212 フィリップVS元騎士100人


 元騎士100人が一斉に走り出すとフィリップはクナイを1本取り出した。


「どうやって使うんだろ?」

「死ね~~~!!」

「ま、いっか」

「ぎゃっ!?」


 斬り掛かった元騎士は、普段着があだに。剣を紙一重で避けたフィリップが、力業ちからわざでクナイを元騎士の胸に突き刺してご臨終。


「1人減ったところで痛くも痒くもないぞ! 行け~~~!!」


 第二皇子が簡単に人をほふったことに驚いた元騎士たちであったが、クレーメンス伯爵の怒鳴り声にハッとしてフィリップに襲い掛かる。


「くっ!」

「待て!」

「どこ行った!?」

「捜せ!!」


 今度は数の利があだに。小柄なフィリップが元騎士の隙間を縫って走り回るものだから見失ってしまった。


「ここだよ。鬼さんこちら~。ここここ~♪」

「いた! 伯爵様の後ろだ!!」

「……へ??」

「「「「「……へ??」」」」」


 いきなりキングがチェックメイトされていたから、クレーメンス伯爵は振り向いてとぼけた声。元騎士も同じような声を出し、固まってしまった。


「急げ! 伯爵様を守るんだ~~~!!」

「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」

「こっちこっち~」


 しかし上官が我に返って命令すると、一同ダッシュ。両手を振っていたフィリップは、クレーメンス伯爵の頭を踏んで大ジャンプ。立派なシャンデリアを掴んで……


「ん、んん……ア、アアァァ~♪」


 ターザンごっこ。クレーメンス伯爵とは真逆に着地した。


「聞きしに勝る馬鹿だ! アホだ! 最初で最後のチャンスを逃したぞ!!」


 その隙に、クレーメンス伯爵は一番レベルが高い10人の元騎士でガッチガチに守りを固めてフィリップを嘲笑う。


「いつでもヤレるって教えてあげたんだけどな~。それすらわからず宰相狙ってたなんて、あんた、底が知れるよ」

「誰が無能だと……貴様こそ、逃げ回っているだけで1人しか倒せてないだろ!」

「5人……」

「あん?」

「見えないの? 倒れてる人、5人いるでしょ? 目も悪いんだったら隠居すれば~??」


 クレーメンス伯爵が辺りを見渡すと、フィリップの言う通り血を流して倒れている男が5人。全てフィリップがれ違い様にクナイでひと突き、もしくは首をかっ切った御遺体だ。


「そ、それがどうした! こっちはまだまだいるぞ!!」


 一瞬ひるんだクレーメンス伯爵であったが、すぐさま気を取り直して元騎士をけしかける。ここからは乱戦。フィリップは走り回り、隙のある元騎士はクナイの一撃で屠っていく。

 およそ20人が倒れたところで目の前には知った顔がいたので、フィリップはその場で喋りながら攻撃を避けてる。


「おっ! 毒殺の人だ。5回も失敗したのに、まだ消されてなかったんだ」

「う、うるさい! これが最後のチャンスなんだよ!!」

「伯爵様、お優しぃ~い。というより、寄せ集めの捨て駒かな? このあと殺されるのに、かわいそ。プププ」

「お前をヤレばいいだけだ~~~!! ……はれ??」


 ペール=オーケのラストチャンスは台無し。フィリップが飛ばした氷のクナイが頭に突き刺さり、あっという間に退場。


「ここからは飛ばすぞ~~~!」


 今まで接近戦しかしていなかったフィリップは、氷魔法解禁。クナイ型の氷が飛び回り、数分後には残り11人となるのであった……



「な、なんだ……どうなっているんだ……」


 フィリップが死体や血を踏まないように歩くなか、クレーメンス伯爵は蒼白。いまにも腰を抜かしそうだ。


「伯爵様、我らが時間を稼ぎます。その間に脱出してください!」

「わ~お。そんなオッサンに自己犠牲なんて、ご立派だね~……でも、逃がさないよ」


 拍手をしながら近付いていたフィリップが両手を広げると、部屋の壁は一瞬で凍り付いた。これでは逃走不可能と、元騎士は固まってクレーメンス伯爵を守るしかない。


「どうなっている! 第二皇子が魔法を使えるワケがない! 俺は適性検査を見ていたぞ!!」

「アレは僕が上手く隠しただけだよ。僕が氷魔法を使えること知ってるの、現世には11人だけ。つまり、ここにいる人以外、全員死んでるってこと」

「ク、クソッ! やれ! やれやれやれやれ! そいつを殺せ~~~!!」

「「「「「はっ!」」」」」


 クレーメンス伯爵、頭を掻きむしって錯乱。10人の元騎士は、フィリップの強さをその目で見ていたから慎重に距離を取り、チームワークでフィリップを攻撃する。

 フィリップは嘲笑うかのように剣や魔法を避け、攻撃するフェイント。元騎士は1人を犠牲にしてでもと考えているから、そのまま攻撃していたらフィリップが斬られていただろう。


「あ……ゴメン。肉を切らせて骨を断つ作戦だったんだ。今度はちゃんと攻撃するから。ゴメンね」


 いや、レベル30の元騎士が10人も揃っていたから、すぐに殺すのはもったいないと遊んでいただけ。

 フィリップは有言実行で、死を覚悟した元騎士をクナイで突き刺したけど、かなり力を込めたから、その一撃で元騎士は凄い速度で飛んで行き、壁に打ち付けられた。


「アレ? ここで攻撃するんじゃなかったの??」

「ば、化け物め……」

「そう思って戦わないと、僕にはダメージすら与えられないよ~? アハハハハ」


 元騎士は本当に化け物対応したけど、笑うフィリップに1人、また1人と倒され、一太刀も浴びせられないまま息絶えるのであった……



「さってと……残りはお前1人だけだ」


 元騎士100人を簡単に倒したフィリップは、壁際で震えるクレーメンス伯爵にクナイを向けながら近付いた。


「た……助けて……助けてください!」

「皇族が謀反を知って許すと思ってんの?」

「殿下に忠誠を誓います! 私が全力で皇帝にしてあげますから!!」

「僕、皇帝やりたくないから、お前なんかいらな~い」

「なんでもしますから殺さないで~~~」


 クレーメンス伯爵の涙ながらの命乞いは、フィリップは気持ち悪そうにしてるな。


「なんでもか~……あ、一回だけチャンスあげるよ。お前が今までやった悪事を全部教えてくれたら、逃がしてやる」

「はい! 仰せのままに!!」


 チャンス発言に、クレーメンス伯爵はペラペラ自白。フィリップはニヤニヤしながら全てメモに取り、証拠の場所も教えてもらった。


「アハハ。なかなか手広くやってるね~。このネタなんか、他の貴族も震えあがりそう。ありがとね」

「もったいないお言葉で。殿下の力になれて、私も幸甚こうじんの至りです」

「ううん。助かったよ。んじゃ、そろそろ死のっか?」

「はいっ! ……はい??」


 フィリップが笑顔なので、クレーメンス伯爵は間違っていい返事したあとは首を傾げた。


「いま、なんと……?」

「だから、いまから殺す」

「なっ!? チャンスをくれると言ったじゃないですか!!」

「あげたよ~? 今日の夜までに帝国から消えろと言ったじゃん」

「先払い!? グフッ……」


 かわいそうなクレーメンス伯爵。騙された上に心臓を貫かれて、最後の言葉はツッコミになるのであった……

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