実はアン=ブリットの失敗を踏まえて、今回は油断は一切なく必ず止めると誓ってあそこまで近付いたのだ。


「ま、エステル嬢が早まったことをしなくてよかったよ」

「それなんですが、エステル様はナイフが盗まれていなければと小声で言っていたのですが……」

「あ、そんなこと言ってたんだ。実は知り合いに頼んでスッてもらったんだ~」

「嘘つき……」


 イーダが傷心のエステルを追った時に真相を知ってしまっていたのでは、フィリップも真実っぽいことを言わなくてはならない。イーダの最後の発言は、全てをひっくるめての発言らしいけど。


「そのエステル嬢は大丈夫だった? 自殺とか考えたりしてない??」

「たぶん……ルイーゼに対して、殺す殺すとずっと呟いてましたので……」

「うん。大丈夫そうではないね」


 怒りに身を焼いていたのでは、フィリップは違う心配に変わったな。


「自室にいるの?」

「いえ、貴族街の別宅です。明日、朝一で実家に帰ると言っていました」


 イーダいわく、別宅にはエステルの卒業式を見ようと母親が1月から滞在中とのこと。だからエステルは寮にある荷物は必要最低限持ち出して今日は別宅で過ごし、残りは従者が回収して領地に送ることになっているらしい。


「てことは、卒業式は出ないんだ~……イーダも?」

「エステル様からは必ず出席するように言われています」


 イーダたちも欠席して一緒に帰ると訴えたらしいが、自分の都合に巻き込んで一生に一度の卒業式を台無しにしたくないと断られたそうだ。


「それは寂しいね……」

「はい……一緒に卒業したかったです……」

「ま、あんなことになったんだから仕方ないよ。エステル嬢には、どんな卒業式だったか伝えて雰囲気だけでも楽しんでもらいな」

「はい。うぅ~……」

「よしよし。僕の胸でよかったら、好きなだけ使いな」


 イーダは泣きながらエステルとの思い出を語り、夜が更けると泣き疲れてそのまま眠ってしまうのであった……



 翌日、帝都学院の卒業式が開かれる。フィリップは行きたくないとかゴネテいたけど、馬鹿皇子設定を演じているだけ。皇帝も出席すると聞いて、シャキッとして部屋を出た。いまだに苦手意識があるらしい。

 というか、式典が始まるまで膝に乗せられて頭を撫で回されるから、苦手なんだって。もう13歳だもん。


 その皇帝は、頭が痛そう。第一皇子の婚約破棄は噂となり、至る所から聞こえているからだ。フィリップは「大丈夫?」と探りを入れたら、皇帝も事前に聞かされていなかったし、フレドリクとまだ喋っていないので困っているらしい。


 卒業式が始まると、学院長、卒業生代表のフレドリク、保護者代表の皇帝、在校生代表の4年生、それらの長いスピーチをフィリップがウトウトして聞けば、この拷問は終了。

 最後の卒業生が帽子を投げるシーンだけは、乙女ゲームにあったので目に焼き付けたフィリップは、ため息の多い皇帝が帰って行くのを見送り、ボエルの目を盗んで消えるのであった。



 物語には必ず終わりがやって来る……


「「「「ルイーゼ……愛してる」」」」


 卒業式が終わってしばらく経った頃、大図書館の裏ではフレドリク、カイ、ヨーセフ、モンスがひざまずき、バラの花束をルイーゼに差し出した。


「ありがとう。私もみんなのこと愛してるよ」

「「「「ルイーゼ~~~!!」」」」


 5人で抱き合う逆ハーレムメンバー。そうしてフレドリクたちが笑顔で帰路に就くと、それを隠れて見ていたフィリップは花壇から頭を出した。


「こうして平民だったヒロインは悪役令嬢のイジメにも負けず、大好きな皇子様たちに囲まれて幸せに暮らすのであった。めでたしめでたし……って、このあとどうなるんだろ??」


 乙女ゲームでは、攻略対象が1人の場合はここでキスをし、テロップには結婚して幸せに暮らすとなる。しかし逆ハーレムルートの場合は、ふわっと濁して終わるので、フィリップも首を傾げちゃった。


「兄貴だよね? 婚約破棄までしたんだから、兄貴と結婚するんだよね? まさか逆ハーレム続けるなんて言わないよね? マジでどうなるの~~~??」


 ここは乙女ゲームが現実になった世界。物語は終わってしまっても人生はまだまだ続くのだから、ハッピーエンド後が心配になるフィリップであった……



*************************************

 まだまだ続きます。

 てか、ガチで100話ぐらい続きそうです……


 ここまでが前作というかこの作品の続きとなる『乙女ゲームのヒロインが善政改革しまくるから逆に国は滅びそうなのでショタ皇子に転生した僕は悪役令嬢と手を組みます』で語られた内容がほとんどですので、読み始めるにはちょうどいいタイミングかと思われます。

 なにせ、終わりが見えないもんで……


 次章からは、フィリップの苦労話のはじまりはじまり~。

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