120 カールスタード王国を出発
「ちょっと確認したいことがあるのですが……」
「まだあるの~?」
カールスタード王国最後の夜はクリスティーネの質問が続くので、フィリップも嫌そう。ただ、「なんでも聞いて」と言った手前、クリスティーネがそこを突いて来たので渋々話を聞く。
「帝国が攻めて来るってか……」
クリスティーネの確認は、帝国のことだったのでフィリップも考え込んでしまった。
「帝国の悲願は、大陸制覇と何かで読んだことがありまして……現在の皇帝陛下はそんなことを考えているのですか?」
「父上は……内部情報は言えないけど、ないと思う。ただ、考えてることはよくわからないかな~?」
「跡を継ぐのはフレドリク様ですよね? そっちは……」
「兄貴はないない。優しすぎるから、人が死ぬような戦争なんて絶対やらないよ」
「そうですか……」
フィリップの反応からクリスティーネも安心したようだけど、不安要素はまだあるみたい。
「もしも何かの間違いでフィリップが皇帝になった場合は?」
「ないない。僕が皇帝になることが一番ない」
これは大ウソ。いや、フィリップはシナリオに沿ってフレドリクと決闘したいだけだから、本心かもしれない。皇帝になっても誰かに仕事を押し付けようと考えてるし……
「もしもって言ってるじゃないですか~。それにフィリップだったら、1人で大陸制覇できちゃうかも……そんなこと考えてませんよね!?」
最終兵器フィリップの有能さも強さも、どこでも忍び込めるのも目の前で見ていたのだから、クリスティーネは心配になって声が大きくなった。
「大陸制覇か~。いいね~……」
「やっぱり……」
「全ての国の女性を抱くのは、男の夢だよね~……移動が問題だな。なんとかして、速く移動できる
「大丈夫そうですね……」
フィリップが考え込んだので、クリスティーネは「最悪なこと」を頭に思い浮かべたけど、フィリップのエロイ顔を見て「最低なこと」に意見が変わるのであったとさ。
「もういいです! もうひとつ聞きたいことがあるので、その顔やめてください!!」
「ん? ジュルッ。なになに??」
フィリップが世界中の女性に想いを馳せてヨダレまで垂らすモノだから、クリスティーネはフィリップをぐわんぐわんと揺らしてこちらの世界に呼び戻した。
「赤ちゃん……フィリップとの赤ちゃんができたらどうしたらいい?」
「へ? ……できたの!?」
でも、フィリップは地獄に叩き落とされた顔になってるよ。
「アレだけしてたので、できてもおかしくないじゃないですか?」
「セーフ!!」
フィリップがめちゃくちゃ喜ぶので、クリスティーネはまたポコポコ叩いてる。
「たぶん、大丈夫かな~? いつも最後は胸とかでしてもらってたし……」
「どういうことですか??」
フィリップは赤ちゃんができるメカニズムを丁寧に説明したら、クリスティーネは驚愕の表情。最後の最後まではしてなかったと、初めて知ったらしい……
「だから、次の女の子の日が来るまでは、他の人とはしないほうがいいかな~? 誰の子供かわからなくなっちゃうし……あ、もう数日で来るから、できないかな??」
「なんで知ってるのですか!?」
クリスティーネの体のことまで熟知しているフィリップ。この日は、クリスティーネに気持ち悪がられたり子種を狙われるのに、残りの時間はまたマッサージに戻るフィリップであった……
翌朝は、夜遅くまで起きていたフィリップはめちゃくちゃ眠そう。クリスティーネとの最後の夜だし、出発したら寝れるからと3時間程度しか寝ていないからだ。
「フィリップ殿下、2年前とは比べられないぐらいご立派になられ……ましたな! わははははは」
「……」
帰りの護衛も、ホーコンとダンマーク辺境伯兵。ホーコンはフィリップをヨイショしていたが、あまり背が伸びていなかったので途中で止まったけど、なんとか笑ってごまかせた。と、思っている。
フィリップはダグマーの後ろに隠れて睨んでいるから、バレバレだ。あと、朝っぱらからの大声は殺意が生まれるから睨んでるっぽい。
とりあえずフィリップはホーコンと軽く挨拶をしたら、授業を中止してまで見送りに来ている生徒たちの最前列に立つラーシュに声を掛けていた。
「今まで護衛、ご苦労様。最初は堅苦しいヤツだと思っていたけど、けっこう楽しかったよ。ありがとね」
「はっ! もったいないお言葉で。私も殿下のことを、少し勘違いしておりました。時々ですが、ご立派な姿に感動しました!」
「ラーシュ君。大声でそんなことを言われると、僕の立場がね……変わんないか。アハハハハハ」
「そういう寛大なところも好感を持てました。あははははは」
軽く嫌味を言い合った2人は、握手してハグ。思ったよりフィリップも、ラーシュのことを気に入っていたみたいだ。
それからカラフル王子にも少し声を掛けていたら、カールスタード兵や豪華な馬車がやって来たのでホーコンたちが構えたが、フィリップはダグマーにゴニョゴニョ言って通してもらった。
フィリップの目の前に止まった馬車から出て来たのは、
「あ、女王様だ~。最後にオッパイ触らせてくれるの??」
でも、フィリップの発言で、全員「ズコーッ!」ってこけかけていた。昨日別れを済ませてサプライズ登場なのに、フィリップはよくこんな対応できたモノだ。
「フィリップ殿下は相変わらずですね。これでよろしいですか?」
「オッフ……」
クリスティーネはフィリップの顔を胸で挟むように抱き上げた。
「カールスタード王国は、帝国のお口添いのおかげで生まれ変わることができました。皇帝陛下に感謝しているとこの口でお伝えしたいところですが、私はもうしばらく国を離れることができません。その代わりに、フィリップ殿下に多大な感謝を……」
「ぐるじ~~~」
「ウフフ。申し訳ありません」
クリスティーネはフィリップを下ろすと、頬にキスをして一歩下がった。
「父上には、そのオッパイ……じゃなかった。その旨、必ず伝えるよ。カールスタード王国の益々の発展、僕も祈っているね」
「はい……本当にありがとうございました。私も、フィリップ殿下と帝国が健やかなることを祈っております」
「ちょっとしゃがんで~」
クリスティーネがしゃがむと、フィリップも頬にキスをしてから馬車へと乗り込む。
「みんな~! 愛してるよ~!! バイバ~イ」
そして馬車の入口でフィリップは振り向き、クリスティーネを見詰めて声を掛け、馬車は走り出したのであった……
「殿下……大丈夫ですか?」
走り出した馬車の中では、ダグマーが心配そうにフィリップを抱き締めていた。
「ううぅぅ……なんでもないぃぃ~……うわ~~~ん」
「そんなに泣くほどの思い入れがあったように見えなかったのですが……」
学校を休んでばかりいたフィリップが何故か大泣きしているからだ。そのせいで、最後の「愛してる」発言は誰に言っていたのか聞けないダグマーであった。
同時刻、クリスティーネも同じように馬車の中で涙していた。
この2人は初めての恋人と失恋を経験したのだから、涙が止まらなくなってしまったのであろう……
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