192 正論


 ルイーゼの階段落ちを完全に阻止できなかったフィリップは、ダッシュで戻ってベランダから教室に静かに忍び込み、自分の席に座った。

 それから「なんで戻って来るんだよ~」と先程のルイーゼの行動に腹を立てていたら1時間目終了のチャイムが鳴り、それと同時に振り返ったリネーアに「なんでいるんですか?」とか言われてた。


 フィリップが珍しく起きているモノだから、クラスメートは喋り掛けようとジリジリ近付いていたが、4人の男登場でそっちに向かった。


「フィリップ。ちょっといいか?」

「あ、お兄様」


 フレドリクだ。体育が終わってから、急いでやって来たのだ。その他、親友のカイ、ヨーセフ、モンスは何やら怒ったような顔でフィリップを睨んでいる。


「どうかしたの?」

「ルイーゼを階段から突き落とした犯人を捜しているのだ。エステルがやったのか?」

「なんでエステル嬢が出て来るかわからないけど、聖女ちゃん、自分で落ちてたよ」

「本人もそう言っているが、あんな時間にルイーゼが1人で行くわけがない。エステルに嵌められたとしか……」


 フレドリクはどうしてもエステルを犯人に仕立て上げたいようなので、フィリップはやれやれって仕草をする。


「別に僕はエステル嬢の味方をするわけじゃないけど、エステル嬢があの場にいなかったのは事実。聖女ちゃんも自分から落ちた。てか、あの子、4回も階段から落ちそうになったんだよ? なんとか全部助けてあげたのに、また戻って来て落ちるってどゆこと?? 1人で階段使うなって言っておいてよ」

「うっ……うむ。これからは誰かそばにいるようにする」


 ついでに愚痴ってみたら、フレドリクも押され気味。ルイーゼからも何度も助けられたと聞いていたから、フィリップの愚痴は正論に聞こえたっぽい。


「それはそうと、フィリップは授業中に何をしてたんだ?」

「あ、えっと……探検?」

「授業をサボるな」

「はい。すいません」


 フレドリクもド正論でやり返すので、フィリップは素直に謝るのであったとさ。



 フレドリクたちは着替えもまだだったので、聞くことを聞いたら走って撤退。残されたフィリップはリネーアになんの話をしていたか聞かれていたけど、とぼけ続けて寝た。

 今日のイベントはルイーゼが階段から落ちたことで消化したので、ランチ以外は眠り続けて、夜にはイーダの部屋に忍び込んだフィリップ。


「どうしてあんなところにいるんですか~。ビックリするじゃないですか~。エステル様にも怒られたんですよ~」


 フィリップの顔を見るなり、イーダはグチグチ。フィリップはニヤニヤしながら上着を脱いでベッドに飛び込んだ。


「いや~。どうせなら、一番近くで見たいじゃない?」

「近すぎます!」

「アハハ。確かに。てか、落とすのエステル嬢がやるって言ってなかった? 噓ついたの?」

「それは……やはりエステル様のお手を汚したくなかったから……殿下が邪魔する可能性もありましたし……」

「なるほど。なかなかの忠義だ。裏切らせる形になってしまって悪かったね。めちゃくちゃ怒られた?」

「いえ……」


 フィリップ登場とルイーゼの茶番のせいで、エステルも毒気が抜けてイーダを怒ったのは最初の1回だけ。その後は、フレドリクたちに犯人扱いされたことに怒っていたそうだ。


「あっれ~? エステル嬢はあの場にいなかったって証言しといたのにな~」

「え? そんなことまでしてくれたのですか??」

「イーダを驚かせてしまったお詫び。でも、お詫びになってなかったみたいだね」

「その気持ちだけで充分です。エステル様も喜んでくれると思います」

「エステル嬢を喜ばせるために嘘ついたワケじゃないからね? 今回のはただの気まぐれだから、過度な期待はやめてね」

「はい……」


 こうしてフィリップに冷たくあしらわれたイーダは、ベッドの中では手厚くマッサージされるので、フィリップの真意がますますわからなくなるのであった……



 フィリップがルイーゼのイジメられる姿やエステルのドぎつい嫌味を堪能していたら日々が過ぎる。

 そんなある日、ランチを終えた頃にリネーアたちを引き連れて廊下を歩いていたら、上級生の女子が胸を揺らしながら駆け寄って来た。


「た、助けてください!」


 その女子はフィリップに抱きつきそうな勢いだったので、ボエルが前に出て通せんぼ。


「ボエル。オッパイ大きいからいいよ」

「この雰囲気で、よく胸の話ができるな……」

「「「……」」」


 女子が助けを求めているのに、フィリップが胸しか見ていないのではボエルも呆れ顔。助けを求めた女子も、フィリップに恩あるリネーアもマーヤもドン引きだ。


「んで……オッパイが重いから肩凝りが酷いって相談かな?」

「どうして困っている人にそんなこと言うんですか! 最低!!」

「そうだよ~? 僕の噂はそんなのばっかだもん。本当に困ってるなら、お兄様に言いな」

「で、殿下がいいんです……実は私……」

「聞いてないんだけど~??」


 フィリップはまったく聞く耳持たずなのに、女子は身の上話を始める。その内容は、4年生の同級生に毎晩犯されているとのこと。なんとか助けてくれないかと涙ながらにお願いしていた。


「なんて酷い奴なんだ! 殿下、オレからも頼む! 助けてやってくれ!!」


 それに食い付いたのは、ボエル。女子側に移動して頭まで下げてる。


「だからなんで僕が……」

「リネーアの時は、何も言わず助けてたじゃないか? 胸だってデカイぞ??」

「チッ……今回はそのオッパイに免じてだからね」

「「「「胸が大きかったらいいんだ……」」」」


 めちゃくちゃ嫌そうな顔のフィリップが渋々折れるので、ボエルたちは同じことを呟いたのであったとさ。

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