160 初めての日中


 フレドリクに面倒なことを押し付けた次の日、ついにフィリップは昼間の繁華街に出た。


「うわ~。こんなに人がいたんだ~」


 さすがはこの大陸の六割を占める国の首都。夜に歩いている人数とは桁違いの差があるので、フィリップも目を輝かせている。


「絶対に手を離すなよ? あと、女のケツを追い回すなよ??」


 そんなフィリップを他所に、ボエルは超心配。フィリップならやりかねないもん。


 今日のお出掛けは、フィリップは茶髪のカツラを被って町人風。ボエルも似たような格好で剣を差しているので、また兄弟みたいになっている。

 ちなみに服を用意したのは護衛。ちょっとでも町に溶け込ませ、危険な目にあう確率を下げたかった模様。問題はフィリップが着てくれるかだったけど、「いいよ~」と簡単に許可が出たのでホッとしたそうだ。


「わかってるって。まだ結婚したくないし」

「あ……その設定続いてたんだ……逃げてみるか?」

「しまった!?」


 フィリップ、凡ミス。ボエルが忘れていたことを思い出させてしまったので、ボエルの手がいまにも離れそうだ。


「ねえねえ? お姉さんたち時間ある? 僕たちとお茶しな~い??」

「で……お前! ナンパしてんじゃねぇ!?」

「えぇ~。お兄ちゃんのためにやってるんだよ~? お兄ちゃんカッコイイでしょ??」

「「どうしよっかな~??」」

「え……いいのか??」


 なのでフィリップはちょうど前から来た2人組をナンパして、ボエルに女好きを思い出させてあげるのであった。



 ナンパした女性は気を持たせていたクセに、「これから仕事に行くところ」と言われたので失敗。フィリップとボエルは、その失敗で機嫌が悪くなってるよ。


「てか、ナンパすんなよ」

「ちょっとぐらい、いいじゃ~ん。案内役がいないといい店わからないでしょ?」

「確かに……いや、ダメだ……」

「ププ。葛藤してやんの。とりあえず、あの2人組に声掛けてみようよ。お兄ちゃん」

「お兄ちゃん言うな。お姉さんだろ」

「あ、そっちがよかったんだ。お姉…さん? 見えないんだけど~??」

「もうお兄ちゃんでいいよ!」


 ボエル、自分で言ったのに、お姉さんはしっくり来ないみたい。お兄ちゃんも言われ慣れていないのでしっくり来ないが、フィリップがしっくり来ているなら合わせるようだ。

 ひとまずナンパしようとしたけど、まだフィリップの偽名が決まっていなかったので、作戦会議。今回は男らしく「ライアン」に決めたら、ボエルもカッコいい偽名にしたくなってた。

 なので捻り出して、雄々しい「レオン」に決定。そしてナンパに繰り出そうとする。


「もう行っちゃったよ」

「しまった!?」


 でも、時間を掛けすぎてロックオンしていた女子は消えていた。


「次は、お兄ちゃんが好みの子に声掛けてみてよ」

「えぇ~。オレが~? 恥ずかすぅいぃ~」

「なんでそこだけ乙女になるんだよ」


 フィリップがせっかく譲ってあげたのに、ボエルはクネクネし出すのであったとさ。



 なんだかんだで案内役は手に入れることに決まったので、歩きながら獲物を物色。ボエルに任せてみたら、本気モードに入っていたのでなかなか決まらず。

 1時間歩いたところでちょうど2人組のボエルのドストライクを発見したけど、ボエルは声を掛けられないとモジモジするのでフィリップが行くしかない。

 ここだけは手を離していいことになったので、フィリップはスキップでゆるふわ系の女性とギャル系の女性に近付いた。


「おね~さんっ」

「ん~? どうしたのボク~?」

「綺麗だね」

「あはっ。ありがとう」

「僕と宿屋にしけこまな~い??」

「「え……」」

「コラー!!」


 途中までは2人とも微笑ましく対応していたけど、子供が言わないセリフが出て来たのでドン引き。それはボエルもありえないと怒鳴り込んで来た。


「弟が変なこと言ってすみません」

「い、いえ……ちょっと驚いたけど」

「ほら? ライアンも謝れ」

「ごめ~んちゃいっ」

「「かわいい……」」


 フィリップがふざけた謝り方をしてみたら、けっこう高評価。なのでここは攻めてみる。


「僕たち帝都に来たの初めてなの~。お姉さんたち暇だったら、案内してほしいな~?」

「えっと……」

「す、すみません。迷惑だよな? あとで言って聞かせるんで」

「まぁ、ちょっとぐらいなら……ね?」

「そうね。ちょうど暇してたしね」

「やった~!」

「あ、ありがとう!」


 子供の無邪気さと大人の常識で、お姉さん方をゲット。ボエルもこんなことでゲットできるわけないと思っていたので喜んでるよ。


「それじゃあ、どんなところに行きたいの?」

「そうだね~……やど……じゃなくて、お姉さんたちがデートするようなところに行きたいな~。お兄ちゃんお金持ってるから、高くてもなんでも奢ってくれるよ。ね?」

「ああ。迷惑掛けるんだから、全部奢らせてくれ」

「いいんですか!?」

「キャー!」


 奢りと聞いて、お姉さん方もテンションアップ。それに見た目もいい2人なんだから、張り切って案内してくれることになった。



 ひとまずお姉さん方に前を歩かせ、フィリップとボエルは作戦会議だ。


「こんなんでついて来るもんなんだな……」

「ま、いまはお金の力っしょ。ここからは話術が必要になるからね。相槌だけは忘れちゃダメだよ?」

「お、おう……」

「それと、お兄ちゃんはどっち狙い?」

「背の低いふわふわしたほうだけど……この際、どっちでもいい!」

「なに言ってんの。アシストするから頑張りなよ」

「おう!」


 こうしてフィリップとボエルは、ナンパした子を口説き落としに掛かるのであった……


「なあ? 殿下たち、ナンパしてるんだけど??」

「俺たちは何を見せられてるんだろ……」


 周りで見てる護衛は、どうしたらいいかわからなくなっていたとさ。

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